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スーパーコンピューターを使って台風を研究する話

WGNE Blue Bookというものがあります。

私は2002年から2023年まで、この活動に貢献してきました。

2024年度の原稿締め切りは9/30だそうです。扱う項目は、
・Development and studies of coupled models and Earth System Models
・Global and regional climate models: response to forcing, impact studies, subseasonal and seasonal forecasting
・Advances in forecast / NWP models: case studies, predictability, ensembles
・Parameterization of physical processes in Earth System Models or their components
・Forecast verification: novel methodologies to diagnose and measure systematic errors
・Uncoupled and coupled data assimilation for integrated earth system analysis and prediction; methodology and data impact sensitivity studies
・Developments in ocean, sea-ice, and wave modeling
・Reanalysis datasets and statistical post-processing
・Numerical/computational techniques and model resolution, physics-dynamics and physics-physics cross-component coupling
・Machine learning and AI in weather prediction and climate modeling

2023年度の成果は

にあります。何かしら要求されたら”science"と入力してみてください。

昨年度までは、ちょっとした台風事例でも数値シミュレーションを実施していました。どのような台風であったのかを調査するためです。数値シミュレーションを実施するためには計算機が必要なのは当たり前なのですが、
・気候データ(1回入手すれば使いまわせるもの)
・土地・地形データ(1回入手すれば使いまわせるもの)
・大気客観解析データ(都度入手)
・海洋客観解析データ(都度入手)
・大気海洋気候値データ(再解析データを入手して作成、もしくは既存のもの)
が必要です。データセットを用意するのは、実は手間がかかる作業です。

これらのデータを初期値や側面の境界値を作成するため、前処理という作業を行うのですが、これらプログラムコードを動かすための環境も必要です。スーパーコンピュータシステムでもワークステーションでも、いろいろなライブラリーがあらかじめインストールされていないと、プログラムは動きません。これは予測モデル本体でも同じです。

台風の実験は、計算領域を指定して行いますので、計算したい台風の状況を知っておく必要があります。私は数値予報ではなく数値シミュレーションを実施することがほとんどなので、台風の初期位置、着目している時間帯の位置、計算終わりの位置がわかっている状況で確認し、これら全てが入るように計算領域を設定します。

台風の計算においては水平格子の大きさ(水平解像度)の設定も大事です。小さい台風を粗い格子で実験するのは、再現性に問題が出てくると単純に考えると、大きい台風は今だったら2~3km、小さい台風だったら数100mから1km程度になるかと思います。計算領域を指定した格子サイズで覆った時、データの総量が計算機の主記憶メモリに乗るかどうかを心配しなければいけません。また計算時間も制約があるので、細かい水平解像度を設定すると、積分時間は短めになってしまいます。

今の世の中、Githubなどで気象モデルや海洋モデルは簡単に入手することができます。しかし計算機環境の設定や、出力データの処理(置き場所の確保)などを考えると、数値モデル研究は環境が整ったところでのみ実施可能な研究であり、私は恵まれた環境で研究してこれたのだと改めて実感しています。WGNE Blue Bookへのレポート投稿は、そうした私の活動記録とも言えそうです。数値シミュレーションに興味あり、大学で学びたい人は、このような環境が揃ったところを目指すとよいでしょう。環境が揃っていなくても、共同利用施設の外部計算機を利用するという手もありますので、先生次第なのかもしれません。あとは数値モデルは基本的に貸与という形をとると思うのですが、ライセンスの確認は必須です。データの取り扱いについても注意が必要です。

さて、科研費の活動で2023年台風第2号の計算結果はすでに論文になりました。しかし手元には第6号、第7号、第13号、第14号が残っています。第7号は同僚がすでに別の数値モデルの結果で論文化して、私も共著なので成果発表済、第14号は気象学会でほんの少し発表したのですが、現在進行形、あとの2つは未発表です。大気波浪海洋結合モデルを流すことだけでは報告書の求めている項目には合致しないので、お蔵入りしてしまうかもしれません。

今年の末に現在のスパコンは運用を止め、次のスパコンへと移行するのですが、与えられるリソースはそう多くはないので、従来どおりの活動に関しては引退となるのかな、と想像しています(役職定年?)。すでに計算したデータに関しては”Machine learning and AI”で活用できればよいと考えていて、次の科研費ネタとなることでしょう。本当は組織を離れていても数値モデルと戯れたいのですが、日本では無理なのかなと感じています。





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