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【2021年度卒展に向けて #4】田中良治先生が語る卒業制作と卒業生への思い

 基礎デザイン学科専任教授に「今年のゼミの出来事」や「卒業制作の意義」「先生ご自身の学生時代」を語っていただくスペシャル企画!
第4回目は田中良治先生です!

田中良治
'03 年に株式会社セミトランスペアレント・デザイン設立。ウェブサイトの企画・制作から国内外の美術館・ギャラリーでのインスタレーション作品展示までウェブメディアを核とした領域にとらわれない活動をおこなっている。主な活動にセミトラインスタレーション展 tFont/fTime(山口情報芸術センター)、光るグラフィック展1・2(クリエイションギャラリーG8)の企画、OPENSPACE 2008, 2015(NTT インターコミュニケーションセンターICC)への参加などがある。

少し外側の価値観を提示する意味 
身体測定の時にやるくらいの背伸び 

──まずは率直に今年のゼミを振り返ってみての感想をお伺いさせてください。 
 まだ僕は着任して3年目なんですね。だから実は対面での授業よりも、オンラインで授業している方が経験として多いし長いんです。そんな状況なので、コロナの状況下でオンラインだから苦労している、みたいな気持ちはそんなになくて、こんなもんなのかな、みたいな感じでやっているというのが正直なところです。 

──田中先生がゼミの時に気をつけていることや意識されていることを教えてください。 
 基本的には「考える」のは学生がやるべきことで、僕が何か方向づけをするっていうのは違うと思ってます。だから確実に進む方法やデザインの根本に関わるようなことは、なるべく示さないようにしていますね。学生ひとりひとりとの 会話の中で、それぞれが目指しているものを聞きつつ、その少し外側の価値観を 提示できればいいな、と思っています。僕は学生にとってのものづくりって「等身大」で作るものだと思っていて、そこに嘘があるといいものを多分作れないんじゃないかなと考えてます。とはいえ、やっぱり学生時代は一方で大人っぽく見られたいというか、「背伸びしたい!」みたいな気持ちもありますし、それによって成長できる部分もあるので、そうして欲しいという気持ちも少しあったり しますね。実は僕自身が学生時代にけっこう背伸びしていた痛々しい学生で (笑)。若い時だからこそある種、許されることもあって、そういうのもをやってみるのも大切だよ、ってことも伝えたいと思っています。 

──では田中先生の生徒のみなさんは等身大よりもちょっとだけ背伸びをしながら制作をされてるという感じですか? 
 そうだなあ、まあ多少は背伸びしているんくらいじゃないかなと思います。身体測定の時にやるくらいの背伸び(笑)。ちょっとだけよく見せたい、足を長く見せたいから座高は低く、みたいなそれくらいの感じで頑張っていますね。

──田中先生は学生が制作に行き詰まった時にどんな風に声をかけてらっしゃるのでしょうか? 
 それぞれの学生によって詰り方は違うから一概には言えませんが、基本的には考えが煮詰まっている場合には「失敗してもラフでもいいから作って考えてみよう」とか「手で考えることはしたほうがいいんじゃないかな」というアドバイスはしてますね。それから参考になりそうな作品とか書籍を紹介したりとか。あとはもう本当に話し相手になる、ですよね(笑)。 

──田中先生ご自身が行き詰まったときはいかがですか? 
 行き詰まった時は人と話します。他人に状況を話したり、世間話をしたりします。人と話しているうちに考えが自然にまとまったり、うまく洗練されて、何か のきっかけで着想を形にする道筋が見えてきたりします。僕の場合は世間話しながらでも、常に考えていることは「何を作ろうか」ってことだったりするので、着想になるきっかけを人と話しながら探っているのかもしれないですね。 

──今年のゼミで印象に残っていることを教えてください。 
 僕のゼミでは基本的にカメラオフなので、みなさんの姿を見たことがなかったんですが、6月の中間発表で初めて見られたことがそうでしたね。それまでのゼミの zoomの画面には、黒バックにそれぞれの名前がうつっていて、その文字に向かって喋っていたんですが、中間発表はカメラオンが指示されていたから、みなさんの映像が映ったんですよ。そこでみなさんのイメージの解像度が上がって、9月からは対面でのゼミが始まって、さらに解像度が上がったことが印象的でしたね。 

