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高校卒就職の視点から見た、新型コロナウイルスの影響と懸念点

※ 本稿は、一般社団法人スクール・トゥ・ワークの2020年5月1日付ブログ記事「高校卒就職の視点から見た、新型コロナウイルスの影響と懸念点」の転載です。

新型コロナウイルスによって緊急事態宣言が出る中、学校や企業にも大きな影響が出ています。そんな中で「9月入学制」についての議論なども出てきています。今回は、私たちスクール・トゥ・ワークが活動してきた、高校卒就職の観点から見た新型コロナウイルスの影響について、浮かび上がってきている問題点を整理し、問題提起をしたいと思います。

1.学校・生徒における懸念点

(1)進路指導の時間の減少

高校三年生の一学期は、進路調書等を提出して貰い、進路面談を行う就職活動の助走期間です。現在の休校措置により、この時間が大きく削られつつあります。また、高校卒就職は国によって申し合わせられているスケジュール(本年2月に策定)に基づいて進むために、7月に企業の求人票が見られるようになり、9月16日の採用選考開始に向け、一学期後半に本格化します。7月に向けて、こうした貴重な時間がなくなっているのです。

(2)夏休みの職場見学が実施困難に

通常、7月に求人票が出た会社について、夏休み期間中に1社程度職場見学を行うことが一般的ですが、本年は休校措置の影響で夏休み期間が縮減されることが想定されており、職場見学の機会も縮減する懸念があります。高校卒就職者にとって、この職場見学は実際の仕事の現場を見ることができるほぼ唯一の貴重な機会であるため、その悪影響は大きいです。大学卒の就職において、インターンシップや先輩社員との対話の機会が完全になくなる、と例えれば深刻度を理解していただきやすいでしょうか。

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2.企業側の懸念点

(1)求人票を「6月」に提出することの困難

大きな景況感の変化に伴い、企業の採用計画は大きな見直しを迫られています。新卒採用は景気変動の影響を比較的受けにくいと言われていますが、特に高校卒就職者のメインの就職先である中小企業においては、影響がないとはとても言えません。緊急事態宣言が明けているかどうかすらわからない6月の段階で、申し合わせのスケジュールでは求人票をハローワークに提出する必要がありますが、企業が新高卒採用をするかどうかの判断がそのタイミングで可能でしょうか。また、そのための事務的手続きを行う余力があるでしょうか。

(2)ハローワークの「確認事務」の停滞懸念

目下、企業からの雇用調整助成金の相談や、雇用情勢不安定化による相談業務などによって各地のハローワークは極めて電話が繋がりにくい状況となっており、著しい業務過多の状態にあると推測できます。こうした業務量が溢れかえる状態で、高校卒の求人票受理・確認事務が6月に生じますが、適切な内容確認を適切なスピードで実施できるのかについても、懸念が残ります。

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3.懸念点に対しての具体的な提案

こうした懸念のため、休校が長引いた状況で従来通りの申し合わせのスケジュールによる高校卒就職活動が行われれば、学校はほぼ対応できず、企業の体制も6月までに整わず、同時に生徒の準備も不十分となり、10月以降もたくさんの高校生が就職活動を続けているという光景が予想されます。

上記のような懸念点は、おおむね「新型コロナウイルスの影響による休校によって、一学期から準備し、6月・7月に本格化する高校卒就職スケジュールが圧迫されている」ことが原因だと言えます。

解決するためには、申し合わせられているスケジュールについて、『数か月単位の後ろ倒しを行う』ことが最も現実的な選択です。つまり、例えば休校が6月1日に解除されるのであれば、選考開始を1か月後ろ倒しすれば(つまり10月16日選考解禁として、6月から進路相談、求人票受理を7月に、8・9月に求人票確認・職場見学等を行うことができるようにする)、学校における進路相談の時間、職場見学、そして企業側の体制について十分な見通しを持って行うことが可能になります。

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4.「9月入学」問題と高校卒就職

さらに現在、「9月入学」も議論されていますが、もし9月入学となった場合に最も影響を受けるのは、上記で示した通り就職スケジュールが既に決まってしまっている就職予定の高校3年生です。ほとんど就職の支援を受けられない状態で9月16日の選考解禁を迎えることとなり、差し迫ったスケジュールの中で就職を希望する生徒たちへの特別な対処なしには、到底現実的な提案ではありません。9月入学の議論の前提として、こうした高校生への直接的な支援策の検討を行うことは政策意思決定として必須の留意点だと言えます。

しかし、9月入学については「大学受験との関係は・・・」とか「留学者が・・・」といった議論はありますが、高校卒就職との関係に触れた論は見当たらず、年間17万人もの高校生が就職し、20代の社会人の20%を占める高校卒就職者に対する社会的関心は不当に低い状況が続いています。まさに『社会の忘れ去られた部分』(アメリカで1990年代に出された高校卒就職者に対する報告書のタイトルは『社会の忘れ去られた半分』でした)となっています。

新型コロナウイルスと高校卒就職について、目前に迫った大きな問題に対処することは喫緊の課題ですが、これと並んで高校卒で社会へ出ていく若者たちを大学卒と同じ未来を担う若者として応援する土壌を作っていくことも重要な課題であると痛感しています。



古屋 星斗
1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

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