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主体的・対話的な学びで、学力は上がるの??~ジグソー法を用いた学びとその効果~

学習者の学びを「主体的・対話的で深い学び」にするための「アクティブ・ラーニング」。
アクティブ・ラーニングは、「能動的な学習によって、学習者自身の学習意欲や知識の定着率を高めること」を目的としています。また、変化する時代に適応し、未来社会で活躍できる人材に成長するために、他者と協働して課題を解決する力の育成にも期待される学習法の一つです。

ただ、そこで気になるのが、学習者主体のアクティブ・ラーニングで、本当に学力は上がるの??基本的な知識はきちんと身に付くの??ということではないでしょうか。
また、学校でのアクティブ・ラーニングは、従来型の一斉授業と比べて多くの時間が必要と考え、授業時間の不足を心配する先生方も多いかもしれません。

今回は、同じ単元で、アクティブ・ラーニング(ジグソー法による授業)を行ったクラスと、従前の知識教授型(一斉型)の授業を行ったクラスで、その学習効果を比較した実証研究を紹介しながら、その悩みの解決策を探ります。


「ジグソー法」とは?


一つの学習課題について、学習者はまず自分の担当箇所について理解を深め、他を担当した仲間とそれぞれ説明し合います。それらを関連付け、さらに考察を進めた後に意見交流をすることで、最終的な自分の考えをまとめます。ジグソーパズルのピースを組み合わせて一つの絵を作るように、学習者がそれぞれ持っている知識のピースを、グループで共有して一つの大きな問題について考える学習法です。ジグソー法は、予め授業の ’型があるためアクティブ・ラーニングの中でも、簡単に取り入れやすいという特徴があります。


本実証研究について


当社コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

本実証研究は、アクティブ・ラーニングの効果を明確にすることで、教育に携わる先生方、保護者の方々が持つ不安を解消することを目的として実施しました。今回取り上げる授業は、教育総研に所属している現役教師のメンバーが、実際に自身が受け持つ生徒を対象に行ったものです。

「ジグソー法」を用いた授業と「知識教授型(一斉型)」授業の学習効果の比較


授業は、高校1年生の地理総合「世界の産業と人々の生活」の単元で、行われました。
学力差のない2つのクラス(仮にAクラス、Bクラスとします)に対して、Aクラスには「ジグソー法」による授業、Bクラスには「知識教授型(一斉型)」の授業を行います。Aクラス、Bクラスとも、同じ学習内容を習得することを目的とし、授業時間は3時間としました。

ジグソー法での授業を行った生徒には、班全体で考える主課題として、先進国と発展途上国の間に経済格差が存在しているという、世界の南北問題が生じた理由について考えさせる問いを設定しました(図1)。

図1:スクールタクト上で生徒に配布した主課題

両クラスとも、3時間の授業を終えたのちに、Anderson(2011)の教育目標のタキソノミー(※1)に基づいて作成された単元を振りかえるテストを実施し、その結果を比較しました。

※1 人が学習する際の段階(=教育目標の段階)を示した指標のひとつ。
「人の認知過程は、まずは知識を得て(記憶)、それを(理解)し、次第に(応用)しながら、最終的にはそれ自体について批評などの評価を下すように、次元が推移していく」
この認知過程の次元推移を参考に、本実証では学習の効果を次元ごとに測るため、6種類の設問を作成し、学習者に記述回答させた。

設問の例

《 単語などの単発的な知識を問う問題:事実的知識(記憶、理解、応用)》

  • 食料品や衣類といった、日用品の生産を行う工業を何といいますか(記憶)

  • 企業的農業とは、どのようなものか説明しましょう(理解)

  • 先進国において、脱工業化社会への移行が進んだ理由について、説明しましょう(応用)

《 事象の相互関係や意味を問う問題:概念的知識(知識、理解、応用)》

  • 複数の国に販売拠点を持つ企業の本社は、一般的に先進国と途上国のどちらに置かれるか答えましょう(記憶)

  • グローバル化が進む現代の産業について、途上国と先進国がどのような関わり方をしているか説明しましょう(理解)

