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スイス紀行 2.

Guarda

『ウルスリの鈴(Schellen-Ursli)』という絵本を知っていますか。私が幼稚園の頃、繰り返し読んだ本です(今でも岩波書店がこの絵本を出版し続けています)。そして、この物語の舞台となった村が、Guarda(グアルダ)です。

実に20年ぶりにこの村を訪れました。列車が駅に停車すると、目の前にマイクロバスが停まっていることも、このマイクロバスに乗り込み急なヘアピンカーブを一気に約300m登ると山の斜面に張り付くように美しい家が並んでいることも、村の背後の急斜面に放牧された牛の首についた鈴の音がコロン、コロンと村中に響きわたっていることも、記憶の中にあるとおり、全く変わっていませんでした。いえ、アロイス・カリジェがこの絵本の挿絵を書いた頃から、この村はほとんど変わっていないのかもしれません。

ひとつ変わったことといえば、「ウルスリの鈴博物館」が村の片隅にできていたことでしょうか。館内にはウルスリが暮らした頃のこの地方の家の内部の様子が再現されていました。この博物館は20年前にはなかったように思います。

入館無料かつ無人のウルスリ博物館の中には、その片隅にやはり無人のカフェがありました。コーヒーマシーンやケーキなどが入り口に綺麗に並べてあり、その傍にそれぞれの代金が書かれた小さな黒板が立て掛けてあります。そして、その前には、飲食代金を入れるための缶がポンと無造作に置かれていました。自分で好きなものを選んで食べて、その代金を缶に入れておいてください、つまりそういうことです。どんな人が来るかわからない。それでも、訪問者の良心を無条件に信じているこの無人カフェ、何だか妙に心を動かされてしまいました。