5Gとはなんぞや
5Gってよく聞くけど、実際のところ5Gはなんなんだよ!
そもそもどんなシステムなんだよ!
という疑問について、ゆるく説明します。
《基地局とは》
移動電気通信のシステムは、交換局、基地局、端末からなります。
携帯電話などの通信がどの様に行われているかと言うと、エリア内にある交換局に多数の基地局が接続され、各々の基地局がアンテナから電波の届く範囲(ゾーン)内にある端末と電波で通信を行います。ゾーンの半径が20km程度のものを大ゾーン、数kmないし数百mのものを小ゾーンまたはセルと呼びます。大ゾーン方式はポケットベルやタクシー無線、小ゾーン方式は携帯電話やPHSに使われています。
基地局は一般的に携帯電話基地局を指し、これは携帯電話と直接交信する装置です。言わば「電波の中継所」です。基地局はカバーできる範囲や通信量に制限がある為、至る所に設置されています。
また、基地局は制限範囲があるため、交換局が相手の基地局へ中継する役割を担っています。
┗基地局の種類
基地局はアンテナと送受信機で構成され、その規模(設置場所や機能)に応じて様々な種類があります。
・鉄塔タイプ
・ビル屋上タイプ
・小型基地局
・屋内基地局
「携帯電話基地局とわたしたちの暮らし」総務省
因みにですが、5G等の新規格が登場して基地局が増えると、キャリア等の通信事業者だけでなく、工事業者等も基地局の設置工事による収益が増えます。また、後述しますが5GはIoTとの関連性が強いため、様々な業種に影響を及ぼします。
┗国の規制
・電波法:
電波は、互いが干渉することで正常な通信を行えず混乱をきたしてしまう恐れがあるため、厳密な規則で管理されています。電波法はテレビやラジオの放送局などを含めた、すべての無線局に関する免許・設備・従事者・運用・監督・罰則などに関する規則を定めています。
また、周波数は使用目的などに応じて割当されています。
(参照:「第4世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設計画の認定について」 総務省)
また、事業に関する法規制として、電気通信事業法がある。
(参照:「電気通信事業法について」 総務省)
┗基地局の整備
基地局がなければ、私たちが普段使用しているスマートフォンの通信も利用できません。携帯電話の通信網は今や重要なインフラであり、災害発生時のライフラインにもなり得るほど重要です。しかし、実際は採算性の問題から不感地域が発生している現状です。この問題に対しては国庫補助金などの助成があります。
(参照:「携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会報告書」 総務省)
《5G(第五世代移動通信システム)とは》
┗移動通信システムとは
そもそも移動通信(移動体通信)とは、携帯電話や無線機など移動可能な端末(移動体)の電気通信を指します。
例:無線LANなどは移動範囲が制限される為、移動通信とは呼びません。
なお、5GのGはGeneration(世代)です。通信規格の変化を表す業界用語として広く認知されています。
┗ 第1世代〜第4世代
「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」 総務省
第1世代:アナログ無線技術のモバイルネットワーク
第2世代:デジタル無線技術を用いたモバイルネットワーク
(第2.5世代:CDMA(3Gのコア技術で、混線を避け通信の高速化が可能)を用いて商用化したもの)
第3世代:「初の世界標準」と「継続的で急激な高速化」を実現
マルチメディアに対応した高速データ通信が可能になった。
→第3世代より前は地域毎の技術に基づき商用化された「地域限定携帯電話」だった。
第4世代:LTE等の高速化技術(実際は3.9G)、50M~1Gbps程度の超高速通信
(→参照:「5G」時代へ。1から4世代までの通信ネットワークをおさらい ニュースイッチ)
┗第5世代
第4世代までが電話やインターネット、動画視聴など「移動端末のための技術」だとするなら、第5世代は 「あらゆる端末のための技術」と呼べるかもしれません。
「5G時代のモバイルインフラシェアリング拡大に向けて」
みずほ銀行 産業調査部
5Gの特徴は「高速大容量」、「低遅延」、「大量接続」です。
5Gではその特徴から、IoTを始め様々な分野における利活用が可能です。
(建設、自動車、デジタルコンテンツ分野など...これらとプレーヤーについては後日新しい記事を作成します。)
5G(第五世代移動通信システム)について 野村総合研究所
