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豆腐、蕎麦、そして薬味

豆腐は水が命!繊細!とかよく聞きますね。蕎麦もそう言われる事が多いと思います。

まあ実際のところ、シンプルなだけに素材の状態や手際の良し悪しがダイレクトに風味に出てしまうのは分かります。そういう意味では繊細かもしれませんけど、ただ食べるだけの身としては誤差範囲でしょ?(同じ人が同じ工程で作った場合ね)

こういうジャンルでよく使われる言葉は「香り」です。大豆の香り、蕎麦の香り、という表現が異常に多いんですよ。うどんもそうですね、小麦の香り、とか。

でも、「繊細」だとか「香りが〜」という割に、どちらも強めの薬味を使うんです。晒しネギ、和がらし、ワサビ、そして醤油強めの濃い出汁。強いですよね?納得いきますか?冷たい料理でこんだけ薬味付けるのって、もつ刺しとか鰹ぐらいじゃないですか?ほんとに繊細ですか?

どちらの食材も、味的に言ってしまえばうすら甘いだけなので、重要なのは香りです。答えを言ってしまえば、香りを感じるタイミングというか、感じ方が重要なんです。

人間が匂いを感じる時、特に食べる時においては、2段階のタイミングがあります。
まず調理、提供、食べる瞬間に感じる香り。
そして飲み込んだ後に喉から鼻に抜ける香り。
前者がオルソネーザルと言って、いわゆる鼻で感じる匂いです。そして後者をレトロネーザルと言います。犬は嗅覚がいい、というのは前者で、人間が食事中に感じる風味が後者。
犬は人間に比べて嗅覚(オルソネーザル)が何万倍も良いというのは有名ですよね?でも、レトロネーザルは人間だけ、らしいですよ。
だから犬は「よくこんなん食えるな」っていう物も食べるんですね。
そして人間は、レトロネーザルのおかげで好き嫌いがあるし、調理技術が発達したし、調理や食べることを文化にまで磨きあげることができたんです。

そこを踏まえて、豆腐と蕎麦を思い出してみて下さい。直接匂いをかいでも、すごいほんのりじゃないですか?ここで「繊細だからねー」とか思っちゃだめなんです。
そう、重要なのはレトロネーザルです。飲み込んで初めて感じる香りなんです。
そして、豆腐と蕎麦のどちらも、レトロネーザルだとちゃんと強いし、残るんですよ。蕎麦粉を2割しか使ってないような立ち食い蕎麦でも、香りが長く残るからちゃんと蕎麦を感じられるんです。

でも、別の言い方をすれば、口に入れて香りを感じるまでちょっと間が空いてしまいますよね?

はい、そうなんです。その間を埋めるのが薬味です。
蕎麦とか豆腐の香りが感じられるまでの一瞬を、揮発性の高い香りでつなぐのが目的です。一口食べるという体験の中で、香りが途切れないんですよ。だからなんだと思うかもしれませんが、そのほうが楽しいし、臭みだけではなく匂いのない部分を補完するのも薬味の役割、ということです。

カレー南蛮とか麻婆豆腐とか、分かりやすい例が定番としてありますよね。香りを感じるタイミングが遅いという特徴があるから、スパイスとか薬味に全然負けないんですよ。繊細どころかキャラ強め。

もちろん薬味がなくても美味しい蕎麦とかありますが、それはまた別の機会に。

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