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Bei Mir Bist Du Schön[素敵なあなた]

「バイ・ミル・ビス・ドゥ・シュン Bei Mir Bist Du Schön」は1932年にショロム・セクンダ Sholom Secunda が作曲し、ヤコブ・ヤコブス Jacob Jacobs(英語読みだったらジェイコブ・ジェイコブス) が作詞したイディッシュ語のポピュラー・ソング。英語の歌詞はサミー・カーンSammy Cahnとソール・チャップリンSaul Chaplinによる。作詞作曲をした4人は、みんなユダヤ系。セクンダとジェイコブスが一世で、カーンとチャップリンはユダヤ家系に生まれている。

タイトルは揺れがある。ドイツ語表記のほかにBei Mir Bist Du SchoenやBei Mir Bistu Sheinがある。意味は「わたしにとってあなたは美しい”To me you are beautiful”」なので日本語の「素敵なあなた」はまさに適訳と言える。なお、イディッシュ語とは主に東ヨーロッパでユダヤ民族によって話されるドイツ語に近い言語を指す。

この曲はイディッシュ語のコメディ・ミュージカル『できたらするかも I Would If I Could (イディッシュ語Men Ken Lebn Nor Men Lost Nisht, 英語直訳You could live, but they don't let you)』のために書かれた。「バイミル〜」は公開当時から盛り上がる曲だった。上演が終わったあと、セクンダは、カリフォルニアまで行ってエディ・カンターに曲を売ろうとしたが「使えないよ。ユダヤすぎる。」と断られてしまう(エディ・カンターもユダヤ系アメリカ人)。

結局、作詞作曲者の2人は、1937年に曲の権利を30ドル(いまの貨幣価値で611ドル)で出版社に売ってしまった。そのあとにサミー・カーンとソール・チャップリンによって英語の歌詞がつけられ、曲は大ヒットすることになる。もしセクンダとヤコブスが曲を売らなければ、かれらに入ってくるはずだった印税はなんと 350,000ドル。いまの貨幣価値でいうと7,124,769ドルとなる。日本円で1,047,665,219円。10億…。

録音

アンドリュー・シスターズのヒットを皮切りに世界中でヒットする。ちなみにナチス政権時代のドイツでもヒットしている。

Milt Herth Trio (NYC. Nov. 11, 1937)
Milt Herth (Organ); Willie Smith (Piano); O’Neil Spencer (Drums, Vocal)
わりと辛口に批評される録音ではあるんだけどまったく悪くない。むしろオニール・スペンサーのドラムが堪能できる録音だと思う。それと、たしかにミルト・ハースのオルガンがリードとベースの両方を担おうとしている。でも、ウィリー・ザ・ライオン・スミスの役割がその瞬間に変わるところとかすげえなあって思う。

Benny Goodman Quartet (NYC. Dec. 21, 1937)
Benny Goodman (Clarinet); Lionel Hampton (Vibraphone); Teddy Wilson (Piano); Gene Krupa (Drums); Martha Tilton (Vocal)
グッドマンの録音。派手さがなくちょっと暗めの録音。グッドマンのイントロがかっこいい。

Marty Grosz (NYC April 23 1993)
Peter Ecklund (Cornet); Dan Barrett (Trombone); Scott Robinson (Saxophone); Marty Grosz (Guitar); Murray Wall (Bass); Hal Smith (Drums); Mark Shane (Piano)
インストのセッション。わりと静かなセッションでヘッドアレンジだけのシカゴ・スタイル。

Leroy Jones (New Orleans 1995)
Leroy Jones (Trumpet); Lucien Barbarin (Trombone); Ed Frank (Piano); Walter Payton (Bass); Shannon Powell (Drums)
リロイ・ジョーンズのデビュー録音。ピアノのフレーズはもしかしたらグッドマンのイントロを参考にしているかもしれない。だいぶかっこいい。全員つよつよ。

