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フルニトラゼパムアクセサリーの話

本格的に本職の勤務が始まる前に急いで図面を作っておこうと,とにかくたくさん図面を作りためているのだが,みなさんにゆるされたために(?)完全に趣味が暴走していて,図面を作り出すと寝食も忘れて取り組んでしまう.構造式自体はわたしのオリジナルデザインではなく,科学をやるひとならみんな描けるものなのだが,たとえば立体構造が絡んでくるとその中でも「一番美しく平面に落とし込む描き方」みたいなのを模索したり,カンをどこにつけるか(あるいはつけないかで)バランスを考えたり,結合長や結合の向きを変えて全体のバランスや見た目を整える作業があって,芸術系の両親から刷り込まれたアートのセンスと知識を動員しないとできない仕事である.以前,構造式のアクセサリーを作っていますと言ったら「じゃあデザイナーさんというわけではないんですね」と言われたのは未だに納得が行っていなくて,かといって自分でゼロからデザインしているわけでもないのでデザイナーを名乗るのも歯痒く,せめて「イラレとCADとレーザーカッターを使ってなんらかのものが作れる人間」と呼んでほしいなとは思う.

わたしがここ数年メインでアクセサリーのトップ部分に用いているパーツはアルマイトといって,アルミの表面に細かい筒をいっぱい生やしてその中に染料を入れて様々な色に染色するという金属素材なのだが,いままで基礎パーツが金銀黒しか揃えられないからという理由でそれらのカラーしか作ってこなかった.だがよく考えたらべつに基礎パーツの色とトップの色を揃えなければならないという法律はどこにもなく,むしろ何色にも染色できるというアルマイトの良さが活かしきれていないということに気がついたので,何か他の色がついたパーツを作ってみたいなと思ったのが今回のきっかけのひとつ.

フルニトラゼパムは前々から作ろうと思っていた化合物で,トリアゾラム(ハルシオン)を作った時にトリアゾラムとフルニトラゼパムどちらにするかで悩んで「自分がどちらかといえばトリアゾラムにより世話になっているから」という理由でトリアゾラムを作った.なぜこのふたつで悩んでいたかというと,どちらもベンゾジアゼピン系で,ふたつ作ると内容的に被るかな...と思ったからなのだが,後から考えたらアドレナリンとノルアドレナリンとか両方ともあるし,被るとかなんも気にしなくてよかったですね.

そして今回,かつてノベルティで配布した"1本多いシトシン"と似た間違いを繰り返し,パーツが手元に届いてテンション爆上げだったところで唐突に構造式のミスに気がついて一挙に地獄に突き落とされた.図の赤矢印の部分に二重結合が1本足りない.これも"1本多いシトシン"もすべて,構造式の画像をアウトライン化するだけというやり方ではなく,地道に多角形や円を組み合わせて図面を作っているため,長方形の足し忘れや消し忘れが発生することに起因する.

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気づいてからパーツを爆速で作り直したのだが,作り直して気づいたミスが実はもうひとつあって,板の厚みも間違えていて1mmが半分の0.5mmになっていた.なんかよく曲がるなあやわらかいなあと思っていたのだが,小さいからかなと勝手に納得していた...よく考えたら面積が小さいほど硬く感じられるはずなのに...アホ...

そしてとうとう完成したみなさんお待ちかねのフルニトラゼパムアクセサリーがこちらです,ジャジャン!!!

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発表後から早速「ほしい」「買いたい」とのお声をたくさんいただいており非常にうれしいのですが,フルニトラゼパムの耳飾りを乗せたEMSが本日とうとう東京に到着した模様です.さっき見たら「国際交換局から発送」になっていたのでたぶん明日実家に着くと思う.着いたら最速でラフォーレに持っていってもらいます.

ところでなんで青なの?ってひとも結構いると思うので(実際説明書いたら「だから青だったんだ」という引用RTもいただいたし),フルニトラゼパム自体の説明もします.一番の理由はわたしがしたいので.