(3つの特徴を実現する技術として、超高速実現に必要となる数百 MHz 幅の周波数帯域への対応、広帯域を確保できるミリ波などの非常に高い周波数への対応、低遅延を実現する無線フレーム構成、Massive MIMO技術によるカバレッジの拡大やセル容量の拡大を実現しています。)
ただし、企業にとっては必ずしも5Gの選択が最善とは限りません。
また、5Gには以下のようなデメリットもあります。
・より多くの基地局が必要になる
凡ゆる端末(モノ)が通信サービスの対象になるため、「人がいる場所」ではなく事業可能性がある「モノがある場所」に電波を飛ばす…基地局を設置する必要があります。
また、5Gは周波数を高くし、大容量・低遅延での伝達する事を可能にしています。しかし、周波数が高いほど電波は直進し、波長は短くなります。これもより多くの基地局を必要とする原因になります。
「5G 時代の携帯キャリアの競争戦略」
みずほ銀行 産業調査部
・必要な設備投資費の増大
上記の通り、多くの基地局が必要になるため、基地局の設備投資費用が増大します。加えて、電波伝搬損失が大きくならないよう、アンテナに多くの素子が必要になるため、これも基地局の単価上昇に寄与していると言えそうです。
┗インフラシェアリング
上記の通り、5GやIoTを普及させるには通信インフラに対する多額の設備投資が必要になります。また、足元では通信料の値下げ圧力が強まっています。インフラシェアリングはこれらの課題を解決する手段と言えるでしょう。
併せて、政府は早期段階で5Gを地方にも広げることを推奨しています。
・インフラシェアリングとは
モバイルインフラの構成は、大きく3つに分類できます。
①基地局設置場所(タワー):基地局とその構造物
②RAN(Radio Access Network):基地局(無線設備+アンテナ)等で構成されるネットワークの総称
③コア(Core Network):加入者データベース(HLR/HSS k)など
一口に「インフラシェアリング」といっても、その内どの部分をシェアリングするかによって効果が異なります。
「5G 時代のモバイルインフラシェアリング拡大に向けて」
みずほ銀行 産業調査部
タワーなどの設備的な部分(パッシブインフラ)に関しては、経済・技術・競争戦略的な面からもインフラシェアリングの導入が容易です。そのため海外を初め、多くのインフラシェアリングはパッシブインフラを対象とするものが主となっています。
また、パッシブインフラは用地確保が必要である事や、原材料費が高額となる事からも、シェリングの意義は大きいと考えられます。
・インフラシェアリングの目的
①1社当たりの設備投資費用、ネットワーク費用(保守・電力費用等)削減
②機動的なエリア展開の実現
③不採算地域のネットワーク整備
・インフラシェアリングの普及要因
①カバーエリアの広さ
②コスト並びに債務の圧縮
③通信事業者数
また、後述するMVNOなどもインフラシェアリングに参加していると言えるでしょう。
《5Gの現状とこれからの戦略》
┗各国の5G活用動向
5Gの商業利用に関しては米国・韓国がリードしており、欧州の一部と中国がそれを追いかける構図となっています。
「5G 時代の携帯キャリアの競争戦略」
みずほ銀行 産業調査部
特に韓国は経済における財閥の影響力が大きいことや、中国のHuaweiとの競争もあり、政府主導で「5G+戦略」を推進しています。
┗各ステークホルダー
「市場規模1兆ドル超 !? 5Gのグローバル動向とこれからの産業」
富士通ジャーナル
《通信事業者の財務体質》
○市場
・ NTTドコモ:37.6%
(前期比▲0.1ポイント、前年同期比▲0.7ポイント、MVNOへの提供に係るものを含めると43.2%)
・ KDDIグループ:27.7%
(前期比、前年同期比ともに+0.2ポイント、MVNOへの提供に係るものを含めると31.4%)
・ ソフトバンクグループ:22.1%
(前期比▲0.4ポイント、前年同期比▲0.7ポイント、MVNOへの提供に係るものを含めると25.4%)
「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 (令和元年度第2四半期(9月末))」 総務省
「令和元年 情報通信白書」 総務省
┗MNO(移動電気通信業者、キャリア)
NTTドコモやKDDI、ソフトバンク
①収益構造
移動電気通信業者の営業損益は、通話収入が主体の電気通信事業部門と、端末販売が中心の付帯事業部門から構成されます。
1)通信機メーカーから端末を仕入れ(付帯事業の営業費用)、販売代理店に卸す(付帯事業の営業収益に計上)
2)契約成立時に販売代理店に対して販売奨励金を支払う(電気通信事業の営業費用に計上)
3)販売奨励金は加入者が支払う基本使用料・通話料(電気通信事業の営業収益に計上)で回収
