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【インタビュー】初台・幡ヶ谷・笹塚=ササハタハツの緑道からはじまる、みんなのまちづくりー長谷部健区長&ササハタハツまちラボ後藤太一さんー

渋谷区民の約4割が暮らす笹塚・幡ヶ谷・初台駅周辺エリアは「ササハタハツ」という愛称で親しまれ、玉川上水の旧水路である約2.6kmの緑道を中心に、新しいまちづくり計画が進んでいます。

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ちょうど笹塚・幡ヶ谷・初台をつなぐように長くのびる緑道。たくさんの木々に囲まれ、ベンチでゆっくり過ごしたり、遊具でこどもたちが遊んだり、お散歩したり、様々な用途で地域から親しまれているエリアです。(画像:玉川上水旧水路緑道 基本構想より)

まちに関わる「みんな」が主役!

そんなササハタハツエリアの「象徴」とも言える緑道の再整備計画は、まちに暮らす人、働く人、学ぶ人、興味のある人、誰もが関われる形で進んでいるのをご存知ですか?

行政と区民が一緒にまちづくりを考える「ササハタハツまちづくりフューチャーセッション」が2017年から始まり、2020年には渋谷区・京王電鉄・渋谷未来デザインによる「ササハタハツまちラボ」が立ち上がり、様々な実験的プロジェクトが生まれています。

shibuya good passでは、そんなササハタハツエリアの新しいまちづくりに迫るインタビューシリーズを始めます!今回お話を伺ったのは、渋谷区長の長谷部健さん、ササハタハツまちラボの後藤太一さん。ササハタハツエリアの未来への思いと、これから始まる緑道活用パイロット企画についてご紹介します。

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まずは長谷部区長のお話からご紹介。区長が思い描く、渋谷だからこそできる「最先端の田舎暮らし」とは?

ーーササハタハツエリアでの新しいまちづくりが始まった背景から教えていただけますか?
長谷部「渋谷の再開発というと駅前周辺が注目されますが、区民の半分は甲州街道沿いに住んでいます。その甲州街道に沿った緑道を、住民のみなさんにとってより豊かな暮らしを実現するための場所へ進化させていきたいと思っています。ただ綺麗な緑道につくり直すのではなく、コミュニティがもっと発展したり、テクノロジーも活用してよりわくわくする生活になったり、ササハタハツでの暮らしをベースにしたまちづくりを進めていきたいという思いが背景にあります。

やはり、住民のみなさんと一緒により良い生活環境を一緒に考えたいですし、ほしいものはみんなで形にしていきたいです。ササハタハツでの新しいまちづくりを通して、そのような対話が渋谷区のいろいろなところから生まれることを狙っています。」

ーー緑道の再整備にあたって、どんなビジョンを描いていますか?
長谷部「渋谷は、これまで多様なストリートカルチャーを生み出してきたまちです。『新たなストリート=道』ととらえ、道の文化を生み出すためにはどうすれば良いのか、渋谷区長に就任してから世界中の道を研究しました。
中でも、廃線になった列車の高架線跡地を植物でいっぱいの公園に再整備したニューヨークの”ハイライン”には多くの刺激をもらいました。たくさんのボランティアによって運営されていて、様々な地域コミュニティのハブとしても機能しています。

そのようなハイラインのあり方は、これまでのまちの記憶を未来へつなぐという点で、ササハタハツの緑道再整備でもヒントになると思っています。ニューヨークの元交通支局長のサディク・カーンさんにもこのエリアを視察していただきましたが、とても可能性のあるエリアだとおっしゃっていました」

ーーササハタハツで挑戦してみたい「未来」へのアクションはどんなことでしょうか?
長谷部「僕はよく”最先端の田舎暮らし”と言うのですが、例えば緑道にコミュニティファームがあったとして、”きゅうりがそろそろ採れますよ”と住民のスマートフォンに通知があったり、”週末にはトマトがたくさん採れそうなので、近所のみんなで一緒に食べてみるのはどうでしょう?”とデジタルサイネージで提案がされたり、そのようなテクノロジーの活用も面白い。

野菜や花を育てるという土着的な活動を行う一方で、より幅広い層に参加してもらい、コミュニティを育てるきっかけとしてテクノロジーをうまく活用していく。そんな風に様々な手法を取り入れながら、緑道でどんどん新しいコミュニティができたら楽しいですね

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ーービジョンを実現するための課題やポイントはありますか?
長谷部「このエリアは30〜40代の転出が多く、いかに住民やコミュニティ同士がつながり続けられるかは重要なポイントです。

渋谷区は都内でも家賃相場が高い分、思い入れを持って住んでいる人が多い。そこを生かして、街を自分ごととして関わる人を増やしたいですね。町会や商店街、民生委員の方々といった既存のコミュニティと、最近住み始めた人が混じり合うきっかけとして緑道が機能したらいいなと思っています。同時に、次世代の担い手不足に課題を抱えるコミュニティにとっては新たな仲間が増えるきっかけになればと考えています」

ーー暮らしのエリアである「ササハタハツ」からどんな文化が生まれるか、とても楽しみです。
長谷部「そもそも渋谷に人が集まり始めたのは戦前です。大正時代の初め、ササハタハツ周辺は牧場と茶畑。100年前に明治神宮がつくられ、戦後にワシントンハイツ(表参道にあった在日米軍施設)ができて、参道を中心に和と洋の混ざった文化が生まれ始めました。