フルニトラゼパムはサイレースという睡眠薬(むかしはロヒプノールもあったけど日本では中外製薬からエーザイに製造権が移管してサイレースに一本化された)の一般名で,ベンゾジアゼピン系の中でももっとも高火力なおくすりのひとつ.中間型だが,前半に一気に作用し,実質的に短時間型である.だが中間型なので薬が完全に抜けるまでに時間がかかる.重症の不眠患者(ほかの眠剤に反応しない患者や入院患者など)にのみ処方すべきとされているが,結構みんなぽんぽん処方されている感がある.
催眠作用が非常に強いため,不眠症がない健康体のひとが飲むと半日から1日寝てしまうともいわれる.それどころか,数多くの薬物を用いたレイプ被害の経験をよく聞くと(そうしなくてもOD者の自分語りを聞けばよい),周りから見れば普通に行動しているのに本人にはその記憶がないという前向性健忘の症状が現れることが多々ある.そのため,クラブドラッグやレイプドラッグとして使用され,闇で流通していることが多い.多くは本人が席を外したうちに酒などの飲み物に混ぜられ,知らないうちに飲んでしまい,昏睡状態あるいは健忘状態のときにレイプされるという事例である.

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それらの犯罪を防ぐため,製薬会社は錠剤内部に青色1号色素を添加するようにした.上の写真の錠剤は薄青色に見えるが,錠剤を割るとパーツと同じような濃い青色が現れる.かつては青い酒といったらブルーキュラソーくらいしかなかったので(酒を飲まないのであまりわからないのだが...)酒が青色に変わればすぐわかる,ということで青色が選ばれたのであろう.
ところが,最近天然色素(おそらくはバタフライピーか?)で着色されたという青いワインなどの青色の酒がSNS上で大人気である.さわやかな水色は確かに美しい.しかし,青色の酒が見慣れたものになってしまったら,サイレースに添加された青色1号色素の存在意義はいったいどこへ行ってしまうのか.わたしはそれをずっと危惧していて,今回このアクセサリーを作ったもうひとつの大きな理由として,「フルニトラゼパム錠を溶かすとこの色になる」ということを心に留めておいてほしい,ということがあった.
「薬は苦い」という偏見があるが,フルニトラゼパムは無味無臭である.味では気づけないのだ.見た目の美しさをみんなでちやほやしている陰で,レイプ被害に苦しむひとを増やす結果になってはいけないとわたしは切に思う.

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「アビガン(コロナに効くとされる薬)のピアスがお守りピアスなら,これは護身ピアスだ」という引用RTをいただいた.このフルニトラゼパムピアスを着けた女の子のドリンクに睡眠薬を入れようとしているわるい男の人に,女の子が「このピアスなんだと思う?フルニトラゼパムっていう睡眠薬の構造式だよ♡」と言ってぎくっとさせられたらそれでわたしは目標達成ですね.でも自分の身を守るのは結局自分自身だよ,みんな!

あとついでに言うと...アンケートをとってみたら知名度はフルニトラゼパムが1位,次点でサイレース,販売中止からまあまあ経ったためかロヒプノールが最下位だった.これはラベルをどう表記するか悩んだ結果のアンケートだったのだけれど,トリアゾラムは「トリアゾラム」と「ハルシオン」で比べたら「ハルシオン」が圧倒的に知名度が高いので,迷わず「ハルシオン」にしたのだが,フルニトラゼパムは個人的には3つとも聞き慣れているのでどう表記したものか悩んだ.いつも英語を書いて下に日本語を書くのだけど,日本語部分を「フルニトラゼパム」にするか,「サイレース」にするか「サイレース | ロヒプノール」にするか,かなり頭が痛い問題だった.今まで薬系は「アビガン」「ハルシオン」「リタリン | コンサータ」とすべて商品名なので,統一性を出すなら「フルニトラゼパム」はボツなのだが,伝わりやすさを重視するとフルニトラゼパム...と思って結局「フルニトラゼパム」に.それにしてもトリアゾラムのほうが歴史が古いのにフルニトラゼパムより一般名が浸透していないのおもしろいね.

EMSが間に合ったら11日からRAVELさんのラフォーレ原宿ポップアップ(2Fにて開催)に並びます.間に合ったらだけど...もしかしたら通販掲載には間に合わないかもしれないけど...そしたらみんなごめん...

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間に合わなくてもハルシオンとかリタリン・コンサータとかコカインとかモルヒネとかニコチンとかあるからみんなぜひ見に行ってね!他の作家さんたちの"性癖をブッ刺してくる感"のあるアクセサリーもたくさんあるよ!一見の価値あり!

corvusのいろいろ↓
lit.link/scientia

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