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【vol.4】福山市「学校再編」の動き

 今回からは、広島県福山市で起こっている学校統廃合の問題について考えていきたいと思います。私たちが福山市を取り上げるようになった経緯や思いについては、次の記事に書きました。

 また、学校統廃合の社会的な背景や権限などの制度的な面についても、過去に記事を書いてきた(なぜ今、学校統廃合なのか学校統廃合を決める権限のありか)ので、こちらをご覧ください。

 福山市では市教育委員会によって、強引ともいえるような学校統廃合が進められ始めています。今回の記事では、特に2015年以降の動きに焦点を当てながら、福山市教委の手続きの問題について考えていきます。

〇福山市について

 福山市は、広島県の南東部に位置する人口約46万人を有する中核市であり、中国地方では広島市、岡山市に次いだ規模を誇ります。

 市内には世界最大の鉄鋼一貫製鉄所があり、重工業を中心とした工業都市です。面積は517.72㎢(2021年(令和3年)1月1日現在)、人口は464887人(2021年(令和3年)6月末現在)です。


 福山市はこれまで市町村合併を繰り返してきました。合併変遷は以下の通りです。詳細は後に扱うこととします。

市域の変遷

出典:市域とその変遷 - 福山市ホームページ

〇福山市学校教育ビジョン

 福山市教育委員会が学校再編の考えを打ち出したのは、2015年(平成27年度)6月「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」でした。

 もともと福山市は、2003年度(平成15年度)から2008年度(平成20年度)までの6年間で「福山市学校教育ビジョンⅠ・Ⅱ」を立て、それに基づいて学校教育の基盤づくりを進めてきました。2009年度(平成21年度)から3年間は、「福山市学校教育ビジョンⅢ」に基づいて、小中連携の下で知・徳・体のバランスの取れた教育活動の推進に取り組んできました。

参考:これまでの学校教育ビジョン - 福山市ホームページ

 その後、2012年度(平成24年度)から2016年度(平成28年度)の5年間を実施期間とした「福山市学校教育ビジョンⅣ」を策定しました。ビジョンⅣでは「福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい社会をたくましく生きる子ども」の育成を目的に、小中学校が中学校区で連携しつつ、義務教育9年間を一体的に捉えた教育をめざす小中一貫教育を進めることとなりました。そしてこれを実現するために、「福山市学校教育環境検討委員会」が発足しました。

 この委員会は、2014年(平成26年)10月に「望ましい学校教育のあり方について(答申)」を策定し、その中で小中一貫教育校のほかに望ましい学校規模や学級規模が示しました。学校環境検討委員会のこれらの報告を受け、2015年6月に福山市教育委員会は「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」を策定しました。

〇福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針

 この方針の中で、市教委は小中一貫教育を推進するにあたり、2つの形態を示しています。1つ目は「施設一体型小中一貫教育校の設備」、2つ目は「連携型小中一貫教育校の体制整備」です。「施設一体型小中一貫教育校」としては、2019年(平成31年)4月に鞆小学校と鞆中学校が統合して「鞆の浦学園」という新しい義務教育学校が開校しました。

小中一貫校の推進形態

 そして、「小中一貫教育の効果を十分に発揮できる教育づくりのためには、学校・学年・学級・委員会・部活などの集団の中で進められる学校教育にとって学校規模は大切な要素である」ことから、学校の適正配置が必要であることを示し、この方針の中では以下のような適正規模の基準を定めました。

 この適正規模は、学校教育法施行規則の「標準」とされる学級数とは異なる、福山市独自のものです。また適正規模の基準に適合しなくなった場合は、学校の統合を検討するということも明記されました。

福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針 - 福山市ホームページ

適正規模の基準

基本方針の要件の基準

参考:福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針


〇福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)

 2015年8月、市教委は「福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)」を策定しました。「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」で定められた取り組み方針の中で、第1要件に該当する6つの小学校と3つの中学校の学校別適正配置の実施計画を定めたものです。

資料:福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件) - 福山市ホームページ 

第一要件対象校


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参考:福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第一要件)著者編集

〇「学校再編」と「学校統廃合」

 ところで福山市教育委員会は、「学校統廃合」という言葉ではなく「学校再編」という言葉を用いていますが、市教委は「学校再編」と「学校統廃合」は異なると説明しています。

学校再編と発行統廃合

参考:学校再編とは? - 福山市ホームページ

 学校の統廃合が、保護者や住民の納得や合意を得て行われることもあるかと思います。しかし福山市の場合は、市教委の進めたい「学校統廃合」の計画について、「学校再編」と言葉を変えてみることにより、正当化しているにすぎません。


