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結び重ねる物語

突然だが、運命の赤い糸で結ばれた二人、という話を全く聞かなくなった。そんなことを口にすることさえ気恥ずかしいと思う程度には歳を重ねてきたわけだが、最近、その言葉を視聴覚的に意識したゲームに出会った。それがバンダイナムコエンターテインメントが発売したゲーム『SCARLET NEXUS』である。

どうにも恋愛描写や最終的に結ばれる男女二人、という意識になりがちだが、ここで言う運命の赤い糸で結ばれるという定義としては、「たとえ遠く離れていたとしても、必ず二人は巡り合い、通じ合う」というものなのだと思う。このゲームはユイトとカサネの二人の物語が楽しめるアクションRPGなのだが、どちらも主人公という設定でゲームが開始されるため、プレイヤーとしてはそれぞれの主観で遊ぶことになる。そのため、主人公である二人が恋愛感情で結ばれるというのはなかなか考えにくい設定ではないかと思う。そういうゲームがあっても面白いかもしれないが、RPGとは一種のなりきりであり、最終的にどちらも感情移入して遊ぶことを考えると気持ち悪いことになりかねない。

ここではゲームの内容やシステムについて述べることはしない。すでに多くの方々が素晴らしいレビューを書いているのでそちらを確認して欲しい。ただ個人的な感想を一言でいうなら「この閉塞感漂う状況下において人と人との結び付きや孤独を忘れさせるような演出がとても良かった」だろう。それが最も象徴されているなと思ったのがアジトと呼ばれる主人公たちの拠点だ。プレイヤーは仲間にプレゼントすることで、それらの品がアジトにある各人のパーソナルスペースに設置され、かつプレゼントされた仲間がそれをすぐに楽しむ(電子書籍を読んだり、ドローンを飛ばしたり、筋トレ器具を試したりする)のだ。これが見ていてとても心温まる風景として映ったし、反応をすぐに得られる喜びは孤独感を和らげると思う。また、仲間との触れ合いやイベントにおいては、必ず最初にメッセージを受け取り、イベントが終わった後はお礼のメッセージが届き、それに対して返信することができる。これは現実に友達に対する行為と変わらないのではないだろうか。

『SCARLET NEXUS』のCMで「結び重ねる物語」というキャッチコピーが発せられるのだが、この時、私の妻が「これって二人の主人公のことを言っているよね」と言った。それを聞いた私はハッとさせられた。なるほど、ユイトとは結人(結ぶ人」であり、カサネは累(無累の人(むるいのひと):物欲を超越し、何にもわずらわされることのない人)なのだなと。そう考えると、よりこの二人の主人公に思い馳せてしまう。キズナエピソードでは、ユイトは何より仲間たちとの結びつきを重視し、寄り添い、耳を傾けるようにして関係性を構築していった。カサネはどちらかというと自分の確たる信念を前提として、人を理解しようと努め心を開いていったように思う。

クリア後にはタイトル画面に戻るのだが、そこでの些細な演出が私はとても好きだった。キャラクターのことを大切にしていなければこのような演出はできないと思うからだ。ゲームシステムを先行し、インスタントに消費されていく昨今のゲーム事情において、久々にしっかりと腰を据えて、登場人物に感情移入しながら、時に目頭を熱くさせた、素晴らしいゲームだったと思う。


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