──最初からカメラオンのほうがよかったのでしょうか? 
 う~ん。そこはやっぱり学生の自由でいいかなと思いますね。実際ゼミ中は話しながらウェブを開いて、進めたりもするので、そこまでズームの画面は見ていないですし、文字に向かって話すのは僕はもう大分慣れましたから(笑)。ただ授業してる側の僕からすると、学生たちの反応が何かしらあったほうがありがたいですよね。特に卒業制作の後半に差し掛かると、みなさんがどういうテンションなのか、例えば学生が「大丈夫」と言っていてもそれが本当に大丈夫なのかどうかが、顔色を見ないと分からない部分もあるから、そういう点では対面やカメラオンの方がいいのかもなとも思います。とはいえ学生の希望が一番大事だと思っているので、そこは尊重していきたいですね。

寝ても覚めても突き詰めた時期 
デザインはオタクである 

──田中先生ご自身の卒業制作はどういったものだったでしょうか?
 
すでに手元には残ってないんですけど、大学生の時は普通に論文を書きました。その後、情報科学芸術大学院大学(以下 IAMAS)に進学し2年で卒業制作を作ることになったので、すぐに卒業制作に取りかかったって感じでしたね。その時は今のみなさんのように、いろんなことを学びきった後に卒業制作に挑む というよりは、学びとの同時進行のような感じで進めました。本当に寝ても覚めてもプログラミングしていて、それが楽しかった思い出になってます。今でもあの時期がなかったら、僕はいないと思うくらい、すごく頑張った濃い2年間でしたね。 

──田中先生の学生生活はどのようなものだったのでしょうか。
 
まず僕が入学したのが98年なんですけど、そのころはインターネットがあまり普及してなかったんです。さらにIAMASは岐阜県の大垣市という山の中にあって、周りは田んぼだけだったので刺激があまりない空間でした。そんな場所なので、本来であれば近くに住む場所を借りるんですが、抽選に外れてしまった。だからといってマンションに住むお金もなかったので、1週間に1度は三重県の実家に帰って洗濯とかをして、日曜日から金曜日の夜までは IAMASにある仮眠室で寝泊まりしてました(笑)。それも2年間です。深夜まで作業をしたり、学校の高価な機材で音楽を聴いたり、映像をみたり、ずっと何かをインプットしているような感じでした。だから学生時代は単純にデザイン論をひたすら勉強したというよりも、当時流行っていたものを土地的にも情報的にも遮断された場所で浴びていた感じですね。とても楽しかったです。 

【IAMAS20 CALCULATED IMAGINATION ポスター 2017年】
開校20周年を記念して開かれた展覧会。この他にも学友やIAMASとは現在も関わりが続いている。

──田中先生は当時、デザインの学び方についてはどのようなことを意識されていましたか? 
 概念的なことは授業で学びつつ、実践的なことは同級生から放課後に教えてもらいました。その子はかなり端的に「かっこいいデザインってこうだよ」みたいなこと をよく言ってて、「これくらいの小さい文字でこの辺に置くとかっこいいんだ」と教えてもらったりしていたので「マジかそれでいいんか!」みたいな衝撃を受けました。今、僕は教える側ですが、この子の教え方は美術学生には使えないけど、理工系の学生に教えてくれって言われたら圧倒的にこういう教え方をしま すね。あとは、とにかくいいデザインの真似をして、感覚を掴むことが多かった です。ちなみに僕はそういうタイプではないんですけど、デザインを仕事にして いる周りの人や巨匠って言われる方とかを見ていると、圧倒的にデザインオタクが多いですよね。高校生ぐらいからずっとデザインが好きで、概念や手法、歴史なども含めてすごく詳しい方が多いです。やっぱりデザインはオタクになるぐらい学べれば、それでもう仕事になる感じがしますね。