Die Original Bluetenweg jazzer (Hesse, Germany June 20 1998)
Bruno Weis (Percussion [?]); Hubert Ensinger (Trumpet); Markus Jörg (Clarinet); Peter Glenewinkel (Trombone); Dieter Kordes (Vocal[?]); Günter Flassak (Bass); Rainer Dorstewitz (Tenor Banjo); Hans-Jürgen Götz (Drums); Schnuckenack Reinhardt (Violin, Vocal [?])
ドイツのベテラン、ディキシージャズ・バンドの録音。ドイツ語はまったく読めないので読み方が間違っているかもしれないけれどシュノケナック・ラインハルトがバイオリンで参加している。ちょっとドレーニの記述をもとに要約してみる(Dregni 2004)。シュノケナック・ラインハルトは、名前の通りラインハルト一家の一人でジャンゴ・ラインハルトとも血縁関係にある。かれの父のペタ(Peta)がジャンゴの母親の従兄弟だった。1921年にドイツで生まれる。また父親からツィガーヌ・バイオリンを教わり、ドイツの学校へ行きクラシックの教育を受けたという。かれはドイツのシンティ(ロマ)として生き、ジャンゴとは個人的に会ったことはなかったようだ。というのも彼はドイツ・ナチスによる迫害から一家でチェコに逃げ、そこでもさまざまな困難に遭わなければならなかった。チェコでは、バンド活動をはじめ人気が出てきた。が、SSに狙撃されたり、地元警察に助けられたりと、とにかく波乱な生活であった。かれがジャズに出会ったのは1944年にドイツに戻り、そこでアメリカのGIにジャンゴの音楽を教えてもらってからだという。こうした結果、ここでも聴けるようにグラッペリとも違う、ツィガーヌ音楽から影響を大きく受けた彼独自のジプシー・バイオリンが完成することとなった。

Girls from Mars (Springhouse 1999)
Annie Patterson (Vocals); Lauren Bono (Vocals, Snare Drum); Wendi Bourne (Vocals, Guitar); Paul Butler (Clarinet); Ralph Gordon (Double Bass)
いまではベテランのジャイヴ・スイング・バンドの録音。ハーモニーもアンサンブルもかっこいい。クラリネットの泣きメロがよきよき。

The Aurore Quartet (Paris 2011)
Aurore Voilqué (Violin, Vocals); Siegfried Mandacé (Guitar); Thomas Ohresser (Guitar); Basile Mouton (Bass);
オーロール・カルテット。フランス語で歌っている。同じ年にもう一度バイミルを録音しているけれど短いほうが勢いがあって好み。

Jivers Swing (Buenos Aires 2015)
Daniel Schneck (tuba); Checha Naab (snare drum and vocals); Juan Martín Yansen (guitar, banjo and vocals); Juan Cristóbal Barcesat (washboard, vocals and arrangements)
ブエノス・アイレスのジャイヴ・バンド。コーラス・ワークも非常にかっこいい!

Pierre Et Les Optimistes (Utrecht 2019)
Pierre Laernoes (Guitar, vocals); Myrthe van de Weetering (violin); Vincent Arp (double bass, saxophone[?]), Bart Kropff (saxophone [?])
オランダで活躍しているピエール・アンド・レズ・オプティミスツ。かっこいい!ただ参加しているメンバーがあまりわからなかった。

Swing Machine Orchestra (Madrid January 2020)
Raúl Márquez (Violin); Ernesto Galván (Violin); Aldo Aguirre (Violin); Lorea Aranzasti (Violin); Cecilia Beguería (Violin); Silvia Carbajal (Violin); Aldara Velasco (Viola); Lourdes Rosales (Viola); José Inés Guerrero (Cello); Blanca García (Cello); Javier Sánchez (Guitar); Gerardo Ramos (Bass); Cesar de Frías (Drum)
スペインで活躍しているスイング・マシーン・オーケストラの録音。この曲は豪華なアレンジが合うように思う。すごく好き。マドリードのジャズ・オーケストラ。クレズマーに志向したソロがかっこいい。

San Lyon (Los Angeles, 2022)
Paige Herschell (Vocals); Katie Cavera (Bass); Jenna Colombet (Violin); Dani Vargas (Guitar)
Putting on the Ritzとのメドレーになっている。これもかっこいい。

Amber Rachelle & The Sweet Potatoes (New Orleans 2023)
Amber Rachelle (Vocals); Caleb Nelson (Trumpet); Connor Bigelow (Saxophone); Tyler Hotti (Guitar); Steve Walch (Bass); Ronan Cowan (Drums)
アンバー・レイチェルの歌が堪能できる素敵録音。ヴァースからはいる。ギターがジャンゴ・スタイルで、こうしたジャンゴ・スタイルを取り入れるのが近年のトレンドにもなっているように思う。

参考文献

Dregni, M. (2004). Gypsy Jazz: In Search of Django Reinhardt and the Soul of Gypsy Swing. Oxford: Oxford University Press.


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