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XLR接続はRCA接続より音質が悪い?

実はXLR接続は原理的にRCA接続よりも音質が悪いのではないか?
と考えるところがあり、書いてみようと思います。

きっかけは、私が所持しているUSB-DAC「RAL-24192DM1」とアンプ「AX-501」でXLR接続を試したところ、RCA接続より却って音質が悪くなったのでは…と感じたことです。

参考音源:Reference Recordingsの「アッピア街道の松」

XLR接続とRCA接続を聴き比べて、特にそれが顕著だと感じたのは優秀録音として名高いReference RecordingsレーベルのCD、レスピーギ交響詩「ローマの松」より第4部「アッピア街道の松」を聴いていたときです。

演奏内容そのものはともかく、ダイナミクスが広く録音の難しいこの曲において、このCDは最も成功した例と考えて良いと思います。特に第4部「アッピア街道の松」では重低音と残響からなる暗噪音がしっかりと収録されており、再生すると目の前のステレオスピーカーの間、そして周囲にホールの空間が存在し広がっているかのようにさえ感じられます。Reference Recordings以外のCDではこれほど音の良さで感動することはなかなかなく、録音を手掛けたキース・O・ジョンソン博士の技術に感服せざるを得ません。見事の一言に尽きます。

もう一つ、私が使用しているUSB-DAC「RAL-24192DM1」の音質についても触れておかなければなりません。それまで使用していた別のUSB-DACからこれに交換してReference Recordingsの「アッピア街道の松」を再生すると、コントラバスとティンパニの奏でる重低音が、"ppp"のごく小さな音量であるにも関わらず、それぞれ演奏している楽譜を読めるかのように聴き分けられるのに驚きました。これはUSB-DAC「RAL-24192DM1」に使用されている、高性能DACチップとして名高かったPCM-1704の分解能の良さが表れているものと思われます。

ティンパニは8分音符でHを続けて、コントラバス(ARCO)は4分音符で交互にH,Fを弾く。

話をXLR接続とRCA接続に戻しますと、USB-DAC「RAL-24192DM1」とアンプ「AX-501」にはXLR接続とRCA接続用の端子が存在するため、私はそれぞれの接続で音質がどう変わるのかを確認してみることにしました。
すると、RCA接続でReference Recordingsの「アッピア街道の松」を聴いたとき鮮明に聴こえていたコントラバスとティンパニが、XLR接続に変えるとそこまではっきりとは聴き分けられなくなることに気付きました。音の輪郭がぼやけた感じで、音の響きが薄く空間も狭まったように感じられます。
セレクターでXLR/RCAを切り替えるとXLRの方が音量が小さいようで、ボリュームと合わせて調整しながら聴き比べてみましたが、何度繰り返しても、やはり同じように聴こえます。

USB-DAC「RAL-24192DM1」背面のXLR/RCA接続端子

XLR接続による音質の影響の考察

もちろん、XLR接続よりRCA接続の音質の方が良く感じられたことについて、全てのオーディオ機器に当てはまることを確認したわけではなく、私が使用していた機器の特性によって、たまたまそういう結果であった可能性もありますが、ここでは原理的な部分にその要因があると仮定して考えてみたいと思います。

その要因とは、HOTとCOLDの信号を合成する際、元信号を完全な精度で維持することが困難で、それにより生じる音質の低下がノイズ低減効果を上回ってしまうのではないかという点です。

XLR接続は、簡単に言うとRCA接続が単純に音声を送信するのに対して正相と逆相の信号を合わせて送り、逆相の信号を反転してから正相の信号と合成することで途中混入したノイズを打ち消し元信号を得るという仕組みになっています。

考えてみると、この方法で元信号と同じ波形を得るためには、以下の3点が前提にあるという点がわかると思います。

  • 逆相の波形を反転させたときに正相の波形と完全に一致する

  • ノイズは正相と逆相の信号に同様に混入する

  • 正相と逆相の信号の位相は合成するまでズレない

しかし、入力されている音声はアナログ信号です。ネットワーク機器がパケット通信を行うような、デジタル的な仕組みによる完全な同期が取られているわけではなく、この前提条件を完全に満たすのは困難なのではないかと考えられます。

つまり、XLR接続では正相と逆相の信号自体の誤差や混入するノイズの偏り、逆相信号を反転する処理や正相と逆相の信号を合成する処理で生じる何らかの遅延が重なることで、最終的に合成される音声の波形が元信号通りとはならず、それが音質の低下として表れるのではないでしょうか。

そもそも、XLR接続はライブ会場やレコーディング現場といった業務用途として存在していたもので、ノイズを打ち消す仕組みというのも、演奏者から機器までケーブルを数十メートルも引き回すことでS/N比が著しく悪化したり、本来してはいけない順番で機器の電源をON/OFFしたことで生じる突発的な過大入力などの非常に大きなノイズを考慮したものであるはずです。

つまり、「打ち消されるノイズが大きい」「安全対策」の2つの意味が大きく、音声信号を得る仕組みが複雑化することによる多少の音質低下があったとしてもノイズ低減効果が勝り、結果としてXLR接続が業務用途で活躍しているのだと考えられます。

しかし、家庭内でのリスニング用途のオーディオ環境となると、アンプやスピーカーを接続する距離は高が知れており、ケーブルに載るノイズを意識するような機会はほとんどありません。そのため、XLR接続によるノイズ低減効果の恩恵はほとんど得られず、HOTとCOLDの信号の合成の不完全さの方が大きく感じられてしまうのではないでしょうか。

…と、全て仮説でしかありませんが、以上の考えにより私の現在の環境ではXLR接続ではなくRCA接続を利用して音楽を聴いています。いずれ別の機器を手に入れる機会があれば、また聴き比べをして再検証してみたいと思います。

皆さんが使用しているオーディオ機器では、XLR接続とRCA接続を聴き比べてみて、どちらが良い音だと感じたでしょうか?

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