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With COVID-19と理科授業

はじめに


~「できない」思考から、「できること」思考への転換~

 今年度4月からのCOVID-19による臨時休校中、感染予防の方法がTV報道やWebに溢れ、その後市教委から指針が出された。これは「新しい学校生活」として示され、各学校は6月の学校再開に備えた。毎朝の健康チェックに始まり、手洗いの徹底。そして、ソーシャルディスタンスを保つためのマーキングや各種ピクトグラムの表示など指針を具体的行動に移すために知恵を絞ったと思う。
授業においても、普通教室では、教卓(教師立ち位置)からの最前列生徒机の場所の計測やマスク着用と換気、距離を保ち、大きな声を出さない話し合い活動など新たに多くの制約が生じている。
本稿表題はWith COVID-19と理科授業であるが、対象がCOVID-19という性格上、理科に限らず学校授業(特に特別教室で行う授業)全般に及ぶことをお許し頂きたい。

1 教科としての理科とCOVID-19

 
 「COVID-19はゲノムとしてリボ核酸 (RNA)をもつウイルスで核を持たない」昨年度末の北海道緊急事態宣言あたりになって、コロナウイルスについて調べた。「そうか、核が無いから他生物を宿主とするのだ」生物に疎い筆者にとってはこの程度の事にもいちいち感心する。一方、COVID-19禍の中で、「そもそもCOVID-19とは何か」を知る機会は余程自分から調べない限り知ることは無い。TV報道では感染者数やPCR検査数、飛沫感染のメカニズムや有効な除菌・消毒薬剤などひたすら防御方法だけを垂れ流す。COVID-19本質を知らずに恐怖だけを煽る。

   ふと、物理学者寺田寅彦の「正しく恐れなさい」の言葉を思い出す。 

   COVID-19対応関係の職員会議では、感染予防のために「できない。やらない」ばかりが目立つ傾向が見られた。しかし、学校の学びは止めることはできない。「理科教師として、正しく恐れるとは何か」。この具現化のために取り組んだこととして、「オンデマンド型学習支援動画配信」と「対面式授業での工夫」の2点を紹介する。


2 YouTube動画配信による学習支援と実施後の分析と課題


(1)動画配信に向けた校内体制作り

   Webによる学習支援のスタイルには、
①時間指定生中継で相互通信を可能とするオンライン配信(zoomなど)。
②あらかじめ録画したものや動画を生徒がいつでも視聴できるオンデマンド配信。
③学校がオンラインで課題を配付し、生徒はPC上で課題を解く(入力)するオンライン学習(大手学習塾などが運用)。
④電子メールなどで課題のやりとりを行う電子メール通信学習」(現在市教委がACTIVEメールの活用を検討中)。
などがある。
 弊校では4月18日にMS-PowerPointを活用したweb配信教材の制作について自主研修会を開催した。これはMS-PowerPoint のスライドショーを拡張子.mp4に変換保存することでできる。
 この作業中に市教委からweb動画配信サイト(YouTubeチャンネル開設)許諾があり、併せて「改正著作権法第35条運用指針(令和2年(2020)年度版)」の運用の通達があった。これにより、比較的早期に上記②のオンデマンド学習支援が実現した。
 弊校の動画による学習支援の方針として、休校中だけではなく学校再開後も各授業で活用することを前提にしていた。これは、動画視聴ができない生徒への配慮と、学校再開後の授業でも復習的要素で活用できるものとして制作していたからである。
 結果として弊校チャンネル登録者数270。番組数(動画本数)110。総視聴回数2万件となった。

(2)視聴状況の分析
 これまでの視聴状況分析を紹介する。分析に用いる統計量(n=)は本来であれば視聴者数であるが、デバイスの多様性(一人が複数のデバイスで視聴している可能性がある)から人数のカウントでは無く、視聴回数(n=19,114回)としている。また、データ引用は「YouTube studio」による。

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(表1)動画視聴回数とデバイスのタイプでは、視聴回数が一番多いのがスマートフォン(MOBILEとはiPhone,Android端末)である。総再生時間が一番長いのがタブレット端末(iPadなど)である。また、ひとつの番組あたりの平均視聴時間が長いのがTV(クロームキャスト、アップルTVなどを含む)である。

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(表2)動画視聴回数とデバイスのOS種類別では、視聴回数が一番多いのがiOS(iPhone、iPadなど)ある。総再生時間が一番長いのがMacintosh(Macパソコン)である。また、ひとつの番組あたりの平均視聴時間が長いのがchromeキャスト、そしてスマートTVなど大画面視聴が可能なOSである。

