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Baby Brown

「ベイビー・ブラウン Baby Brown」は、アレックス・ヒル(Alex Hill)によって1934年に書かれたジャズ・ナンバー。「ブラウンさん」について歌った歌ではなく、どこかにいる美しい女性を描写し称えている。そんな「茶色ちゃん」に向けられている。パワフルなメロディで踊りたくなるようなリズムの名曲だと思う。トラッド・ジャズのスタンダード。

茶色い肌をしたかわいい子ちゃん

さて、この曲は、欲望の対象としての「薄い茶色い女性」のテーマが繰り返される。こうした価値観はたとえば Aggravatin’ Papa のエントリーですでに述べた通り(詳しい考察はこちら)。

ふたたび「茶色い女性」について述べるなら次のようになる。欲望の対象としての「茶色い女性」は、より濃い肌の色をした女性(端的に言えば「黒い肌」)と対比されている。そうした対比は端的に色の濃薄ではなく、美しさの度合いの比較を可能にする。こうした比較はブルースやジャズの歌詞の文化の中にも頻繁にあらわれ、こうした「茶色」や「黒」が取り出されるとき、色がより薄い方の茶色がより美的あるいは性的であるとされている。

「ベイビーブラウン」では必ずしもそういった対比が直接的に描かれているわけではない。が、色の暗明や濃さがほかの色との対比によって知覚されるのであれば、ここではそうした対比が前提になっていると言ってよい。「ベイビーブラウン」は、まさにそうした茶色い肌をした黒人女性を「素敵なジョージアの女王」として称えている。他方でこの曲は黒人によって描かれたという点で Aggravatin’ Papa が持っていたような怒りや嫉妬は確認されない。そういった意味で美しい女性に向けて歌われた賛歌と見ることができるだろう。

作詞・作曲をしたアレキサンダー・ヒル。演奏家としても神童とも呼ばれたほどのピアノの天才。作曲家としては(I Would Do) Anything for YouやDelta Boundを残している。また、I'm Crazy 'Bout My Babyをファッツ・ウォーラーと共作した。

録音

Fats Waller and His Rhythm (NY January 5 1935)
Fats Waller (Piano, Vocal); Herman Autrey (Trumpet); Ben Whittet (Clarinet, Alto Sax); Al Casey (Guitar); Charles Turner (Bass); Harry Dial (Drums)
ファッツ・ウォーラーは少なくとも3回スタジオでBaby Brownを録音をしていて、一つ目がこれ。バンドを従えた録音でとても好き。もう一つはこれのインスト。インストはジュークボックス用に録られたもの。最後はファッツ・ウォーラーとルディ・パウエル(Rudy Powell)のデュオ。ファッツ・ウォーラーはピアノとボーカルで、ルディ・パウエルはクラリネットを演奏(こちら)。

Little Fats and Swingin’ Hot Shot Party (東京 2009)
Atsushi Little Fats (Tenor Banjo and Cornet); Charlie Yokoyama (Washboard); Dr Koitti One Two Three (Violin); Red Fox Maruyama (Clarinet); Yamaguchi Beat Takashi (Guitar); Doggie Maggie Oguma (Bass)
イントロからテンション爆上がり!イントロはオリジナルだろうか。イントロから最後までずっと低音が本当に素敵。ヨコチンさんのウォッシュボードさばきに脳汁が出ます。ライブのときは足のストンプも体感できてそれがまた気持ちいい。タカシさんはアラン・リュースばりのコード・ソロを展開している。

The Viper Club (Meudon, France 20 June 2023)
Tcha Limberger (Violin/Vocal); Jérôme Etcheberry (Trumpet); Dave Kelbie (Guitar); Sébastien Girardot (Bass)
インスト。テーマをトランペットが、オブリをバイオリンが担当するスタッフ・スミスのスタイル。アレンジもスタッフ・スミスへの愛が溢れている。

Posey Royale (North Carolina March 2020)
James Posedel (Piano/Vocals); Whitney Moore (Vocals); Keenan McKenzie (Tenor Sax/Clarinet); Matt Fattal (Trumpet); Mattick Frick (Guitar); Trevor Stoia (Bass); Annie Erbsen (Guitar); Eric Hevron-Smith (Bass); Russ Wilson (Drums/Vocals); Jason DeCristofaro (Vibraphone)
ファッツ・ウォーラーのピアノ+クラリネットの録音を方を下敷きにバンド・スタイルで演奏。ピアノがむちゃくちゃ気持ちいいですな。インスト。

The New Orleans Swinging Gypsies (New Orleans, September 2019)
John Saavedra (guitar/vocals); Giselle Anguizola (taps/vocals); Paul Thibodeaux (drums); Connor Stewart (alto sax); Nick Garrison (trombone); Matt Booth (bass)
マヌーシュ・ジャズのスタイルとニューオーリンズ・スタイルを織り交ぜたスタイルの録音。タップが気持ちいい録音。

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