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【2021年度卒展に向けて #3】小林昭世先生が語る卒業制作と卒業生への思い

 基礎デザイン学科専任教授に「今年のゼミの出来事」や「卒業制作の意義」「先生ご自身の学生時代」を語っていただくスペシャル企画!
第3回目は小林昭世先生です!

小林昭世 
 武蔵野美術大学大学院造形研究科(修士)修了。専門は、ユーザーが人工物に接するときの操作などの体験の観察・調査と、それをデザインに役立てる研究「デザイン・ナレッジ」、そして、20 世紀はじめにヨーロッパで展開するデザイン概念、形態、色彩などについての思想、文化、歴史の研究。

結論を急ぐ必要はない
うまく逃げ場を作ることが大事

──まずは率直に今年のゼミを振り返ってみての感想をお伺いさせてください。
 基本的にコロナ前ともコロナ禍の去年とも僕と学生の距離感はそんなに変わっていない気がします。一方で学生と学生の距離は大きく開いてしまっていて、学生同士が密にコミュニケーションが取れない感じがしました。だから僕のゼミではみんながそれぞれが抱えてる問題とか、お互いに聞きたいことを話し合ったり、持ち寄った情報を出し合ったりして進めていて、ディスカッションと世間話の中間のような感じで意図的にやっていました。前期の終わり頃に試しに1度対面でゼミをやりましたけど、やっぱり親しい距離感の方が話が弾みやすいんだなと感じました。

──ゼミのときに学生たちに気をつけてほしいことなどがあれば教えてください。
 1番は他の人の課題にも関心持った方がいいと思います。普段課題をやっているときって、親しい友だちが出した課題の問題意識についてはよく考えるけども、そうじゃない人の問題意識ってあまり触れる機会がないですね。自分が普段考えていないようなことについて考えてみる重要な機会だと思うんです。みんな自分の課題に集中しすぎて、あまり他の人の課題について考える余裕がないのもわかりますが、やっぱり1週間の中でゼミの3時間ぐらいは自分のことだけじゃなくて、他の人の問題意識も考えてもらえたらいいなと思います。

──小林先生は学生が制作に行き詰まったときにどんな風に声をかけてらっしゃるのでしょうか?
 それはとても難しい。行き詰まってる人って、パニックとまではいえないけれども、あまり他の人の意見って聞き入れにくい状況にあると思うんです。それはもう時間をかけるしかない。その場ですぐに解決するのではなくて、2週間とか3週間とか時間で解決するしかないのかなと思います。大体そういう風に行き詰まってる時って、一気に結論を出そうとしてますよね。「最初にこれを考えて、次にこれを考えると結論が出るかな」っていうことではなくて、いきなり結論を得たいと思ってるから、そういう時って外の声って届きづらいんだろうと思います。だからやっぱり本人が落ち着いて考えられる状況まで待つしかないんじゃないでしょうか。卒制だけやるよりも、やることが複数あるといいと思います。うまく逃げ場を作るということですね。例えば就職活動に行き詰まったら卒制やったり、卒制が行き詰まったら就活で会社に履歴書出してみようかなって、そういうふうに違うことをいろいろとすると、行き詰ったときも少し気持ちが楽になると思います。自分の課題に行き詰まっている時でも、他の人の課題について考えることはできるかもしれません。

──小林先生ご自身が行き詰まったときはいかがですか?
 行き詰まりというか、迷うことはよくあります。そういうときは時間をかけて、他の仕事をするようにしてますね。別のことは進めることができますし、それをしてる時にパッとも思いつくかもしれないですから。

──今年のゼミで印象に残っていることを教えてください。
 ゼミとしては、シラバスに載っているようなことを着々と進めるとか話し合うとか、そればかりやっていた気がしますね。コロナの影響もあって、ゼミ旅行などのイベントがあまりできていなくて残念な気持ちはあります。

──小林先生は基礎デザイン学科(以下基礎デ)の学部から大学院までいかれたとお伺いしています。学部卒業時のご自身の論文はどういうものだったのでしょうか? 
 僕が基礎デを卒業した頃は、卒業時に半分くらいの人は論文を書いて、半分くらいの人は制作をするといった状況でした。僕は「言葉でデザインを語ったり、デザインを説明したりすることがどこまでできるのか?」そういう疑問があったので、そういうことをテーマとした論文を書きました。それは今基礎デの2年生の記号論の授業で僕が講義でやってるようなことなんですけどね。

【小林先生の卒業論文と修了論文】
【小林先生の学部卒業論文「デザインの意味の記述について」】

──大学院に進学されたのは、それを続けてやっていきたいと思ったからでしょうか?
 そうですね。でもやっぱり大学院に行く時は迷っていた記憶があります。自分がやりたいことをデザインの中でやったらいいのか?あるいはデザインから飛び出して芸術学とか哲学とかそういうところでやったらいいのか?そういう迷いはあったんですけど、やっぱりデザインの中でやろうと思いました。

