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巨大なクロマグロの省エネ遊泳術を解明

高速遊泳で知られるクロマグロ。2019年の研究により、彼らの省エネ遊泳術が明らかになりました。水深の浅いセントローレンス湾を遊泳するタイセイヨウクロマグロは潜水時に揚力を利用して長時間滑空することで移動に必要なエネルギー消費を大幅に削減していることがわかりました。

高速遊泳で知られるマグロは、その高い運動能力を支える生理学的・生物力学的特徴から生態学者、工学者など幅広い分野の研究者から注目を集めてきました。近年、バイオロギング技術の発展によりマグロの回遊や鉛直移動パターンに関する理解は飛躍的に進歩しましたが、自然環境下における遊泳メカニズムの解明は遅れていました。

これまでの研究では、マグロの遊泳能力は主に水槽内での観察に基づいて評価されてきました。しかし、水槽という限定された環境ではマグロは本来の遊泳能力を発揮できない可能性があり、自然環境下での行動を正確に反映しているとは限りません。

そこで、米スタンフォード大学の研究チームは自然環境下におけるタイセイヨウクロマグロの遊泳メカニズムを解明するため、カナダのセントローレンス湾で加速度センサー、ビデオカメラなどを搭載したバイオロギングタグを装着したクロマグロを放流し、その遊泳行動を詳細に記録・分析しました。

その結果、タイセイヨウクロマグロは持続的な遊泳に加えて、2種類の断続的な遊泳を使い分けていることが明らかになりました。1つは、活発な高速遊泳と短時間の滑空を交互に繰り返す「バースト・コースト遊泳」と呼ばれるもので、水平方向の移動でよく見られました。もう1つは、負の浮力を持つ魚に特徴的な「2段階遊泳」と呼ばれるもので、主に潜水時に観察されました。

2段階遊泳ではクロマグロは潜水時に体の傾斜角度を約29度に保ちながら、揚力を利用して長時間滑空し、推進力をほとんど必要としないことがわかりました。一方、浮上時には約17度の角度で上昇し、活発に尾びれを動かしていました。これは、潜水時には負の浮力を利用してエネルギー消費を抑え、水平方向への移動距離を稼ぎ、浮上時には速やかに水面に戻るための行動であると考えられます。

さらに、クロマグロは遊泳速度を調整する際、尾びれの動かす頻度だけでなく、滑空時間の割合も変化させていることが明らかになりました。潜水時の遊泳速度は主に滑空時間の割合によって決まり、尾びれの動きは補助的な役割を果たしていることがわかりました。一方、浮上時の遊泳速度は主に尾びれの動かす頻度によって決まり、滑空時間の影響は比較的小さくなっていました。

これらの結果から、タイセイヨウクロマグロは体の浮力と揚力を利用することで、エネルギー消費を最小限に抑えながら効率的に遊泳していることが示唆されました。これは、長年理論的に予測されてきたものの、実証されていなかった「断続的な遊泳は持続的な遊泳よりもエネルギー効率が優れている」という仮説を裏付けるものです。

引用元

Gleiss Adrian C.Schallert Robert J.Dale Jonathan J.Wilson Steve G. and Block Barbara A.
2019Direct measurement of swimming and diving kinematics of giant Atlantic bluefin tuna (Thunnus thynnus)R. Soc. Open Sci.6190203

URL : http://doi.org/10.1098/rsos.190203


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