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AirBnbの“つながり”を科学する。

昨年上場し、時価総額が一時10兆円を超えたことでも話題になった民泊プラットフォーム『AirBnb』。

家の空いたスペースと宿泊したい人をマッチングするサービスから始まり、今では約220の国や地域で利用され、登録されている物件数は740万件を超える巨大プラットフォームですね。




宿泊と体験のつながりで利益を生み出すAirBnbには、どんなつながりが存在するのか?

つながりを科学する理論『SCB理論』を用いて、AirBnbのつながりを科学していきます。

※つながりを科学するとは・・・
人と人のつながりや人とモノのつながりなど、普段私たちが感覚的に認識している“つながり”を、理論的に捉えなおすことです。


AirBnbの「イ・ト・コ」


SCB理論では、個別のつながりを評価するための指標として「イトコ」というものがあります。
その指標とは、インセンティブ(報酬)、トラスト(信頼)、コネクト(つながり)。
それぞれの頭文字をとって「イトコ」と呼んでいます。

まずは、この「イトコ」を使用して、AirBnbのつながりを分析したいと思います。


インセンティブ(報酬)

つながりに、どのようなインセンティブや行動動機が存在しているのか?

AirBnbに参加している人は大きく分けると、場所を提供する「ホスト」と宿泊を行う「ゲスト」に分けることができます。

ホストのインセンティブ
・余った資産からお金が生まれる。
・普段は会えない旅人と触れ合える。

ゲストのインセンティブ
・比較的安く宿泊できる。
・通常のホテルではなかなか出会えない、地域の人と触れ合うことができる。

両者とも金銭的価値と宿泊をとおした体験価値が、インセンティブのメインと予想されます。
また最近では、ホストが独自の体験をオンラインやオフラインで提供できるサービスもに力を入れているようです。


トラスト(信頼)

AirBnbでは、つながりの信頼をどう担保しているのか?

利用規約などを確認したところ、以下のような制度を採用しているようです。

・相互レビュー評価
・本人確認制度
・スーパーホスト認証制度
・万が一の場合のトラブル解消窓口、保証制度

全世界の人がつながる可能性があり、また宿泊という重大トラブルにつながる可能性も考えられるサービスを扱う分、定量的で客観的な信頼性を重視している印象です。
逆に地域内や知り合い同士などの、狭い空間での主観的な信頼性の担保は採用していないようですね。


コネクト(つながり)

AirBnbは、どのようなつながりの「形」をしているのか?

SCB理論で定義されているつながりの形(体系)を参考に考えてみます。

※つながりの体系とは、つながりを概念図化し、抽象度の高い状態で認知できるようにしたものです。つながりの体系は、そのつながりの特性に合わせて5〜7種類ほどで分類されています。(サーバーモデル、クライアントサーバーモデル、ハイブリッドモデル、ピュアモデル、セミピュアモデルなど)


私の理解では、AirBnbはこの中の『ハイブリッドモデル』にあたるかと思います。

ハイブリッドモデルとは、サーバー(プラットフォーム管理者=AirBnb)とクライアント(資源提供者=ホスト)に分かれており、クライアント同士はサーバーを介さずにつながることも可能な状態です。
そして、プラットフォーム利用者(=ゲスト)は、サーバーを介してクライアントとつながります。

文章だと意味不明かもしれませんが、図で見るとこんな感じです。

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AirBnb    サーバー(プラットフォーム管理者)
ホスト  クライアント(資源提供者)
ゲスト  プラットフォーム

ハイブリッドモデルとは、サーバーの負荷はあくまでも仲介者として最低限におさめつつも、サーバーを中心に回るプラットフォームの形といえます。


プラットフォームの評価

つづいて、つながりを生み出すプラットフォームとしての評価を行います。
ここでみる評価要素は、「安定性(サーバントの有無)」「規模拡大性(スケーラビリティ)」「つながりの寿命」です。

安定性(サーバントの有無)

プラットフォーム内のつながりに、安定性はあるのか?

サーバントとは、プラットフォーム利用者がサービス提供者にもなり得る状態があるかどうかです。
サーバントがある方がよりプラットフォーム内のつながりは強くなり、安定性は高くなると評価します。

その面でみると、ゲストが自分で宿泊施設を用意してホストになることも可能ですし、ホストがゲストとして利用することも可能ですので、サーバントが有る状態といえます。


規模拡大性(スケーラビリティ)

プラットフォームのつながりに、規模拡大性はどのぐらいあるのか?

