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27年間の潜水調査で明らかになったクラゲ類の意外な重要性

深海は地球上で最大の生態系を形成しています。しかし、その広大さのためアクセスやサンプリング難しく、深海生物の食性や食物網に関する情報はこれまで断片的にしか分かっていませんでした。モントレー湾水族館研究所 (MBARI) の研究チームは過去27年間にわたって有人潜水艇 (ROV) を用いて深海探査を行い、カリフォルニア沖の水深4000メートルまでの深海で撮影された膨大な映像記録を分析しました。その結果、クラゲやクシクラゲといったゼラチン状の生物が深海の食物網において極めて重要な役割を担っていることが明らかになり、従来の生態系モデルを覆す可能性が出てきました。

従来の研究方法の限界とROVの強み

従来、深海の食物網の研究は主にトロール網による生物の捕獲と胃内容物の分析によって行われてきました。しかし、トロール網はゼラチン状の生物を傷つけやすく捕獲効率も低いため、これらの生物の食性や重要性を十分に評価することができませんでした。また、胃内容物の分析だけでは消化の進んだ餌生物を特定することが難しいため、短期間の食性しか把握できないという問題点がありました。

一方、ROVは高精細カメラで深海の生態系を直接観察できるため、クラゲなどの生物を含む多様な生物の行動や相互作用を詳細に記録することができます。また、ROVはトロール網のように生物を傷つけることなく観察できるため、より自然に近い状態での食性を把握することができます。

深海の「ゼリーウェブ」:クラゲ類の意外な重要性

MBARIの研究チームは1991年から2016年にかけてカリフォルニア沖で行われたROVの潜水調査で撮影された映像記録の中から、計743件の捕食行動を特定し、84種類の捕食者と82種類の被食者の関係を分析しました。その結果、これまで深海の食物網において「トロフィック・デッドエンド」(食物連鎖の行き止まり)と考えられてきたクラゲ、クシクラゲ、ヒドロ虫などの刺胞動物が、実際には非常に活発に捕食活動を行っていることが明らかになりました。

特に、ナルコメドゥサと呼ばれるクラゲの仲間は16種類もの生物群を捕食していて、その食性の広さは深海で繁栄するイカ類に匹敵するものでした。また、クシクラゲやクダクラゲの仲間も多様な生物を捕食し、深海の食物網において重要な役割を担っていることが明らかになりました。

これらのゼラチン状の生物は、従来の食物網モデルでは大型魚類やクジラなどの高次捕食者にほとんど利用されていないと考えられていました。しかし、近年の研究ではマグロやマンボウなどの大型魚類、オサガメ、深海性のタコなどもクラゲ類を積極的に捕食していることが明らかになってきています。

引用元

タイトル:Deep pelagic food web structure as revealed by in situ feeding observations
URL:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2017.2116
著者:C. Anela Choy , Steven H. D. Haddock and Bruce H. Robison

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