社会について学びたい欲。

斎藤幸平氏の著書「人新世の『資本論』」を読了したので、感想をちょこっと書き残したいと思います。

1年のなかで、数ヵ月おきに読書をしたい欲があって、だいたい小説を読むことが多いのだけれど、最近は社会学について興味があって、ちょうど書店に行ったら、平積みされていたので購入しました。

僕自身は恥ずかしながら、これまで社会学に全くといって触れてこなかった人生で、タイトルにある『資本論』の内容に関する知識なんて当然なく、マルクスが書いた大作くらいのイメージしか持っていません。

そんな僕がなぜ社会学に興味が向くようになったかというと、それは勿論コロナの影響であって、今まで通用してきた社会的システムが破綻しつつ中で、自分達が暮らしてきた社会ってどうだったのか、そしてどうなるのか向き合わざるを得ない状況になったからです。似たよう感覚を抱く人はきっと多いかと思います。社会の流れに鋭く反応できる人はおそらく2011年東日本大震災を起点として、社会全体を覆う空気が不穏な方向に向かっていると、気づいていたかもしれません。

そんなどうしても悲観的な思考をしてしまいがちな状況で、解決策というかちょっとした光明を見い出したいと期待して読み進めた末に、まず感じたのは著者の切迫した訴えです。それこそ荒い息遣いがこちらに伝わってくるほどの熱量です。

なぜそこまで切羽詰まっているのかというと、著者によれば、環境問題特に地球温暖化が深刻な状態にあって、今すぐにでも対策をしなければ、そう遠くない未来に人類が生存していくには困難な地球環境になるからです。

現状のまま温暖化ガスを放置し続けると2100年には4℃以上の気温上昇が起こると危惧されています。4℃上昇するとどうなるかは本書の主旨とは異なるので、詳細な具体例が列挙されているわけではありませんが、日本で言うと南極の氷床の融解によって、東京都の江東区、墨田区、江戸川区の地域が、大阪府では淀川流域が冠水するらしいです。世界規模で見ると億単位の人々が移住を余儀なくされ、経済損失は年間27兆ドルになる試算もあるそうです。

ではどうしたら環境破壊を止めることができるのか、本書の言葉を借りるならば、資本主義という経済成長を基盤とする社会制度から脱却して、脱成長型コミュニズムの構築する他ないです。それが何を意味しているのかは、分かりやすく書かれているので、ぜひ多くの人に読んでほしいと思いました。

この本の内容をざっくり紹介すると、3つの構成から成り立っていて、まず始めに資本主義がいかに外部の犠牲の上に成立しているか具体例を挙げて述べられています。この部分だけでも読むべき本だと思います。色々興味深い内容が書かれていますが、特に考えさせられたのは、電気自動車のところです。排気ガスを出さない電気自動車にすれば、少なくともガソリン車が環境に与えている負荷は減らせるので、先進国を中心に電気自動車への転換に動いているように見えますし、僕もそれは良いことだと思っていました。しかし話はそんな単純なものではありませんでした。電気で動くものですから当然電池が必要になります。そこで使用される技術はリチウムイオン電池です。製造には複数のレアメタルが必要だそうで、当然リチウムもそれに含まれます。リチウムは塩湖や塩田に多く含まれていて、今現在産出できる地域は限られおり、ほとんどが南米アンデス山脈沿いの地域で、チリが世界最大の産出国となっています。リチウムを含んだ塩湖の鹹水が長い年月をかけて地下水として濃縮されていきます。その地下水を汲み上げ蒸発させて採取となります。その地下水の汲み上げ量が尋常ではなくて、一社だけでも一秒あたり1700Lになるそうです。これは現地の環境に甚大な影響を及ぼすことは容易に想像できますし、石油と同じで採取し続ければいずれは無くなります。結局何かの環境問題を解決しようとすると、別の環境破壊が新たに起こるという、ちょっと希望が見えてこない現実が横たわっています。

こうした厳しい現実がある中で、今の経済成長を追求する資本主義社会から抜け出さない限り、解決策はないと結論付けられるわけですが、その具体的な解決策の糸口として第2章でマルクスの資本論を考察する内容に続きます。
マルクスが資本主義から脱却する思考の流れが、詳しく書かれているのですが、資本論についての知識がまるでない僕には、正直深く理解できる内容ではありませんでした。ただ「価値」ではなく「使用価値」を重視する、また相互扶助のコミュニティを形成する、水や土地など暮らしていく上で必須なインフラを民間企業ではなく市民の手で共同管理していくなど、資本主義から脱却する理論が提示されています。

脱成長コミュニズムの内容がわかった上で、それが机上の空論にならず実社会で機能するのか、具体例を最後にいくつか紹介しています。その一つにバルセロナのフィアレス・シティというスローガンの元に行われている活動が述べられています。環境問題の取り組みというと、なんとなく北欧諸国のイメージにあったので、バルセロナは意外でした。

フィアレス・シティとは新自由主義の政策に押し付ける国家に対抗する地方自治体を指すようです。市民の社会運動によってバルセロナに変革が起きている模様です。それが実際どのくらい機能しているのかは本書を読んだだけでは分かりませんが、バルセロナのような大きな都市が変われば、それがモデルケースとなって世界中に広がる可能性を秘めていると思います。

僕自身はこれまで政治や環境問題に対して、さほど意識が向いていなかったのですが、これからはその意識を変えていかなければならないと思うに至りました。それくらいこの本はインパクトを残してくれたし、2021年序盤に出会えたことは良かったです。本自体の売れ行きも良いみたいで、今の社会に疑問や危機感を抱いている人が多いのかもしれません。

今は認識が変わった状態。今後は自ら動いていこうと思います。まずは日常の消費から変えていくことから、小さなことだけれど。例えば環境にも配慮して生産された商品をなるべく購入するとか。。。

うーん、僕はまだまだ知識不足なところがあるので、政治含め世の中の動きに関して、注視していかなきゃいけないなと思います。




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