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7本目のショートドラマ

みんな本当に演技が上手で
それだけでも感動なんですが。今回も書いておきます。
『手紙』の、作品解説です。

作品は、受け手と創り手との対話だと思っています。
どちらかが一方通行でもいけない。それでは作品が不幸になります。
この作品解説が対話のジャマになりそうであれば
そっとページを閉じて戻ってください。

脚本を書き終わった時点ではただの文字です。
それを読んで、練習して、演技して
演技の際に「これはどういうことなんだろう」と悩んだりして
そうして出来上がった作品が
たくさんの人に届いて、より大きな対話が生まれる。
それが作品の魅力だと思います。

主人公の七瀬鈴葉。最初のシーンで教室で手紙を書いています。
後ろから手紙を覗き込んで茶化すのが、宮部修渡。
将来、鈴葉の夫となる男性です。
この時点では、鈴葉と修渡は付き合っていない。
でも、鈴葉の台詞で
「あんたとは卒業式のあとから付き合うことになってる」
というのがありますので

『鈴葉は未来から来た』

と、わかります。ただ、修渡と普通にやりとりしていることから
外見はそのままで、中身だけ入れ替わってる、ということになります。
ややこしいですね。
ここは、台詞で説明されています。

『死ぬ前に、一週間だけ過去の時間に戻れるとしたら、あんたならいつにする?』

つまり、鈴葉は、未来から一週間だけ学生時代に戻ってきて
せっせとラブレターを書いている、という状況です。

なんで?

整理します。鈴葉がいつなくなったのか。
死ぬ前に一週間だけ過去の時間に戻してくれる。
そんなことができるのはきっと神様でしょう。
条件は、周りの人にそれと悟られない事、とか多分言われてる。
一週間を終えた本人は、また過去の本人と入れ替わるのですから。

手紙を覗き込んだとき
修渡は、「メールじゃなくて手紙」って言ってます。
LINEじゃなくてメールって言ってるので
まだLINEができる前、2010年ごろの話と想定します。

で、卒業後に付き合い始めて、結婚して、りんが生まれる。
鈴葉はりんに
「抱きしめてあげられなくてごめんなさい」と言ってるので
りんを生んだ直後くらいになくなっているとわかります。
というより、
「りんの命と引き換えになくなっている」くらいの可能性が高いです。

病気などでなくなったなら
わざわざタイムスリップしてまで手紙を書く必要はない。
病室で書けばいいんだから。

予期せぬ理由で、りんに会えなくなってしまったから
学生時代に戻って、生まれてくる我が子への想いを書き記したわけです。

りんが手紙を読んでいるのが、現代、2024年とするなら
りんが8歳なので、鈴葉がなくなったのは2016年ごろ。
鈴葉の2010年が16歳なので、23歳でなくなったことになります。
23年間の中で
りんに手紙を残すために選んだ一週間が2010年だったのはなぜか。

手紙を書くためだけに、その一週間を選んだのなら
2010年である必要はないわけです。
中2の夏でも、高1の冬でもよかった。

わざわざココを選んだということは
鈴葉の中で、もう一度経験したい何かがあった。
23年の歴史の中で、もう一度。

この『手紙』という物語は純度100%のラブストーリーです。
話しかけてくる修渡に対して
手紙書くのにジャマだから冷たくしてるわけではないんですよね。

「めっちゃ好きで恥ずかしいから照れてる」

いわゆるツンデレ状態。(中身は23歳だけど)

『世界で一番、あなたのことを愛してる』

これは、修渡に対する言葉
と見せかけての、りん
に見せかけての、実は「修渡」というW裏返し。
(もちろん手紙自体はりん宛のそれだけど)
ここが、この物語の本質であり
純度100%のラブストーリーたる所以なんです。

わかるか!

そうですよね。あと、もっとわからないのが
手紙を運ぶ装置として登場した机の引き出し。
鈴葉は書き終わった手紙を
「ちゃんと届けてよね」と言って未来に送ります。
この机が14年後にりんが使う机と同じかどうかはわかりませんが
可能性は低いでしょう。
小学校と高校が合併して、鈴葉とりんが同じ机に座るってことはほとんどないことだと思います。

つまり、この机は過去と未来を繋ぐ装置でもなんでもなく
「ただの机」なんです。
鈴葉がちゃんと届けて欲しいのは、手紙ではなくて「想い」。

映像上、机の中から手紙がタイムスリップしてきたように見えますが
単におばけとして登場した鈴葉と同時にくっついてきたに過ぎません。

りんは、ひとりになった教室で
2024年の時点では守護霊となっている鈴葉と対話しています。
このシーンはもはや本当ではなく
りんの妄想の可能性ですらあります。
母親のいないりんが、精神的に悲しくて
妄想で母親と会話している可能性もあります。
いや、むしろそのほうが現実的。

守護霊なんかないよ、妄想なんだよ。
それで物語を閉じることが正解だったのかも知れません。
鈴葉が神様に会って
一週間だけ戻ってきたことも
「愛してる」って手紙を書いたことも
全部が全部、りんの妄想。

本当に、そうなのか。

創り手としての回答は作品上に置いてあります。
答えは一つじゃないけどね。もう手を離れた。

みなさん、ぜひ対話しましょう!






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