※販売奨励金について
販売奨励金はゼロ円端末などの課題を誘引します。例えば、端末がゼロ円になった場合、そのコストをどこかで回収する必要があり、これは加入者の基本使用料などで賄われるため高額な基本料金・通信量に繋がります。
販売代理店は販売奨励金によって端末価格を低単価に抑えています。販売奨励金を削減すれば移動電気通信業者にとっては利益向上につながりますが、代理店による端末販売価格が高くなるため、加入者獲得競争で不利に働きます。また、加入者が大きく伸長した決算期は販売奨励金が先行的に発生し、損益(PL上)は伸び悩む傾向にあります。
キャリアにとって販売奨励金の廃止は費用の減少となるが、端末価格が上昇すると新規契約の減少につながる。このため、キャリアについても短期的には業績に影響が出る可能性が想定される。
②注意事項
通信事業はインフラ産業であり、資産の大半は通信事業に関連した固定資産が占め、かつ金額も大きい傾向にあります。
したがって、固定資産については適正な減価償却が実施され妥当な評価額で計上されているか確認する必要があります。
例:通信設備の減価償却がそのサービス提供期間と見合っているか、すでに陳腐化した通信設備を資産計上し、将来的に除却損が発生する可能性はないか...等
※ソフトバンクグループの財務諸表は投資、財務、現金のCFがNTTドコモやKDDIのそれと全く異なるため、もはや移動電気通信業者ではないのでは…
③収益改善策
最もベーシックな収益改善策は「ARPUの向上」でしょう。
・月次ARPU(Average Revenue Per User):利用者1人あたりの月間平均営業収益
・MOU(Minutes of Use):1利用者当たり月間平均通話時間
・ARPPU(Average Revenue Per Paid User):課金ユーザー1人あたりの平均売上金額(ゲームアプリ等で頻出する指標)
NTTドコモの例を見てみましょう。
総合ARPU:モバイルARPU+ドコモ光ARPU
(参考:NTTドコモ 事業データ IR)
例えば、携帯電話の月額定額料金の低廉化圧力などがあった場合、ARPUが低下することがわかります。また、MVNOやキャリアのサブブランドの拡大もマイナストレンドの要因になります。
一方で、5Gや家族割などの大容量サービスは高単価となるため、ARPUが上昇します。(例:ASEAN諸国では3Gが主流のため、通信規格のアップグレーィックの増加余地が大きい→中期目線でARPUはプラストレンド)
また、契約者数増加も収益増加の大きな要因です。上記の要因も含めて、新企画・新機能、端末価格などで競合に先行することが重要です。
┗日本におけるMNO、今後の戦略
日本において携帯電話の通信料金は海外と比べても高額であり、これ以上ARPU(客単価)を向上させるのは難しい現状にあります。
「5G 時代の携帯キャリアの競争戦略」
みずほ銀行 産業調査部
そのため、通信事業以外の自社サービス全体での収益構造を構築することが重要になります。つまり、通信キャリアはARPUの改善だけでなく、LTV(Life Time Value:ユーザー一人に対して様々な自社サービスから得られる生涯収入の総額を表す指標)の最大化を目指す必要があります。
今後の通信事業に関しては、5Gによりサービスが向上し顧客単価が上昇する事による収益性の改善が期待されます。ただ現時点では顧客にとって5Gの恩恵を受け得るサービスがないため、キャリア各社にとっては5Gインフラ整備やコンテンツの充実が待たれます。
今後の戦略としては下記の2つが考えられます。
①インフラ投資先行型
5Gインフラの整備と5G由来のコンテンツ強化に注力することで、5Gの初期段階から他社に先行してユーザーを獲得しシェアを確率する戦略です。上述の通り現在は未だユーザーも5Gの恩恵を感じ難い状況にありますが、インフラが充実しフル5G時代に突入すれば具体的なサービス(VRや低遅延高画質のビデオ通信など)を提供することが可能になります。これが付加価値となり、事前に確立した顧客基盤から一気に通信事業の収益性を改善します。
また、通信事業の盤石な顧客基盤から安定的に供給されるCFを元に周辺領域に投資することも可能です。
リスクとしては、費用が先行するため強固な財務基盤が必要になること、またユーザーの5G需要が高まらず収益化できなかった場合に費用を回収できない点が挙げられます。
②周辺領域投資先行型
通信インフラへの投資よりも周辺事業(ECやモバイルペイメント…〜ペイなど)での顧客獲得を優先する戦略です。周辺領域で囲い込んだユーザーを自社携帯サービスのユーザーとして取り込み、フル 5G時代に通信を含めた自社経済圏全体でLTV を最大化することを目指します。インフラ投資先行型と対照的に初期段階の局所的な5G投資額を抑えるため、インフラシェアリングの積極的な活用が考えられます。
