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贔屓しないで



 


 今日は幼稚園でお絵かきをしたの。カレンちゃんはとても上手でいろんな色のクレヨンをつかってきれいな絵を描いたの。
 コナツはあまり上手には描けなかった。きれいな色を使いたいと思うんだけど、どうしても黒や灰色ばかりになっちゃうの。
 先生がやってきて、カレンちゃんの絵を見て「ふーん」って言って、すぐにコナツの絵を見て「とても上手に描けてる」ってみんなに見せるの。
 コナツの絵はぜんぜん上手じゃなくて、本当にみんなのお手本になるのはカレンちゃんのほうなのに。
 カレンちゃんは「コナツちゃんすごい」って拍手してほめてくれるけど、コナツはとても苦しくなるの。

 今日は小学校で演劇の配役が発表されました。来月の学芸会でやる「かぐや姫」です。
 小夏は主役のかぐや姫に指名されました。とてもうれしかったけど、本当は花蓮ちゃんがやるべきだと思っています。
 学芸会の出し物を劇にしようと言ったのは花蓮ちゃんでした。多数決で劇をやることにに決まって一番喜んだのも花蓮ちゃんです。
 花蓮ちゃんは将来、女優さんになりたいのです。この前、学校帰りにそっと教えてくれました。
 学級会でも大きな声でハキハキ発表できるし、男の子に向かっても物怖じしません。きっとすてきな女優さんになると思います。
 主役は花蓮ちゃんだと思っていたので、配役を決めた先生が最初に私の名前を呼んだときにはびっくりしました。
 「花蓮ちゃんのほうがいいです」と言いたかったのですが、先生たちが一生懸命に考えた結果だと思ったら言えませんでした。
 その日、花蓮ちゃんは一人で先に帰ってしまったようでした。
 昇降口に鍵をかけにきた警備員さんから「もう校内には誰もいないよ」と言われるまで私は花蓮ちゃんを待っていたのです。

 今日は高校の帰りにナンパされました。花蓮ちゃんと一緒に歩いているとき、男子校の制服を着ている二人組が近づいて来て「ハンバーガー店に行こう」と言いました。
 感じの悪い子たちではなかったのですが、二人とも私にばかり話しかけて、隣にいる花蓮ちゃんのことは見もしないのです。
 「どうする?」とたずねると花蓮ちゃんは「小夏ちゃん行ってくれば? 私は帰る」と歩き出してしまいました。
 私はあわてて花蓮ちゃんを追いかけました。花蓮ちゃんはどんどん足を早めていくので私はついていくのに一生懸命です。
 歩きながら私は何度も「ねえ、ねえ」と話しかけましたが、花蓮ちゃんは「今日は急いでいるから」と言ったきり口をきいてくれませんでした。
 結局、そのまま駅に着いてしまい、そこで分かれました。

 男子校の二人組は翌日も私たちの帰り道に現れました。その日もやっぱり私だけに話しかけるのです。
 花蓮ちゃんはまた何も言わずに早足でいってしまいました。戸惑っている私を二人は強引に引き留めます。
 結局、三人でハンバーガーを食べていろいろな話をしたのです。二人は話が上手で私は何度も笑っていました。
 その後いろいろあって、二人のうちの一人とおつき合いすることになりました。
 あとで聞くと、彼は通学路で見かけた私に一目惚れしてくれたのだそうです。
 もう一人の男の子が花蓮ちゃんとつきあえば良かったのに、と言ってみたのですが、「まさか、それはありえない」と言われてしまいました。
 彼とは卒業までつきあって、話し合って分かれました。

 社会人になってからも花蓮は一番大切な友だちです。
 休日にはショッピングに行ったり、スイーツを食べたりと二人はいつも一緒です。
 やっと分かってきました。花蓮はいつも私を引き立たせてくれていたのです。
 二人で歩いていたらまた、男の子が声をかけてきました。彼も私ばかりを見ています。
 花蓮はすかさず「用事を思い出した」と帰っていきました。
 しょうがないので私は男の子と並んで歩きます。このあと、この男の子がどんな夜を提供してくれるのか、今からワクワクします。

<了>