執筆した学術書が刊行されました!〜エンタメ分野から見た、香りの最先端
こんにちは。
香り演出家、郡(こおり)香苗です。
このnoteでは、香りの演出ウラ話、香りを仕事にするためにやったこと・やらなかったこと、私が最近気になっていることなどをお伝えしています。
もう年末ですが…この夏のトピックを記事にしていたのに投稿がまったく追いついてなかったことが心残りで急いでアップしています。
2023年は、ビジネスをさらにステップアップさせるための準備期間でした。新たな資金調達の目処が立ったため、会社の体制を強化。チームメンバーを増やしたり、2024年3月秋に正式ローンチする香りサイネージシステム 「Ambiscent(アンビセント)」をお披露目するための展示会準備をしたり(展示会は3回参加しました!)と、あわただしく動き回っていました。
テーマは「自社開発した、香り発生制御装置(Scent Machine)について」
そして今年の大きなニュースといえば、匂いと香りの最前線についての学術的な書籍に原稿を寄稿したことです!
共同執筆者は、東京大学、大阪大学、東京医科歯科大学東京工業大学、北海道大学など有名大学の教授や、ソニー、島津製作所、エステーといったグローバル企業、国立研究開発法人の研究員たち。もちろん、それぞれがさまざまな角度から香りを研究されている専門家です。最初にお話をいただいたときは、びっくりして「うそでしょ?!」という言葉しか出てきませんでした。
ベンチャー企業として香り演出をしている私が、著者のひとりとして名前を連ねることができたのは、恐れ多くも光栄でした! 大学や企業の研究者を対象にした書籍のため、なかなか高額(1冊5万5,000円です)なのにも驚愕……!!笑
そして今年の最後、年末に嬉しいことが重なり、同じ書籍に共同執筆されている東京工業大学の中本先生とお仕事絡みでお話させていただくことが叶いました。実は来年からの新たなプロジェクトにてご一緒させていただきます!
大学で研究室を持ち、日々デバイスの開発に取り組まれている先生方の努力には頭が下がります。
私も負けてられない…!身が引き締まりました。
さて、執筆させていただくことになった当時のことを振り返ると・・・。
編集部から「共同執筆者として、原稿を書いていただけませんか」と、オファーがあったのは昨年の11月です。テーマは、エンターテインメントの世界観に深い没入感を与えるために自社開発した、香り発生・制御装置「Saint Machine(セントマシン)」。製品化までの経緯、役割、スペック、使用例、将来の展望を執筆することになりました。
私は、思いついたことや考えたことを整理したり、手帳に書いて言語化したりするのが好きなタイプ。「要点を押さえながら、内容を組み立てる」「理路整然とまとめる」のはわりと得意です。これまでの経験では、自分の香りビジネスについて第三者にプレゼンすることで資金を調達してきました。
私が担当したのは、書籍第4章 第2節です。タイトルは「劇場やホールなどライブエンターテインメント空間における制御を目的とした香り発生装置の開発・製品化」。構成は、「エンタメ空間における、香りの制御装置とは何か」「香り特殊効果演出のニーズ」「装置の機構」と、すんなり決めることができました。しかし、「客観的事実を、論文として書く」のはなかなか難しいということに気づきました。
効果演出の師匠にアドバイスをもらいながら執筆
頭で整理しようとしても、パソコンに向かっても、原稿がなかなか進まない……。どうしたらいいのか困った私は、師匠に連絡を取りました。師匠は、私を香り演出の世界に導いてくれた、舞台効果の専門家)。
私といっしょに、香り演出機械の開発もおこなってきた“同志”でもあります。師匠は現在72歳。現場を退いてからしばらく経ちますが、何か困ったことがあったときに一番頼りになる存在なのです。
師匠は以前から、効果演出の技術継承についてよく話していました。
「効果演出の世界で活躍したいという若者を、後継者として育てたい。そのためには、私たちが持っている知識や技術を若者に伝える必要がある。
しかし今は、エンターテインメント演出について書かれた文献が存在しない。教材もない、カリキュラムもない。若者が何を学ぶべきか、どう進めばいいのかを提示できるよう、効果演出の歴史や技術論を文字にして残したい」。
私は、執筆途中の原稿を師匠に読んでもらいました。師匠から「もっとこんなことを書いた方がいい」「このことを書けば、きっと多くの人たちの参考になるだろう」と、いくつかのアドバイスをもらい、機械の開発経緯や特徴など内容を忠実に盛り込んで、原稿を完成させることができました。
