「設定話・魔術講義」

「この世界の魔術と言うのは、つまるところ言葉の力なんだ」

 山林のちょっとした広場。少し日が西に傾いた午後。二人の人影があった。
 両者共に黒のローブ姿。片方は眼鏡をかけた青年で、もう片方はまだ小さい少年だった。
 眼鏡の青年が右腕を前に出し、拳を握って見せる。

「魔術無しだと、こうやって拳を振るっても何も起きない」

 言って、右拳を少年に向けて振るう。拳は少年には届かず、何も起きない。
 
「しかし、意志を込めて言葉を放つとこうなる。"我は空間を打撃する"」

 青年の言葉を浴びた拳が光を帯びる。そのまま青年が拳を振るうと、
 
 ――ガンッ!
 
 という打撃音と共に、少年が衝撃を受けて吹っ飛ぶ。少年は目を丸くしてそのまま後方に吹っ飛び、尻餅をついた。
 
「"我は空間を打撃する"と言う言葉が、世界を構成する流体(エーテル)に意味を与え、その言葉通りの結果を表現したんだ。これが魔術と呼ばれる技術だよ」

 すまんすまん、と青年は謝りながら少年の元に歩み寄り、手を引いて起こす。
 少年は目を輝かせて青年を見ていた。
 
「先生! これ、俺にも使えるの!?」
「訓練すればね。流体へ言葉を伝える技術、言葉に正確なイメージを乗せる技術――そう言った技術を磨くことで、魔術は使えるようになるんだ」

 青年の言葉に、少年は分かった! と元気よく返事をする。
 ――魔術師の授業は始まったばかり。
 
「設定話・魔術講義」END


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