「世界の半分と引き換えたモノ」

●これまでのあらすじ
まおうはひめをさらいました
それにより、せかいからひかりがきえました
ゆうしゃはひめをとりもどすため、まおうのしろへとむかったのでした

●●●

「何故、姫をさらった」

 魔王城、玉座の間。禍々しい黒い玉座の前には二つの人影。
 一つは倒れ伏した鎧姿の黒き女性。魔王と呼ばれる者。
 一つは魔王に剣を突きつける白き鎧の剣士。勇者と呼ばれる者。
 勇者は魔王へと問いかける。姫をさらった理由を。世界から光を奪った理由を。
 
「姫はこの世の光だ。彼女がいるから、空に太陽は昇り、日が照らされる」

 "姫"はそういう存在だった。彼女がいるからこそ太陽が輝き、人々はその恩恵を授かることが出来る。
 魔王は、そんな姫をさらった。魔王城の地下に閉じ込め、その力を封じた。
 その結果、太陽は昇らなくなり――世界から光は失われてしまったのだ。
 
「答えろ魔王! 何故姫をさらったんだ!!」
「――あの子を救うためだ」

 勇者との戦いによって既に満身創痍となっていた魔王は、それでも目に闘志を燃やしながら答えを返す。
 
「あの子がいなければ太陽は昇らない。だから人々はあの子を崇める。あの子を奉る。それが彼女をどれほど孤独にしたか分かるか? 誰も彼女自身を見ようともしない。ただ王城の玉座に縛り付けることで、太陽をもたらす道具としてしか見ない。あんまりじゃないか。彼女は――ただの女の子だというのに」
「それは――だが、そうしなければ、太陽の恩恵は受けられない。太陽によって、どれだけの人々が救われているか――」
「例え数万、数億の人々が救えたとしても。それが彼女を苦しめていい理由になるのか勇者よ!! そんなことは認めない。そんなことは許せない。だからさらったのだ。彼女を――我が妹を自由にするために!」
「妹――魔王、あなたは――」

 魔王の言葉に、勇者は何も言えなくなる。
 そんな勇者に、しかし魔王は自嘲するように笑みを浮かべる。
 
「まぁ、私の行動など無駄だったがな。さぁ殺すが良い勇者よ。私を殺して妹を再び玉座に縛り付け、永遠の昼という栄光を享受するが良い。――だが忘れるな、それが我が妹の犠牲の上で成り立っていることを……!」
「待て、魔王よ。私に一つ提案がある」

 自暴自棄になった魔王から剣を引く勇者。
 
「姫の痛みを私は知った。だが、私は太陽を――姫の犠牲を求める者達の思いもまた、背負っている。だから、こういうのはどうだろうか?」

 勇者は言葉を切り、
 
「姫には、一日の半分を玉座の間に居てもらう。こうすることで、一日の半分は太陽の恩恵を預かれるようにする。そしてもう半分は、姉である貴女と共にいるようにする。こうすれば人々は太陽の恵みを受けられる、姫も自由を――少しは得ることが出来る。どうだろうか?」

 彼は魔王へと手を差し伸べる。
 
「魔王。世界の半分を貴女に差し上げる。だから、我々の仲間にならないか?」

 その勇者の言葉に、魔王は少し迷い――頷いたのだった。
 
●●●

 こうしてひめは、いちにちのはんぶんはぎょくざにすわり、たいようをよびました。それをひるとよびます。
 もうはんぶんはぎょくざからさり、あねであるまおうとともにたのしくくらしました。それをよるとよびます。
 こうして、せかいにはひるとよるがうまれたのです――
 
「世界の半分と引き換えたモノ」END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?