──ちなみに大学院を卒業される時の論文はどういったものだったのでしょうか?
 修了する時に書いた論文は「パース」「記号論」についてでした。この研究がデザインにどういう風に結びつくかはわからなかったですけど、そのころはまだパースの研究があまり進んでいなかったので、それをやりたい気持ちがあったんです。特に「美しさの体験を記号論的にどう考えるのか?」っていう問題を考えました。その論文は早めに、秋頃に終わったんですけど、そうしたらその頃の基礎デの先生たち、向井周太郎先生も含めて全員から「もっともっとデザインの問題や芸術の問題につっこめませんか。記号論は記号論で書いて、もう1章付け加えて、芸術とかデザインの問題をやりませんか」って言われました。

【小林先生の大学院修了論文「デザイン記号論の基礎的な問題点について」】

──かなり早めに終わって時間の余裕があったんですね。
 僕ギリギリでやるのがだめなんですよ。一夜漬けとか、締め切り前の馬力っていうのが出ないタイプなんです。だから前もってやってて、修士の時も早めに終わっていました。受験勉強も「受験の時だから集中してやる」っていうのがだめで、普段と同じような緊張感で毎日過ごしました。

──基礎デに入学されたきっかけはなぜでしょうか?
 現役の時に大学を落ちてブラブラしてまして、僕は何をしたらいいだろうかと考えていろんな大学の案内を見ていたんです。そこで基礎デザイン学科のものを見たら、形態論とか色彩論とか文体論(現在の言語表現論)、記号論、サイパネティクス、映像工学とかそういう授業がいっぱいあって、何をやるのかわからないけれども、面白そうだと思ったんです。高校では歴史とか英語とか、ある程度予想できるような勉強でしたけど、基礎デの授業は何をやるのかよくわからなくて、それが気になって入学しました。

──デザインの学び方については、小林先生自身どのように意識されていますか。
 僕は基礎デに入ったはいいけど、デザインってなんだかよくわからなかったんです。それでも最初に面白いなって思ったのが、工業デザインでした。工業デザインや空間デザインをしていたんですが、3年生ぐらいの時に、実際のデザインでものを作るよりはその前の段階にある研究や調査など、そういうことの方が面白くなって、方向を変えることにしました。僕は「学び」について、その時の関心で学び始める時、今までやってたことをやめる、中止することにそんなにこだわりがないんです。

──それで大学院は向井先生のゼミだったんですよね。
 そうです。4年生から続けて、大学院でも向井先生のゼミでした。その当時の大学院は、1学年1人しか院生がいなかったんですよ。ちなみに僕の2年下が原研哉さんでした。

できそうなことだったらまずやる
やってみて面白かったらどんどんやる

──小林先生はずっと基礎デにいらっしゃいます。ズバリ「基礎デって何?」なのでしょうか?
 原さんと僕は学生の時から40年も話してるけど、答えがあるような問題じゃないですね(笑)。一言で言えるものではなく、やっぱりそういうことを話すこと自体が楽しくて好きなのが基礎デなんだと思います。そもそも自分の所属する領域がわからないっていうのは、よく知ってるからこそ、常に知識が更新されていて、わからないのかなと思います。人って知らないものについては一言で片づけるじゃないですか。例えば「自分はどんな人間?」って聞かれても自分のことはいろいろ知ってるからなかなか一言では言えない。でも他人のことはあまり知らないから気楽に一言でいえたりする。僕の感覚としては、基礎デの人は他の学科の人と少し違って、考える人の割合が多いと思ってます。考えること自体が好きな人たちが集まりやすい学科なんだと思います。

──小林先生が学生のときに書いた当時の論文は、先生の現在とどう繋がってると思われますか?
 その当時と現在が繋がってるかどうかはわからないけど、今見てもよくやってたなと思います(笑)。おそらく今でも普通のレベルで出せる内容だと思いますね。別にレベルが高いとかそういう問題ではなくて、普遍的なテーマであり、それと同時に流行ではない、多くの人が興味を持つテーマではないけれど、今でも興味を持つ人はいるテーマだと思います。

──小林先生ご自身が現在やってることはそんなに当時と変わっていないんでしょうか。
 変わっていないけど、やっぱりその都度やりたいことは発生し、関心は今も増えていってます。例えば、僕が歴史に興味を持ったきっかけは大学院に入った時に、向井先生のお仕事の手伝いをしたことでした。ドイツの出版社の美術全集に、向井先生が日本のデザインの歴史を書くということで、その資料集めを手伝うことでした。それまでは歴史に全然興味がなかったんだけど、面白いと思いました。それが終わってから大学院の2年生か3年生の時に、三菱総合研究所に当時勤めてたんですけど、環境デザインとか地域計画をやって、数字の情報を処理したり分析して計画できるのは面白いなって思いました。それをきっかけに統計処理とかアンケートとか、解析に関する関心が生まれました。大学院修了後に向井先生の事務所で手伝う機会があって、その時、オフィスの色の調査と計画をやってたんですけど、色っていうのはとても面白いものだと改めて気づき、30歳ぐらいの時から色の研究を始め、それは今も続いています。その都度やることが広がっている気がします。