SCB理論では、クライアントが増えてもサーバーの負担が上がりすぎない状態をスケーラビリティがある状態と評価します。

その点で考えるなら、サーバーが資源の提供自体は行わないので比較的スケーラビリティは高いモデルかと思います。
逆に仲介に関する部分は全てAirBnbが担っている状態です。


つながりの寿命

プラットフォーム内のつながりの寿命はどのぐらいあるのか?

SCB理論では、どのレイヤー(階層)でつながるかで、つながりの寿命は変わると定義しています。
そのレイヤーとは、機能、オブジェクト、活動、理念です。
後者のレイヤーになればなるほど、つながりの寿命は長くなっていくと評価しています。

AirBnbは、宿泊という機能と、空間というオブジェクトでつながっています。
ホストによっては、体験という活動でもつながる場合もあるので、つながりの寿命自体は個人差が大きそうですが、比較的一個一個のつながりは短くなる傾向があると考えられます。

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以上のことを考えると、安定性は比較的高く、拡大性はプラットフォームの仲介機能に依存している、個々のつながりの寿命は比較的短め、というのがみてとれます。



AirBnbを地域プラットフォームで活用するには?


ここまでAirBnb内のつながりを分析していましたが、ここからは一気に角度を変えていきます。

SCB理論は、つながりを科学すると共に、地域活性やコミュニティプラットフォーム構築を目的とした理論です。

そこで最後は、「地域プラットフォームでいかにAirBnbを活用できるのか?」を検討してみたいと思います。


簡単に考えると、以下のようなつながりが考えられます。

・地域の空いている家や施設を宿泊施設としてAirBnbに出品する。
・AirBnbに出品している施設を利用して、一緒にイベントを行う。
・他地域の知り合いをAirBnbを通して招待する。
・地域での料理づくりや工芸品づくりをAirBnbを通して体験商品として出品する。

AirBnbを介して地域の宿泊施設を提供し、宿泊者と地域の人との交流を通して地域を活性化させる、といった感じでしょうか。
AirBnbを利用しているかは別として、今さまざまな地域でみられる動きだと思います。(コロナの影響もありますが、この流れ自体は着々と進んでいる印象です。)


しかし、何となくですが、私の中ではこういった動きをイメージする際、何ともいえないもやもやを感じます。

…本当にこれだけで地域プラットフォームは活性化するのでしょうか?


というのも、このような動きをする場合、分かりやすい観光資源をうちだしたり、地域ならではの魅力を出そう、という流れになることが多いと思います。

たしかに、観光資源などの地域特性は、実体として認知しやすく、その地域の魅力をうちだせば、地域外の“多くの人“が集まる可能性はあります。

しかし、この地域特性を魅力としてうちだす、というのは分かりやすい反面、同時に難しさもあると感じています。

まず第一に、分かりやすい観光資源はもはや消費し尽くされている、ということ。これは昔からずっと言われていますね。

そしてもうひとつの難しい点は、地域の“外”に対して排他的になるのでは?ということです。


自分達の地域はこれが有名で、この地域に住む人たちはこんな感じの人が多い、と自認する地域特性は、そこに住む人にとって自分達を認知して表現する価値観になります。
しかしその一方で、自分達を地域特性でカテゴライズし、地域の中の人と地域の外の“多くの人”とに分けてしまう価値観でもあります。

そして、人は自分達が主流派でありたいと願う生き物。

その想いが集団となって拡大/滞留し、醸成されることで、地域の外を無意識的に受け入れない、排他的な状況が生まれていくんじゃないかと思います。

地域の魅力を外にうちだしているのに、地域の外の人を受け入れないという、謎の状況に陥る。
それを私は『地域特性を無意識に所有している状態』と呼んでいます。

無意識に所有しているモノがつながりを短くし、店員と観光客のような関係性、機能でしかつながれない状況を生み出す…
先程の「つながりの寿命」で考えるなら、機能でのつながりは最も寿命が短かったですよね。

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ピュアモデル

地域プラットフォームの中でAirBnbを地域資源としてつながる場合、まずはその無意識に所有している地域特性を手放すことが重要だと、私は考えます。

では、地域特性を手放したらどうなるのでしょうか?

