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私の木

丘の上に1本聳え立つ桜の古木。
私にとっては道標のような木でした。

春になると真っ白な花を咲かせ、初夏にはサクランボを山のように実らせる。それを摘み取る人がいないのか、いつもそのサクランボは宝石のように道の上を飾っていました。もったいないなあと毎年思いながら、私はその傍を通り過ぎたものです。本当に大好きな木で、春も夏も秋も冬も、カメラを変えフィルムを変え、何度写真を撮ったことか。その数はとても数えきれません。

先日、その木が切り倒されていることに気づきました。2021年6月に南側の太い枝が裂けて落ちて以来、春になっても花を咲かせることがなくなっていたので、いずれはこの時がくるだろうと予感していました。近寄って切り落とされた枝を見ると、中が黒ずんだ空洞になっている枝もあったので、倒木の危険性があると所有者(この辺りは私有地なのです)が判断してのことだったと思います。それでも、やはり切り倒されてしまった木を見た時は悲しくなりました。ドイツに移住してすぐにできた友人を失ったような気がしました。

切り倒され、枝を落とされ、ひと所にまとめられた桜の古木の上には妙に広い空が広がっていました。約12年間毎日のように通り過ぎた場所であるにもかかわらず、全く別の場所に来たような気すらしました。とても悲しかった。悲しかったけれど、今私にできることは、この木がいずれ燃やされ形を失ってしまうまで、カメラを変えフィルムを変え、写真を撮り続けることなのだと思いました。

今まで、ありがとう。