師匠からは「僕もこうやってエンターテインメントの効果演出について書きたいなあ。うらやましいよ、いい経験ができたね」と、お祝いの言葉をいただきました。
研究者との違いは、「ニーズありき」での製品開発
本が手元に届き、他の執筆者の文章を読んで感じたのは「私がやっていることは、大学や企業の開発・研究アプローチとは反対なんだな」ということです。
大学や企業の基礎研究では、多くの場合のステップは「実現可能な技術なのか、役に立つかどうかもわからない」→「仮説を立てる」→「実験」→「成功すれば製品化」です。
私が、香り発生・制御装置「Saint Machine(セントマシン)」を開発したのはその逆で、「演出としてのニーズがある」→「機械を作る」という流れでした。
世界のどこにもないオリジナルの装置づくりでしたが、「必要なタイミングで必要な香りを瞬時に拡散させる」「必要がないシーンでは残り香が解消されている」「観客の視界の外で遠隔操作ができる」「騒音が少ない」など、演出効果で求められるスペックを盛り込みました。機械開発のセオリーもルールもわからなかったけれど、「エンタメ空間に嗅覚体験を掛け合わせ、観客に感動の記憶を持ち帰ってほしい」という想いでいっぱいだったのです。
医学・ヘルスケア・工学分野との共通点は「嗅覚体験を通して人々を幸せにしたい」。
本書には、香りの最前線を医学やヘルスケア、工学など幅広い分野の研究者による論文が多数掲載されており、興味深く読ませていただきました。
匂いを数値化する人工的な電子鼻「e-Nose」、高齢者や嗅覚障害者のための嗅覚測定「匂い提示装置」をソニーが商品化したことなどは情報としては知っていたけれど、研究・開発の実情は知らなかったのでとても勉強になりました。
また、私が目指している「嗅覚体験を通してWell-being(ウェルビーイング)を提供すること」に通じる論文にもたくさん出会えました。Well-beingは心身も社会的にも満たされている、広い意味での幸福と健康という概念です。
私が香りを作るのも、機材を開発するのも、Well-being、つまりは人間が幸福でいられるための手段です。人間はいい匂い、いやな匂いも含めてさまざまな匂いを嗅ぐことで、幸福を感じることができます。
また嗅覚は、記憶に深く刻まれやすいという特徴があります。香りから思い起こす記憶が、生きる希望になることもあります。本書を読んで、香りの世界は広く、そして奥深いなと改めて感じましたし、分野が違う研究者たちも、私と同じようにWell-beingを目指しているのだということに勇気をもらいました。
言葉にしたら「実現できた」。
実は、この記事は投稿こそできていませんでしたが、夏には以下のように書いていたようです(私もいま記事を振り返って見てびっくりしたのですが)。
年末になった今、研究室との連携が叶っています…!
感無量!
今年は、学術的な書籍の著者になるという貴重な機会をいただき、関係者のみなさまには本当に感謝しています。
香りの最前線に立つ研究者たちと肩を並べられたこと、Well-being(ウェルビーイング)という目標が研究者たちと同じだとわかったことなど、たくさんの収穫がありました。そしてこれまで、私が工夫して頑張ってきた香り演出を、嗅覚研究分野の歴史の一部として残せたことも感慨深いものがありました。
本書「匂い・香りの科学と評価・可視化・応用技術〜センシング技術の進展と呼気ガス分析・香り再現・演出等への展開〜」(サイエンス&テクノロジー社)を、ぜひ買ってくださいね、とはなかなか言いづらいのですが、香りや匂いの研究をされている方にとってはかなり勉強になる一冊だと思います。
ぜひお手にとってお読みいただけると嬉しいです!
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私が代表を務める大阪・淀屋橋「SceneryScent(シーナリーセント)」では、イベントや展示会、店舗などで香りを演出する事業を行っています。
世の中に「ある」香りの再現も、「ない」香りのオーダーメイドもOK。
また、イベント会場などで香りを拡散する機器を開発。販売やレンタルも行っています。
◆イベント、ライブ、テーマパークで香り効果演出
◆商業施設でのクリスマス装飾香り演出
◆ホテルブライダルでの香り空間演出
◆ミュージカルなど舞台演出での特殊効果の香り演出
◆アニメやゲームなど推しキャラの香り
シーナリーセント https://sceneryscent.com/
郡(こおり)香苗
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