(3)動画配信による学習支援の分析からの考察
 (2)より、多くの生徒はスマートフォンあるいはタブレット端末で視聴していると考える。またこの他のデータ分析に「視聴している年齢分布(視聴に使用した端末の契約者の年齢など)」があり、これによると、年齢(13~15歳)の視聴回数割合が17.66%に対して、45~54歳の視聴回数割合が高い(42.26%)であることから、「本校生徒の全視聴回数の内42%は、保護者(又は保護者名義)の携帯端末を使っている」と考えられる。保護者名義では無く保護者所有の携帯端末の場合、「自分が視聴したいときに保護者から借りることができない」時がある考えられる。
 課題として、多くのスマートフォンが6インチ程度であることから、動画画面を視聴する場合のテキスト(文章)を読み取ることに困難があることが想定される。よって、web動画配信教材を作成する場合「文字の大きさと見やすさ」に配慮する必要がある。
 視聴時間に関しては、多くの教科の動画は6~12分程度だったと考えると、平均視聴時間が明らかに少ないことがわかる。
また、スマートフォンが多いことから、AndroidとiPhoneは端末単独でのネットワーク接続ができる(携帯キャリアの契約通信回線使用)。その他は、端末単独でのネットワーク接続ができないことから、有線LANあるいはWIFI接続による視聴であると考えられる。このことは、家庭によっては「データ量無制限契約でスマートフォンだけ所有(パソコンは所有していない)」と言う状況もあり得ると考えられる。このような家庭では、「ホームページやYouTube視聴ができるが、ダウンロードしたものを印刷できない」可能性があると考えられる。

(4)オンライン(web)活用の課題
 筆者は、今年度、北海道教育大学と秋田大学においてオンライン講義を行う機会があった。講座担当の大学教員から聞いた情報では、オンライン授業に精神的ストレスを感じている学生が多いこと。パソコンを所有しておらず、スマホで視聴している学生もいること。動画を用いたオンライン授業ではデータ通信量が嵩むので、例えばzoomなどのインタラクティブ授業は、最初と最後の挨拶だけビデオオンで、あとはビデオオフで視聴していること。このようなことから、zoom授業を行う場合は最大30分程度にして欲しい。とのこと。
 弊校においても、平均視聴時間は全体として少ないが、中でも比較的長時間視聴している場合は、TVモニタを使用している場合だと考えられる。やはり、小さな画面で視聴する場合、「文字情報が小さすぎて視聴をあきらめる」場合があると考える。
 また、弊校のようにMS-PowerPointで学習支援動画を制作した場合、教師は一切顔を出さずにスライドが流れる状況であった。(何人かの教師はナレーションを入れていた。)この、教師の顔が見えない状況(視聴する学習者が教師の視線を感じない状況)は、遠隔授業における学習効果としては課題が残る。これについて「視線が合わない学習環境では、学習者に学習活動の負荷を与える」あるいは「視線が一致する遠隔教育は、対面一斉講義の教授方略が適用できるが、「飽き」に関する対策が必要である。」ということがわかっている。(2006谷田貝、坂井)
 今後、オンライン(特にオンデマンド型)学習支援動画を制作する場合、教師が顔を出す(見せる)ことも学習効果の観点から必要になるかもしれない。
 ただし、生徒の視聴する端末の状況やネット通信状況には配慮が必要である。
 市教委では、YouTubeチャンネル開設に続き、zoom学校利用の承認を行った。これ自体、大変画期的なことである。しかし、生徒たちのネット通信環境、端末の状況を鑑みると、例えば「生徒全員の顔を見ながら朝学活」ということも、現状では、「可能な範囲で」ということを忘れてはならない。オンラインはあくまでも学習支援の一部であって、オンライン授業の恩恵を最大限に受ける生徒とそうではない生徒がいることを忘れてはいけない。
 我々教職員側にも課題がある。まず、ICTマンパワーとしての人材育成のこと。器材セッティングから、アカウントの取得、全体的なコントロールは1~2人でよい。その他、活用する先生方についても、ある程度の知識と技量があればよい。一番問題となるのは、いわゆる「ITデバイド」などと呼ばれている、ICTに弱い(あるいはICTを避ける傾向がある)先生方が現場には少なからずいることである。このような先生方はアナログ的な思考や技術に長けている場合が多く、このことが一層ICT活用を遠ざけてきたと考える。しかし、これらの先生方は今後、対面式授業(リアル授業)とオンライン授業の併用を前提とした多様な学び方が標準化したときに完全に遅れる可能性が出てくる(ガラパゴス・ケータイならぬガラパゴス・ティーチャー)。ここは何とか、周囲の先生方が同僚性を発揮して、「誰一人もらすこと無く、全員でICT技術をマスターする機会」を設ける必要がある。