卒業制作は未来に向けての初期設定 
制作の魅力を知るいい機会にしてほしい

──当時の卒業制作が田中先生の現在とどのようにつながっていると思いますか?
 卒業制作に限らず、IAMASにいた 2年間の学生生活が、今の僕のスタートになっている感じがします。昨年、亀倉雄策賞受賞記念でやった「光るグラフィック展0」では時計をモチーフにしたんですが、実は学生の時にIAMASで「時計を作る」という課題が出て、取り組んでいたんです。同じ課題を23年後に作り直してるっていうのはすごく面白い体験でした。 

【第23回亀倉雄策賞受賞記念 田中良治「光るグラフィック展0」 2021年 クリエイションギャラリーG8】

──卒業制作は私たち学生にとってどんな位置付けのものだとお考えですか?
 位置付けとしては初期設定だと思います。卒業制作を文字通りに制作の卒業としてしまう学生もいると思うんですけど、一方で改めて制作の魅力に気づく学生もいると思うんです。卒業制作を提示するというよりは、自分のやりたいことが微かにでも見つかるいい機会になるんじゃないかなと思いますね。そこから先どう自分が育っていくかは割とその時見つけた方向性次第なところがあるので、どんなことが掴めたかでその後が決まるから重要ではありますが、これがゴールだとは思わないほうがていいとと思います。なので卒業制作がすごく評価されるべきだとは思わないですね。むしろそこでうまく力を発揮できなかった反省も含めての初期設定だと思っています。

【セミトラインスタレーション展「tFont/fTime」2009年 山口情報芸術センター[YCAM]】
田中先生の初期作品。時間と文字をテーマとした初めての個展。

──今年の2022年卒業生に向けてのメッセージをいただきたいです。
 制作する魅力に気づいてほしいし、卒業しても続けてほしいですね。ものづくりって1個1個の勝負なんですが、連続性やどう変化しているかも重要なんです。失敗だと辞めない限り、続けることができるし、続けているうちに成功にたどり着く場合もあります。なので、制作は続けて欲しいのです。とはいえ、大学を卒業して仕事に追われると、自分の制作はなかなかできないんですが、それでも仕事で何かしら手を動かしたり頭使っている中で思いつくこともいっぱいあると思います。僕は実際、仕事を通して思いつくことがたくさんあります。それにデザインの世界って、早咲きが必須ではないような気がしているんですよ。

──ありがとうございます。では、今回の卒業制作展に来場される皆様にメッセージをお願いします。 
 学生にとっては、観客がいるという実感は、今後の彼らにとっての大きなモチベーションになります。自分が作ったものが、何かしら他人に考えるきっかけを与えられているという実感を持てるといいな、と思ってますね。だから、感心したり、興味を持っていただいたり、あるいは疑問に思ったことがあれば、どんなに些細なことでもよいので、ぜひ学生たちにお声掛けしてもらえたらありがたいですね。 

──最後になにかもう一言だけお願いします! 
 そうですね。ネットとかで取り上げられていないような、面白いものを作る人や作品を見つけて、出会ってほしいですね。僕の実感として、面白い物を作ってる人は自分のやっていることをアピールする時間も惜しんで作っているんです。

──そういう人に出会うコツみたいなものはあるのでしょうか?
 何となく流行っているとか、友達の口コミとかに頼らずに、自分で見て判断ることって大事だと思いますね。やり方としては、過剰な数とか熱量とか、通常から逸脱するくらいのエネルギーを出会いのために注いでみると良いと思います。一生続ける必要はありませんが、振り返った時に「あの頃の自分はどうかしていたな。」と思えるようなくらいが目安ではないでしょうか(笑)。

(取材編集・大場南斗星 有田礼菜 松尾花)



次回記事は明日公開!第5回目は菱川勢一先生のお話しをお聞きします!

令和3年度 基礎デザイン学科 卒業・修了制作展
【開催期間】2022年1月13日ー1月16日
【会場】武蔵野美術大学鷹の台キャンパス
【時間】午前9時から午後5時まで
【公開プレゼン】1月16日13時から 1号館103教室にて


卒業・修了制作展入場には予約が必要です。
1月7日(金)9時から 専用サイトにて予約開始↓


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