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プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏) 前編

※ 本稿は、一般社団法人スクール・トゥ・ワークの2019年2月3日付ブログ記事「プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏) 前編」の転載です。

世間では注目されてこなかった非大卒人材、特に高卒就職者のキャリアづくり。わたしたちスクール・トゥ・ワークでは、データをもとに各分野の有識者に意見を伺います。

今回は、現役官僚の立場でありながら若者のキャリアについて研究や講演活動をされているキャリア教育研究家、RIETIコンサルティングフェローの橋本賢二さんへご意見を伺います。

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古屋星斗(聞き手、当団体代表理事):
橋本さん本日はありがとうございます。橋本さんはまさに就職に関する国の人材政策にも携わられていましたね。その観点から伺いたいのですが、20歳代後半の就業者を例としてみると世代人口に占める割合は大学卒・大学院卒が49%、非大卒は51%となっています。数字でみると特に高卒人材は25%と意外と多いとおもったのですが、いかがでしょうか?

橋本賢二氏(キャリア教育研究家、RIETIコンサルティングフェロー。以下敬称略):
私も地方で講演をする機会などありますが、都会でみると大卒が多いと思いがちですが、地方に行くと認識は違います。その意味では、日本全体でみたときには地域差が大きい数字という印象です。

古屋:
都市部は大学進学率が高い一方で、地方は低いということですね。地方にお仕事に行かれることも多いと思いますが、そうした「進学率の差」について実感することはありますか?

橋本:
多々あります。とある県では、県として大学進学率が低いことに非常に問題意識を持っていました。県としては大学進学率をあげたく、旧帝大をはじめとする偏差値の高い大学にいかせたいという思いがやはりあるんです。その思い自体は良くわかります。ただ、大学進学して地元を出て行くと帰ってこない、地元に残ってほしい人材が流出してしまうというジレンマがあって悩ましいようでした。

古屋:
県の教育庁が直接見ているのが高校までで、その高校から大学への部分が最後の出口である、ということも現実としてありますね。私もその県の気持ちは共感できます。

橋本:
そうですね。ただ、「生徒自身のキャリア」という観点で見た時、大学進学実績という数字をあげたところで彼らの将来への責任を果たせているのか。大学に押し込んでいるだけなのでは、ということは感じています。親ももちろん、いい大学に行かせたいということを望んでいる傾向にはあるのですが。

古屋:
何のために大学にいくのか、という「なぜ?」が大切ですよね。

橋本:
そうです。また、親が大学に行かせたくない、と思うケースには、所得的な問題で行かせたくないご家庭の事情もありますよね。地方特有の事情として、家業の担い手がいなくなることなどの事情で行かせたくないというケースはあります。

地方の人材確保という観点では、その背後にいる保護者の事情はまた課題として違ってくる。

学校側も進学実績を気にしていますが、その背景にいる人たちの多様性も大きくなってきているように感じます。

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古屋:
ありがとうございます。いま、親御さんの多様性のお話がありましたが、非大卒と一言にいってもかなり多様なことは言うまでもありません。高卒と専門卒も全然違う。専門卒は大学に準じた比較的オープンなマーケットが形成されつつも、学校と就職先が密接な関係を持っているケースが多い。また、高専卒は一種の技術系エリート集団であり半数は大学に編入します。

就職率で見ると高卒の就職率は非常に高く、就職先と学校がパイプとしてつながり機能している現状はある。ただ、高卒就職者の離職率の高さも目立ちますから、「つなぐ」という意味では成功しているとは言い切れないのかと思うのですがいかがでしょうか。

橋本:
早期離職は注目すべきポイントのひとつです。企業の規模別にみると、大学生よりも高校生の方が小規模事業者に就職し、高卒・大卒共に小規模事業者の方が離職率は高いです。なので、小規模事業者/大規模事業者の離職率で比較しなければこの数字は正しくよみとけないですね。

古屋:
その通りですね。1000人以上の事業所ではむしろ高卒の方が大卒よりも離職率が低いという点について私も分析をしています。ただ、大企業へ就職した高卒の人に話を聞くと、「扱いが雑」なのが嫌だったという話が出てきました。名前で呼ばれず「技能さん」と呼ばれるなど。この人手不足のなかで、高卒の人材をもっと活用できないのかと思っているのです。

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古屋:
また、県外への就職率が圧倒的に少ないですね。平均すると20%弱しか県外で就職していないのが高卒就職者なんですね。そんなに地元に産業ってあるんでしょうか?

橋本:
これも地方別に見ると面白いと思います。例えば、エリア内移動。九州では福岡の吸収力が高いと言われていますから、比較的九州の他の県は県外就職率が高いですよね。また、岐阜は愛知に、奈良は大阪にとられている構造になっています。

就職口の供給量からみたとき、地元との選択のなかでたまたま大阪や名古屋が魅力的だから、という理由で県外を選んだ可能性があります。

古屋:
県内外よりはエリア内外というように考えたほうがいいということですね。エリアを超えた就活をさせないとそのギャップ埋まらないということですね。県外、エリア外で就職しないおもな理由はなぜなのでしょうか?

橋本:
仕事がなく、情報もなく、県外に行った先輩もいないからではないでしょうか。また、小規模事業所は高卒採用を毎年継続して行っていないケースが多いですから、一度先輩が入った県外の求人がずっと続くわけではない、ということもあるのでしょう。そうすると身近な地元の就職先へのルートのほうが確実に見えてくるのだと思います。

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古屋:
入職経路はハローワークや学校経由が8割を超えています。

橋本:
情報の入り口が狭いです。高校生からすると、学校に張り出される求人情報やハローワークの情報しか比較材料となる情報がない状況になっていますよね。

古屋:
たしかに就職率は高いですが、その先にたいして学校がコミットしているわけではもちろんありませんから、キャリアの入り口としては細すぎるのではないでしょうか。

橋本:
高校生は仕事や働くことを考える時間自体が圧倒的に少ないですよね。進学か就職かで、高校の3年間をまるまる考える時間に使えるわけではありませんから。

18年間の人生のなかで、自発的に情報収集をしたり企業を見たりする時間が圧倒的に少ない状況になっているのです。高校生は実はインターン率は高いですが、これはいわゆる「職業体験」なので、仕事や働くことを考える機会にはなっていません。そんななかで就職していくことがギャップの原因となり、離職率を高めるのではないでしょうか。



一般社団法人スクール・トゥ・ワーク
 一般社団法人スクール・トゥ・ワークでは、学生及び早活人材(非大卒人材)に対するキャリア教育事業等を行っています。
 私たちは、キャリアを選択する力の育成を通じて、未来を生きる若者全てが安心・納得して働き、その意欲や能力を十分に発揮できる社会の実現を目指します。

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