 また、そもそも、市教委が挙げている「規模の小さい学校を廃校にし、大きい学校に吸収する」という「学校統廃合」の考え方の特徴に照らしても、福山市はまさしく「学校統廃合」に当たる計画を進めていることになります。

 次からは先行して学校再編の対象となった東村小、服部小の事例をみていきます。

〇東村小学校(①)の学校再編

 第一要件に該当した東村小学校は、当時の今津小学校の場所に新しくできる学校に再編されることが示されました。東村小学校から今津小学校までの道のりは、約2.5㎞です。第一要件が設定された2015年(平成27年)5月1日当時、東村小学校の生徒数は46人、学級数は6学級でした。そして以降は複式学級の状態が続くことが想定されていました。


 東村小学校と今津小学校の学校再編に伴い、各々の学区で市教委による説明会が行われました。東村小学校区では、2016年(平成28年)11月23日と2017年(平成29年)3月26日の2回にわたり行われています。説明会の中では、住民から学校存続を希望する声も上がりましたが、市教委は再編の実施は最終的に行政が責任を持って判断すべきであるとして東村小学校の再編は見直されることはありませんでした。

東村

参考: 2016年(平成28年)11月23日2017年(平成29年)3月26日

 今津小学校区でも、2017年(平成29年)12月15日と2018年(平成30年)4月に説明会が行われました。今津学区での説明会の中では、東村小学校との統合にあたり生徒児童が交流することができるのか、いじめ等の問題が起こった際にどのように対応するのか、東村小学校と今津小学校の保護者で話し合う機会を設ける必要があるのではないか、という質問が多く寄せられました。

 その後2018年(平成30年)5月に開校準備委員会が発足し、2020年(令和2年)4月6日に「遺芳丘小学校」として新しい学校が開かれました。2021年度(令和3年度)の生徒数は420人、学級数は21学級となりました。東村小学校跡地の利活用については、現在検討中です。

〇服部小学校(②)の学校再編

 同じく第一要件に該当した服部小学校は、当時の駅家東小学校の場所に新しくできる学校に再編されることが示されました。服部小学校から駅家東小学校までの道のりは、約4.5㎞です。第一要件が設定された2015年(平成27年)5月1日当時、東村小学校の生徒数は46人、学級数は7学級でした。そして東村小学校と同じく以降は複式学級の状態が続くことが想定されていました。

 服部小学校と駅家東小学校の学校再編に伴い、同じく各々の学区で市教委による説明会が行われました。服部小学校区では、2016年(平成28年)11月6日と2018年(平成30年)4月22日の2回にわたり行われています。1回目の説明会の中では住民から反対の声が上がりましたが、ここでも市教委は再編の実施は最終的に行政が責任を持って判断すべきであるという姿勢を崩しませんでした。

服部

参考:2016年(平成28年)11月6日2018年(平成30年)4月22日

 2回目の説明会では、前回の説明会から1年半もの時間が空いたことに対する住民からの不満の意見が多く出ました。このことに対して市教委は、駅家東学区の保護者との意見交換を重点的に行ってきたことを説明するとともに、住民に謝罪しました。その後住民からは、再編後の学校や地域に対する質問が多く出ました。

 服部小学校と駅家東小学校の学校再編に対しても、2018年(平成30年)5月に開校準備委員会が発足し、2020年(令和2年)4月6日に「駅家北小学校」として新しい学校が開かれました。服部小学校跡地についてもどのように利活用するかは検討中です。

〇終わりに

 福山市は、「福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい社会をたくましく生きる子ども」の育成のために小中一貫教育の整備を進め、その一環として学校再編計画を立てて実行してきました。

 市教委は住民説明会を実施し、一見すると住民の意見を取り入れながら計画を進めているようにも見えます。しかし説明会では、住民からの存続希望意見や再編反対意見が出ていながらも「最終的には行政が決める」という態度を崩しませんでした。また、服部小学校学区のように、住民への説明が不十分のまま計画が遂行されている側面もありました。

 特に注意すべきは、旧校舎の利活用の方法が廃校から一年経った現在でも決まっていないということです。どちらの説明会においても、旧校舎は地域の活性化のために利活用するという市教委の説明がなされています。今の状態では、市教委は住民を裏切って計画を進めたといっても過言ではありません。

 東村小学校や服部小学校と同じく第1要件に該当する山野小中学校、広瀬小中学校、内浦小学校、内海小中学校の学校再編では、これまで以上に市教委が強硬的に学校再編を進めようとする姿勢が見られます。次回からは、おもに山野小中学区と内海・内浦小学校区で進められている学校再編について、その問題点を考えていこうと思います。

M・Y

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