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外干し

あなたは「ヨーロッパ(南欧を除く)では洗濯ものを外に干さない」と考えていませんか。何をかくそう、私もそう思ってドイツへ移住しました。ところが、10年ドイツに住み、様々な場所を旅して、少なくともドイツでは、そう一概に言い切れないのではないかということに気付きました。

私は駅沿いにある小さな街から更に15分ほど山に登った住宅地に住んでいます。比較的敷地面積に余裕のある家が多く、広い庭付きの家も少なくありません。複数世帯が住む家の上階には、大抵の場合、テーブルと椅子をおいて会食できそうなくらいの広さがあるバルコニーがあります。そして、みなさん、天気の良い日はそこに洗濯物を干しています。もちろん、バルコニーの欄干より低い物干し台に干したり、裏庭に干したりと、表通りから簡単には見えないよう工夫していますが(私の家は3階にあるので、見るともなしに庭や低い位置にあるバルコニーや庭の様子が見えてしまうのです)。最寄り駅の駅の近くにや、近隣の都市の中心部には、日本の団地を小さくしたような多世帯住宅が並んでるエリアがあります。こういった多世帯住宅にはバルコニーがない場合があります。それでも「Hof」と呼ばれる中庭に、洗濯物を干す場所が用意されていたりします。
私が住んでいる場所はドイツ中部ですが、この洗濯物の外干し、何も中部に限ったことではないようです。今回旅したドイツ北部の街・リューベックでは、旧市街を囲む川の岸に洗濯物がヒラヒラと舞っていました。

ただし、ドイツで洗濯物を外に干せる時期は、それほど長くないのです。秋から春先にかけては曇りがちの日が多く、時々なんの予兆もなく霧吹きで吹いたような雨がサーッと降ってきます。晩秋から冬にかけては午前中、霧に覆われる日もあります。そういう日は、洗濯物の外干しはナンセンスで、屋内に干さざるを得ません。

リューベックで屋外に干されている洗濯物を見た日は、実はあまり天気の良い日ではありませんでした。干してある洗濯物はシーツなどのオオモノばかり。もちろん乾燥機で乾かすこともできますが、少しでも日の光に当てて気持ち良く乾かしたい、そんな気持ちが現れているような気がしました。

これがまたイギリスや北欧諸国となると事情が異なってくるのかもしれません。また、ドイツ国内においても住んでいるエリアの雰囲気・住宅事情などで変わってくるのかもしれません。しかし、少なくとも「ドイツでは洗濯物を屋外に干さない」という断定は、出来ないと思うのです。

5年、10年とドイツに住み続けることにより、「洗濯物の外干し」に限らず、旅行者としてヨーロッパを旅をしていた頃には知らなかったことが沢山あることに少しずつ気付き始めました。東京で生活していた頃のドイツに対する自分の思い込み、修正していく必要を感じています。異国・ドイツを知れば知るほど、今まで自分がドイツをきちんと理解していなかったということに気付く毎日です。

後記

今朝、何処でとある投稿を見ました。「ドイツへ旅行する人は注意して下さい。ドイツでは5本の指を揃えて手を上げ合図してはいけません。ナチスの敬礼に似ているからです。人差し指を1本だけ立てて手を上げましょう」と、若い日本人女性がドイツの街を歩きながら話している動画でした。
「へえ、ナチスの敬礼か。そうなんだ」と思いました。私は大学の講義に出席していますが、確かに人差し指を1本立てて手を上げ発言許可を求めている人はいます。しかし、5本の指を揃えて手を上げている人もパラパラといます。もちろん挙手したのは外国人ではなく、訛りのないドイツ語を流暢に話す、姓名からもドイツ系であることが推測できる人たちです。そして5本の指を揃えて挙手したからといって、講義室の雰囲気がおかしくなるということもありません。その筋の関係者である夫に聞くと、最近では挙手する時に5本の指を揃えて上げる人も珍しくなくなってきたそうです。そういえば、そういう夫も、例えばレストランなどで給仕担当の方に合図する時、5本の指を軽く伸ばした手を上げて合図していたように思います。
もちろん、ドイツ国内を隈なく観察してみれば、人差し指1本で合図するのが優勢な地方もまだあるのかもしれません。しかし、少なくとも私の日常的な行動範囲内では、合図する時上げるのが指1本だろうと5本だろうと、特に問題ないような気がします。習慣って絶対的に固定されたものではなく、次第に変わっていくものなんだなあと改めて感じた小さな出来事でした。

後々記

念のため。この投稿の冒頭のカラー写真はベネツィアで撮影したものです。このようの表通りに面した窓の前に洗濯物を干してあるような風景は、まだドイツでは見たことがありません。ドイツでは、上に書いたように「隠して干す」のが一般的だと思います。今のところ。
なお、イタリアの洗濯物の外干しはなかなか凝っていて、種類別、色別にきちんと分けて干している様子をしばしば見かけます。1本の洗濯ロープにきれいなグラデーションを形成してはためく洗濯物。時にちょっとしたインスタレーションのように感じられることも。案外きれいに見せることを意識して干しているのかもしれないなんて考えることもあります。

(この記事は2021年8月30日にブログに投稿した記事に、後記と後々記を加えて転載したものです。)