少し想像しづらいかもしれませんが、私は、地域に住む人ひとりひとりのユニークな存在が浮き上がってくるのではないか?と思います。

例えば、ご近所さんが実はミツバチの飼育をしていることに気づいたり、毎日すれ違うおじいさんは実は海外生活をしていた方だったり、田舎には似つかわしくない謎の若者の存在に気づいたり。
はたまた、道端の謎の造形物や、掠れ具合がちょうどいい看板のデザインなどが魅力的に見えてきたり。

そんな、どこにでもあるかもしれないが、なかなか表に出てこなかった地域の人のユニークさに気づけるようになると思います。

認知できるということは、つながれるということです。
魅力的にみえるということは、愛でるということです。

地域のユニークな存在を認知し、愛で合うつながりが生まれる。
それは、地域における心地よいつながりといえるのではないでしょうか。

言い方を変えると、それぞれの人がユニークな存在として自律的につながっていく。
いわゆる、自律分散的なつながりというやつです。

このつながりの形は、SCB理論に当てはめていうなら、『ピュアモデル』と呼ばれる体系です。

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セミピュアモデル

そして、ピュアモデルでつながっている状態の地域に、しっかりとサーバーが存在しているハイブリッドモデルのAirBnbがつながる。

その状態の地域においては、AirBnbを介してやってきた地域外の人に対して排他的になりにくい、ご近所さんの1人として自律分散的につながることができるんじゃないかと思います。

ピュアモデルでつながっている地域に、ハイブリッドモデルが入ることで新たなつながりが加速する体系。

図で表すとこんな感じです。

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この体系の時には、どのようなつながりが考えられるでしょうか?

例えば、先程のミツバチを愛でるご近所さんの想いを凝縮させた、ミツバチハウス(?)を作ってみようとなるかもしれません。
そのミツバチハウスは、空き家や既存の施設を利用して生み出し、AirBnbに出品する。
そして海外帰りのおじいちゃんや謎の若者が共同で管理する。

AirBnbでやってきた人は、ひとりひとりのユニーク性がモロだしになっている状態に、戸惑いや魅力を感じながら溶け合っていくのです。
(もちろんそのユニーク性が合わない人もいるでしょうが、それはそれでいいと思います。)

また、そこに訪れた人が、手放された地域の魅力を発見し、新たな意味を与えてくれるかもしれません。
そこには余白が存在するため、訪れた人は余白を埋めたくなるからです。
そして、再発見された地域特性を愛でる人がAirBnbを利用して滞在し、新たな地域活動が始まるかもしれません。

そういったつながりは、地域活動や、地域の人の個性(理念)とのつながりであり、つながりの寿命は長くなります。

この流れはあくまでも理想論ではあるのかもしれませんが、どこか安心感と自由が共存しているような微妙なバランスの空気を感じないでしょうか?


あらためて、このつながりの図を見てみましょう。

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このつながりの形をSCB理論では、『セミピュアモデル』と呼んでいます。

お互いにユニークな存在として自律分散的につながっているピュアモデルの中に、サーバー(中央)を軸につながっているハイブリッドモデルが、同じくユニークな存在としてつながっている状態。

サーバーが存在する中央集権的な「安心」と、ユニークな存在同士が自律分散的につながる「自由」が入子構造で共存しているモデルです。

個人的には、このセミピュアモデルが最も美しいと体系だと感じています。

とはいえ、セミピュアモデルを構築できれば全てがうまくいくとは限りません。しかし、地域活動するうえで、現状を打開するひとつの道標にはなるんじゃないかと思います。

まとめると、無意識の所有を手放して、AirBnbをセミピュアモデルで地域につなげてみる。
こうすることで、AirBnbを地域プラットフォームで活用できるのではないかと思います。


終わり


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

途中、私の個人的意見が炸裂してしまいましたが(笑)、お楽しみいただけたでしょうか?
(あくまでも私個人の視点での分析/意見ですので、所属する団体の意見ではありません。)

今後もこんな感じで、さまざまなプラットフォームをのつながりを科学していきたいと思いますので、次回以降もチラッと読んで頂けると嬉しいです。





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