リスクとしては各周辺領域には専門性を有する競合他社が多く存在するため、競争の激化が考えられます。各分野では結果的に後発になるため、多額の投資や積極的な事業・企業の買収が必要になると思われます。
┗MVNO(仮想移動体通信事業者)
大手の移動体通信キャリア(伝送設備や基地局等を保有)から回線等を借りて、個人や企業に対して、独自のブランドで移動通信サービスを提供します(MVNOは政府から電波の割当を受けていない)。一般的にMVNOは安価な料金プランや付加価値を武器としているケースが多いと言えるでしょう。
MVNOそのものの競合が多く、大手移動体通信事業者も競合となるため、価格面以外でも、消費者のニーズを捉えた独自の付加サービスを展開する必要があります。
①MVNOの種類
MVNOには切り口毎に様々な呼び名があります。
難しい箇所は読み飛ばしていただくか、リンク先の資料をご参照いただければと思います。
○2次MVNO、3次MVNO
MVNOから回線を借りている事業者を2次MVNO、3次MVNOと呼びます。
○接続形態
中継パケット交換機を有しているのがMVNOかMNOかによって呼び名が変わります。ここでは「OSI基本参照モデルのレイヤー」が重要になります。
MNOとMVNOの接続形態は下記の2パターンになりますが、かなりざっくり言うと以下のような特徴があります。
レイヤー2接続:ホストネットワーク層…中継パケット交換機を保有
〈メリット〉IPアドレスの発行や認証、セッション管理を行うことが可能→自由度の高いサービス展開が可能
〈デメリット〉中間パケット交換機など数億円規模の設備投資が必要
レイヤー3接続:インターネット層…中継パケット交換機を持たない
○加入者管理機能(フルMVNO・ライトMVNO)
「フルMVNO」はNTTドコモ等MNOの設備を利用せずにコアネットワークの一部を自ら運用してサービス提供を行う事業形態です。特に加入者管理機能(HLR/HSS)を自ら運用することで、独自のSIMカードを発行することや、eSIMの提供などが可能になります。MNO指定のネットワーク回線やSIMカードの仕様を用いる必要がなくなるため、ネットワークや契約形態の自由度が増します。
※加入者管理機能(HLR/HSS):携帯電話の通信ネットワークを利用するために必要な、ユーザー情報を管理するデータベース
※eSIM:書き換え可能なSIMで、様々な媒体にSIMを利用可能になるため、IoT分野での利活用も期待される
※ライトMVNO:フルMVNO以外
○MNOであるMVNO
UQモバイル(UQコミュニケーションズ)など、MNOの「サブブランド」として子会社等がMVNOサービスを提供するパターンです。
②契約数の推移
契約数は下表の通り、MVNOサービスの事業者数と同様にプラストレンドで推移しています。
「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 (令和元年度第2四半期(9月末))」 総務省
この流れの中で、「MNOサブブランドによる競争激化」がMVNOに攻勢を仕掛けている。MVNOは基本的にMNOより廉価になる傾向がある。事業採算性も低く、中小企業が多いため、多額の広告宣伝費を投じることは難しい現状です。
その中で、大手MNO(キャリア)はサブブランドの強化に注力しています。低価格志向層向けの廉価版自社ブランドとしてMVNOに参入した方が、他のMVNOに顧客が流出するより良いと言えるでしょう。
③財務体質
MVNOはMNO等から回線等を借りています。MNOの減価償却費が大きくなるのに対し、必要な設備投資は少なく、製造原価に含まれる減価償却費は些少となります(MNOに支払う月額接続料等に負担分の減価償却費が分割されて含まれます)。また、多くのMVNOでは実店舗を持たずにWeb上での販売・サポート展開を行っているため、販管費もMNOと比較すると大幅に圧縮される傾向があります。これらから、MVNOの営業利益率はMNOのそれを上回ると予想されます。
MVNOでは加入者からの月額料金を収入源とする一方で、MNOに対して月額接続料等を支払うことから、流動資産の割合は意外と小さくなると思われます。
※月額接続料金:MVNOはMNOに対し、契約条件で取り決めた帯域速度・容量分の月額接続料等を毎月支払います。
→追加で帯域速度・容量を確保した場合、月額諸費用が増額されることになります。利用者の急増等に伴って帯域速度・容量が上振れた初月では、決済時点差によって月額諸費用の支出(当月)が月次収入(前月)を超過する可能性があります。