  • 以下の〇〇に見られるような、国際的な分業体制の問題点について述べるとともに、途上国と先進国でこのような格差が生まれた理由について考察を述べなさい(応用)

その結果が図2です。

図2:各設問の得点の比較 ※各種4設問、各設問1点で採点

図2から分かることは、次の3点です(図2中の①~③に対応しています)。

①[事実的知識ー記憶][事実的知識ー理解]の設問について

ジグソー法と知識教授型(一斉型)の授業と比べると、学習後の知識の定着に差はない
一般に、基本的な知識定着が難しいと思われがちなアクティブ・ラーニングですが、知識教授型(一斉型)の授業と比べて、知識定着に差はありませんでした。


②[事実的知識ー応用]の設問について

ジグソー法の方が正答率が上がる
知識を活用する思考力(事象が起きた理由を理解し、記述する能力)は、生徒間の学び合いによって、上がると考えられます。


③[概念的知識ー応用]の設問について

ジグソー法の方が正答率がやや下がる(ただし、統計的に意味のある差はない)。
原因については、次のようなことが考えられます。
ジグソー法は、グループのメンバーそれぞれが、ピース(今回の単元では、「世界の農業」、「世界の工業」、「グローバル化する現代の産業」の 3 つの分野)を受け持ち、まず各自がそれぞれ受け持った分野について学んで理解を深め(「エキスパート活動」という)、それをグループ内で教え合う活動(「クロストーク」という)によって、全体像を浮かび上がらせる学習法です。そのため、エキスパート活動での個人の理解が不十分である場合、クロストークで、それを十分にメンバーに教えることができずに、「概念的知識-応用」の得点も下がるという結果につながった可能性があります。

以上のことをまとめると、ジグソー法では、自分の分野について「他のメンバーに教える」という責任感が生まれるため、主体的・対話的で深い学びに至りやすく、その結果として学習者の学力が上がることが考えられます。ただし、複数の分野(ピース)をまたいで思考する力(概念的知識-応用)には、両クラス間に有意差が見られなかったことを考えると、生徒間の学びの相互作用を引き出し、ジグソー法の有用性を高めるためには、さらなる手立てが必要だと言えます。

学習者である生徒たちは……


ジグソー法による授業を受けた生徒たちは、授業後のアンケートで、次のような感想を述べています。

  • 班になったことでいろいろな意見が聞けた

  • 班で話し合って問題を解決するのが良かった

  • 一人で抱え込むんじゃなくて友達と話し合うことによって理解を深めるこ  とができている

  • スクールタクトを使った授業は、他の授業に比べて自分で考えることが多くて、楽しく学べたのでいいと思う

  • グループ活動が多くて楽しく学習できた

  • 意見を出し合ってより深く知識を吸収できた

これらの感想からも、「主体的・対話的で深い学び」が実感できる授業であったことが読み取れます。


まとめ

  • ジグソー法によるアクティブ・ラーニングで、生徒たちの学力は上がる

  • 知識教授型(一斉型)の授業より、時間効率が悪いと思われがちな学習者主体の学びだが、ジグソー法を用いたアクティブ・ラーニングは時間効率の観点から見ても有用である

  • 生徒たちは、人に教えられるレベルまで深い理解を求められるため、「主体的・対話的で深い学び」を実感しやすい

ジグソー法を用いた授業を受けた生徒は、従来型の知識教授型(一斉型)の授業を受けた生徒と比べて、知識の定着に差はなく、知識を活用する思考力(事象が起きた理由を理解し、記述する能力)を身につけることができるようになったと考えられます。

アクティブ・ラーニングでは、深まりを欠くと表面的な活動に陥ってしまうといった失敗事例も報告されているため、「深い学び」の視点は、極めて重要とされています。その点で、ジグソー法は学習効果をより高めるのに、有効な授業法と考えられます。
今回は、アクティブ・ラーニングの中でも、「ジグソー法」を取り入れた授業と、知識教授型(一斉型)の授業の、学習効果の比較について、実証研究報告をもとに紹介しました。




それではまた。
学びとマナビが、ひびき合う。
スクールタクトでした。


参考文献・リンク



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