要約:なぜわれわれは死ぬのか 第11章

この章と次章はアンチエイジング技術や産業が社会に与える影響について議論している。

不老不死は人類の長年の夢であった。エジプトのミイラや現在の精子や卵子の凍結保存はその例である。死後に人体を冷凍保存して、後に解凍するというクライオニクスも考えられている。しかし、死の直後に細胞は生化学的な変化を起こし、生きている状態のままではいられない。特に脳のニューロンのつながりを維持あるいは再現することは難しい。凍結した脳の実際の状態を再構築することはおろか、その時点からどのように「思考」するかを予測することもできない。

脳はニューロン間の結合を伝わる電気インパルスだけで働いているわけではない。脳内と身体の他の部分から発せられる化学物質にも反応する。その動機付けは、臓器に由来するホルモンによって大きく左右され、空腹感などの基本的な欲求だけでなく、内発的な欲求も含まれる。

ヒトを死から救うための他のアイデアが考えられている。年をとるよりも早く平均寿命を延ばすことができれば、言い換えれば、平均余命が毎年1年以上延びれば、死から完全に逃れることができるというものである。デ・グレイはこれを "脱出速度 "と呼んでいる。彼は7つの重要な問題を解決すれば老化に打ち勝つことができると提案している:(1)時間の経過とともに失われたり傷ついたりする細胞を補充する、(2)老化細胞を除去する、(3)加齢に伴って細胞周囲の構造が硬くなるのを防ぐ、(4)ミトコンドリアの突然変異を防ぐ、(5) 加齢とともに硬くなる細胞の構造的支柱の弾力性と柔軟性を回復させる、(6) テロメアを長くする機構を取り除いて、がんにならないようにする、(7) 幹細胞を再設計して、細胞や組織が萎縮しないようにする。しかし、多くの老年学研究者は彼の提案は非現実的だと批判した。

企業や一部の研究者はアンチエイジングのサプリによって寿命を延ばすことができると主張する。現在、老化と長寿に焦点を当てたバイオテクノロジー企業は700社を超え、その時価総額は少なくとも300億ドルに達している。しかし、その多くには疑いを向ける必要がある。抗酸化物質は、人によっては健康に役立つかもしれないが、人間の老化に効果があるという証拠はない。テロメアの短縮は細胞の寿命を制限する役割を果たすかもしれないが、長寿の種は短命の種よりもテロメアが短いことが多く、テロメアの短縮がヒトの寿命決定に関与しているという証拠はない。アンチエイジング医学の名目で売られているホルモン・サプリメントは、承認された医療用として処方されたものでない限り、誰にも使用されるべきではない。カロリー制限は多くの生物種でそうであることから、人間の寿命を延ばすかもしれない。しかし、カロリー制限を模倣した薬物はさらなる研究に値する。

しかし、DNA修復による老化の研究には他より有望なものがある。そのひとつは、加齢に伴う "悪玉 "タンパク質やその他の分子の蓄積を防ぐことである。すなわち、それらを認識して廃棄するか、あるいはタンパク質の生成速度やプログラムを遅くしたり変化させたりして、身体がこれらの変化に対処できるようにするのである。山中因子に一過性にさらされることで、動物を若返らせると同時に、ガンのリスクを最小限に抑えようとしている。このアプローチの初期の結果は十分に有望であり、この戦略をめぐって多くの新興企業が誕生している。

多くの人は、死を恐れるよりも、その前に起こる衰弱の長期化を恐れている。加齢に関連した病気の結果、不健康な状態で過ごす年数を減らすことで、健康寿命、つまり健康でいられる年数を延ばすことは、価値ある目標であることは、ほとんどすべての人が認めるところだろう。不健康な状態で生きている割合をフリースは罹患率と名付けた。

罹患率の圧縮は、2つの前提の上に成り立っている。すなわち、老化のプロセスを変化させ、老化病の発症を先延ばしにすることができるということと、人生の長さは決まっているということである。第2の前提についていえば、加齢に伴う疾患の治療の進歩が寿命を延ばし、不健康な状態で生きる年数を増加させる。

狩猟採集生活をしていた私たちの祖先は、おそらく老年期の罹患と長い年月を過ごすことはなかっただろう。その代わり、健康でなくなった瞬間に飢えたり、病気で死んだり、肉食動物に食べられたり、仲間に殺されたりすることが多かった。罹患率を圧縮することだけが目的なら、人々は健康な間に決められた時に安楽死すれば良い。

ただし罹患率の定義はあいまいだ。著者は高コレステロールと高血圧の薬を服用しており、慢性疾患と呼ばれるかもしれないが、自転車やハイキングなど好きなことはほとんどできる。

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