──現在やってることに加えて何か面白いことがあったらちょっとやってみようって気軽に手を出せるんですね。やりたいと思ったことに対する気持ちが強いということですか?
 いや、元々僕は性格的に「これをやりたい」っていう強い気持ちがあるわけじゃないんですよ。周りに「こういうことをやってみない?」とか「こういうことをやる人がいないんだけども」って言わて、できるわけじゃないけども、できそうな範囲で引き受けてやるという姿勢です。平凡社っていう出版社で杉浦康平さんがディレクターになり、百科事典を作る時、図版を含め編集と制作をコンピューターで作ることになったのですが、コンピュータで図版を制作することがわかって、時間の余裕があるのでその仕事に推薦されて仕事をすることがありました。僕はそんな感じで、これをやりたいってことが内面から出るというよりは、人から「こういうのどう?」って言われて、面白そうかなって思ってまずやってみて、そして面白かったら深入りするってことが今まで多かったと思います。

自分の位置を確かめる際には
基礎デを目印の一つに

──「卒業制作」とは私たち学生にとって、どんな位置づけのものだとお考えですか?
 大事な思い出になると思います。何のためにやるのか、何を学んだのかって個々の意義を考えるとなかなか難しいんだけど、1年間かけることだから、技術とか知識ばかりではない、課題と付き合った時間の蓄積として大事かなと思います。例えば、美術予備校で1年ぐらいデッサンやったりデザインを学んだりするじゃないですか。何を学んだかということだけでなく、それと同じぐらいの時間、具体的に言うのは難しいけれども、きっとその人の中にはいろいろなものが蓄積されていると思います。

──今年の2022年卒業生に向けてのメッセージをいただきたいです。
 コロナが完全に収束してはいないけど、卒業前に少しでも日常が取り戻せて良かったと思います。12月を過ぎればみんなに自由な時間が増えるし、友達とも付き合えるし、最後の学生生活に楽しいことができればと思います。それから、就職についてですが、コロナがあっても相変わらず募集してる業種とか、募集がなくなってしまう業種とか、利益をあげてる業種とか、結構苦しい業種とか、そのあたりがはっきり分かれてますよね。そういう中で今の4年生っていうのは就職先を探す時に、普段の4年生たちが考えないような、その産業の行方や、10年後のことなどをよく考えたんじゃないかと思います。コロナで苦しいことも多く経験しましたが、例年にない経験ができたと思います。ぜひこれからもがんばってほしいと思います。

──ありがとうございます。では、今回の卒業制作展に来場者されているみなさまにメッセージをお願いします。
 武蔵野美術大学の卒業制作展は1000人もの展示がありますが、興味がある作品については細部までよくみてもらえたら嬉しいと思います。それからもしもう少し余裕があれば、作品だけじゃなくて、それを作った学生に、気軽に声をかけてほしいなと思います。卒制で実現できたことは今まで彼、彼女らが考えてきたことの一部です。だから作品になってない部分、何をやろうとしたのか、生活とかその学生にまつわることにも関心を持ってもらいたいと思います。

──最後になにかもうひと言だけお願いします!
 えーーと、原先生と以前した話なんですが、僕ら自身もデザインの仕事をしたり研究の仕事をしたり、新しいことに取り組んだり、学生と同じようなところがあります。それと同時に、灯台が船が岸にぶつからないように光を出すように、相変わらず同じ場所にいて、学生の目印になるような役割が基礎デ研究室にはあると思います。今後みんなは自由に自分のデザインの進路をとります。そのとき、自分の位置を確かめるために、周りの友達との関係で自分の位置を確認するだけではなく、基礎デザイン学科や研究室を原点として見てほしいです。基礎デザイン学科や研究室はそういう自分の位置や活動の領域を確認するための一つの目印になればと思います。

(取材編集・松尾花 有田礼菜 大場南斗星)



次回記事は来週12/25 (土)公開!第4回目は田中良治先生のお話しをお聞きします!

令和3年度 基礎デザイン学科 卒業・修了制作展
【開催期間】2022年1月13日ー1月16日
【会場】武蔵野美術大学鷹の台キャンパス
【時間】午前9時から午後5時まで
【公開プレゼン】1月16日13時から 1号館103教室にて

卒業・修了制作展入場には予約が必要です。
1月7日(金)9時から 専用サイトにて予約開始↓


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