3 対面式授業における課題と工夫


(1)対面式授業の課題
 学校再開後大きな変化を要求されたのは音楽科である。発声をともなう授業ができないなど、授業実施に伴う改善は並大抵では無い。次に、特別教室において対面式座席配置となる技術、家庭、理科(特に第1理科室スタイル)である。
 特別教室を使う多くの実技教科は、生徒同士が対面にならないように一方向になるように座席を変更している。COVID-19に配慮した授業可能条件には当初「移動を伴わない活動」「他人と共用する実験器具を使わない」などがあった。(7月末現在では、もう少し緩和されている)
弊校において、第2理科室は同方向を向いていることから、ひとテーブルごとの人数に配慮(できる限り左右間隔を空ける)して観察系の授業は実施した。

(2)特別教室での感染予防対策
 理科室出入口の区分(前後、左右)。入室前にあらかじめ手を洗うか、入室後理科室で手を洗う。共用するもの(岩石標本、ホワイトボードなど)を使った場合は、使用後に手を洗う。また、理科室の窓を常に開放し、気温が高い場合は扇風機(理科室に2台設置)を回す。
 全授業が終わった放課後、理科教師で除菌作業を行う。

(3)具体的な授業場面
 第2理科室での顕微鏡観察は、顕微鏡自体が個別番号制としている。入室前後の石けん手洗い厳守、観察後の接眼レンズおよびレボルバー付近の消毒、さらに、スライドガラスなどの洗浄作業は教師が行うなどとした。

(4)対面式になる特別教室の授業の課題
 対面式にならざるを得ない第1理科室はどうであるか。対面式であるだけですでに条件をクリアしていない。しかし、生徒実験ができないまでも、演示実験を教材提示装置経由でモニターに映して、最低限の生徒同士の考え方の交流は行いたい。
 この条件をクリアするために、現在は使用していないOHPシートと実験用スタンドを対面式実験台の中央に置いた(表3)。

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 また、使用していないデジタルテレビとプロジェクターを活用して、理科室内のどの場所でも移動せずに見ることができるようにした。


4 理科授業に何ができるのか


 わざわざ、このような工夫を行ったのは何故か。それは、理科という教科が「観察・実験を通して学ぶ教科である」からである。試験管やガスバーナーを共有する化学実験は推奨できないまでも、単元によっては、生徒が演示実験を見て考えて臨む学習活動は可能である。また、大きな画面でダイナミックに動画教材を用いて思考を促すことも可能である。このような学習活動と普通教室で講義形式の授業とどちらが学ぶ意欲を高められるか。
現在、大部分の学校で学校祭や合唱コンクールなどの行事を中止あるいは、規模を大幅に縮小している。部活動も3年生の中体連代替試合はあるものの意味合いが変わった。いわゆる「勉強が得意でないけれども部活動や特別活動で輝く生徒」がその目標を失いつつある。また、生徒は学校行事を節目にして成長を感じたり、仲間との絆を深めたりするが、これも危うい。
その中で中学校の授業のあり方を考える視点が必要だと強く感じている。座学中心の講義形式授業の比率が高くなると、生徒の学習意欲と学習動機はどのように変容するのか。
 「定期テストでよい成績をとりたい」「いい高校に入学したい」というような制度的利用価値をいたずらに高めることは、真の「主体的・対話的で深い学び」に影響があることが報告されている(2017原田、三浦)。
 だからこそ、本稿の冒頭に書いたように「できない」ことから「できること」を工夫して行うことで、生徒が生き生きと学びに取り組む態度を育む努力をするべきだと考える。

おわりに
 COVID-19は、非常時の対応であることは間違いない。しかし、この事態を「学びの多様性」あるいは「学び方の多様性」という観点から、オンライン(インタラクティブ・オンライン、オンデマンド)と新対面式授業(感染症予防の工夫をした指導)と従来型授業(これまで通り)と学校PC(ICT)活用の全てが併用される「新しい学び方(授業形式)」を生み出す絶好の機会ととらえたい。
 本稿においてGIGAスクール構想については本稿の意図とは別の考え方が必要となるため触れていない。



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