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Vivian MaierとRolleiflex

その重さが次第に苦痛になり、ここ3年ほど出動機会が激減していたRolleiflex。リュックサックに入れて持ち歩くことを思いついたことをきっかけに、去年後半あたりから再びRolleiflex熱が蘇ってきました。…となると、見たくなる写真集はVivian Maierの写真。写真集を見ながら、「そういえばかつて彼女について書いた記事をブログに投稿したことがあるなあ…」と思い出し、この記事をnoteに転載することにしました。パヴィアというイタリア北部の都市で、偶然出会したVivian Maierの特別展に行った時の記事です。この特別展、私のVivian Maierに対する評価を激変させる忘れられない展示でした。

今日(2020年11月27日)、Instagramのタイムラインをのぞいたら、東京で開催されているVivian Maierの写真展で撮影した写真を投稿なさっている方がいました。Vivian Maier特別展。実は私も行ったことがあるのです。もちろん東京ではなくて、1年半前にパヴィア(Pavia)で開催された特別展に、です。

パヴィアは、1361年に創立されたという古い大学があるロンバルディア州の都市です。その時、私たちはミラノに滞在しており、ミラノから日帰りで行くことができる場所として、パヴィアに向かったのでした。ひと通り街の中を歩き回り、さてそろそろミラノへ戻ろうかと駅の方向へ向かった時、Vivian Maier特別展開催を知らせる横断幕がかかっていることに気づきました。開催場所はヴィスコンテーオ城(Castello Visconteo)。Google Mapsで位置を確認すると、駅と反対の方向にあることがわかりましたが、もちろんそちらへ向かいました。なんという偶然。なんという幸運。これを見逃すという手はありません。

会場は城の地下部分でした。たぶん、かつては厩か武器庫だった場所だと思います。チケットカウンターで入場券を買う時、そこに座っていた若い女性が私が下げていたRolleiflexに気付き、「Vivian Maierはそれと同じカメラで写真を撮ったんですよ!」と笑顔を見せてくれました。展示内容はとても充実していましたが、会場には私たちのほかに数人程度と幸い混んでおらず、ゆっくりと見て回ることができました。

実は私、Vivian Maierは単なるカメラ大好きのアマチュア写真家の域を出ないのではないかと思っていたのです。彼女の写真が素晴らしいのは、膨大に残されたフィルムの中のごく一部のラッキーショットを、目利きが慎重に選んで写真集を編んだからにすぎないのでは。こんなこと、Vivian Maierファンが聞いたら激怒しそうですが、正直なところ、内心ではずっとそう思っていました。しかし、私はこの特別展に行き、大きく引き伸ばされた彼女の写真やコンタクトプリントを実際に自分の目で見て、今までの考えを180度改めました。やはり彼女はタダモノではなかった。

このコンタクトプリントを見てください。失敗写真が1件もないのです。あちこち異なる場所で異なる時間に撮影されたものと推測できるにもかかわらず、露出はきれいに揃っており、ピントを外したものもなし。構図に失敗したつまらない写真もありません。一コマも無駄にせず撮影しています。この他にもコンタクトプリントが何件か展示されていましたが、どれも12コマ、確実に撮っています。彼女は技術も目も持っていた...。「不遜なことを考えて、今まですみませんでした」と私は心の中で詫びたのでした。

この写真展、入場時に確認したところ「フラッシュなしなら撮影しても良い」とのことだったので、iPhoneとRolleiflexの両方で写真を撮りました。以下にその時Rolleiflexで撮った写真全件を貼り付けておこうと思います。Vivian Maierに「素人写真って、あなたの写真のことじゃないの」なんて言われそうですが...。

ところで、ミラノから帰ってきて間をおかず上から2件目の写真を、パヴィアの特別展の場所・期日を注記してInstagramに投稿してみました。するとこのVivian Maier特別展の主催者から「素敵な写真を投稿してくださってありがとうごさいます」といった主旨のDMが入りました(なぜDMかというと、コメントの返信を書くのが面倒だというモノグサな理由から、私はInstagramのコメント欄をこのブログ同様、常時閉鎖しているのです)。イタリア語で書かれたメッセージだったので、英語と、それをGoogleの翻訳機能を利用してイタリア語に訳したメッセージを返信しました。もう1年くらい早くイタリア語の勉強を始めていれば、もしかしたら、もう少しマシなお返事が書けたかもしれないなあ...なんて。今回、Vivian Maierの特別展やパヴィア大学の壮麗な建物を思い出すとともに、そんなことも考えました。

後記

Vivian Maierについて書かれた伝記を読んだり、彼女のセルフポートレートばかり集めた写真集を見ていると(書誌情報は末尾参照)、彼女が後年RolleiflexではなくもっぱらLeicaで撮っていたのではないかと推測することができます。そして、私は思うのです。そうだよね、Rolleiflexを持ち歩くのはけっこう大変だものね。

13年前、初めてRolleiflexを初めて手にした時は夜も眠れないくらい嬉しくて、その1年半後にドイツへ移住するまでは、職場にもRolleiflexを毎日持って行っていました。その頃は仕事が非常に忙しく、週末も出勤することが稀ではなかったため、このカメラで写真を撮るには平日の昼休みしか時間がなかったからです。出勤時に買っておいた昼食を15分くらいで食べ終え、その後は勤務先周辺をRolleiflex片手に歩き回っていました。当時、確かにRolleiflexを重いと思っていましたが、常に持ち歩くことはまだ苦には感じていませんでした。しかし、ここ2〜3年肩こりがひどく、近所をちょっと歩き回るにもRolleiflexを持ち出すことに躊躇するようになりました。それでも、やはりこのカメラが素晴らしいカメラであること、このカメラに対する憧れ、このカメラで写真を撮る幸せは少しも褪せていないのは確かです。いずれ、本当にこのカメラを持ち歩く体力がなくなるまで、そう、今のうちに、少しでも多くの写真をこのカメラで撮っておこう。今はそんなふうに考えています。

参照)
Vivian Maierの伝記
Ann Marks, Vivian Maier developed : the untold story of the photographer nanny, Atria Books, c2021

Vivian Maierのセルフポートレート写真集
John Maloof (ed.), Vivian Maier : Self-Portraits, PowerHouse Books, c2013