なので、渋谷は生まれてから100年くらいの街。まだまだこれから歴史をつくっていく地域です。明治神宮からつながるこの緑道でも、新旧の文化がうまく融合する動きが生まれたらいいなと思います。

ササハタハツエリアは観光を目的としてまちづくりをするのではありません。あくまで住民のみなさんや周辺で働く方々がよりアクティブに、よりわくわくするエリアとなることが最も重要です。今後もみなさんと一緒にこれからのササハタハツを考えていきたいです」

続いて、ササハタハツまちラボの後藤太一さんのお話をご紹介。だれでも参加できるまちづくりプロジェクト「緑道活用パイロット企画」とは?

ーまずはササハタハツまちラボ(以下まちラボ)が設立されたきっかけを伺えますか?
後藤「まちラボは、地元のみなさんから愛され、世界に誇れる”ササハタハツ”をみんなでつくるコーディネートを行なっています。実際にみんなのアイデアを形にするにはいろいろな企画や整理が必要です。僕らが様々な立場の間に立ち、こまめに調整をしています」

ー具体的にどのようなプロジェクトが進んでいるのですか?
後藤「大きく3つあります。まず、住民のみなさんの”やってみたい”を応援する、ササハタハツピープルまちづくりサポート(通称ササハピ)という取り組みです。

アイデアを持っているけど進め方がわからない人、何か街でやってみたいけどどうしたらいいかわからない人。そんな方々に寄り添い、行政との交渉や予算、仲間集めなどをサポートしています。現在は、そんな方々と15のプロジェクトを支援しています。

2つめは、エリアのビジョンをみんなでつくる取り組みです。行政だけでまちづくりを進めるのではなく、きちんと住民が関われるプロセスを設計したい。実際、会議には30〜40代の若い世代も多く、とても活気があります。

議論ではあらゆるテーマを扱いますが、特に教育や福祉への関心が高いですね。ここは人の出入りがすごく激しいので、知り合いのいない住民も多い。ひとりで子育てや介護をする人たちは、地域に居場所を持つ必要性を強く実感しています。まちの課題を自分ごとに捉えて参加するみなさんがたくさんいることからも、このエリアはやはり住民の暮らしを軸にしたまちづくりができると強く感じます。

3つめが、そんな多様な住民みんなのアイデアを実践するための場づくりです。それが緑道活用パイロット企画と呼んでいるプロジェクトです」

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ーー緑道活用パイロット企画とは、どんなプロジェクトでしょうか?
後藤「緑道パイロット企画は、将来の緑道の体験をする実験の場で、渋谷区と連携した活動です。その一環として、緑道を介して住民同士が関わり合えるマルシェをスタートします

マルシェは本来、人々が"価値"を交換する場所という意味もあります。マルシェを通して商店街の方々と連携したり、お家で作家活動をする方が作品を売ったり、個人からコミュニティまで、様々なコラボレーションの可能性を広げたいと思っています」

ーー緑道活用パイロット企画は、具体的なことが決まりきっているわけではなく、住民のみなさんとの実験の場なんですね。
後藤「そうですね。ぜひ場づくりに関わる住民のみなさんといろいろなアイデアを考え、実験を重ねていきたいです。そうすると、管理運営のためのチームや体制、継続するためのルールやお金づくりなど、必要なこともたくさん見えてくる。緑道活用パイロット企画は、そんなプロセスを住民のみなさんと実験しながら共有し、皆で未来をつくっていく場なんです。

ルールづくりに関しては、住民みんなの場ですからある程度のお約束は必要です。しかし、やみくもにたくさんのことを禁止するのではなく、みんなが自由に楽しく使える方法を考えたい。”危険なことは避ける”など、最低限の指針や大きな考え方を整理し、渋谷区へ提案したいと思っています」

ーー継続的な運営のためには予算の問題も大きいですね。
後藤「すべての予算を税金だけで永遠にまかなうことはどうしても難しい。企業の立地も多いエリア特性を活かしながら、企業とつながる仕組みもつくる予定です。幸いにも行政が工事を始めるまでに猶予があります。それまでにいろいろな実験を重ねていきたいですね」

ーー住民のみなさんとの対話を重ねる中で、このエリアの可能性をどのように感じていますか?
後藤「まずは若い世代も含めて、予想以上に多くのみなさんが街に関わりたいと感じている点ですね。一方で、関わり方がわからない方も多い。緑道活用パイロット企画を通じて、住んでいるまちを自分の手でより良くできるんだ、という肌感覚を持てるエリアづくりを目指していきたいです」

ーー後藤さん自身は、このエリアのまちづくりに関わりながら、どんなビジョンを思い描いていますか?
後藤「アメリカを中心にした”環境的民主主義“という思想があります。その中に、土や緑にみんなで触ることでひとりひとりが健やかになり、地域につながりが生まれるという考え方があります。

実際、僕がアメリカにいた25年前にはすでに、コミュニティガーデンやエディブルガーデン(​野菜やハーブなど食べられる植物を主に植えたガーデン)​が盛んで、人種や年齢や性別関係なく、様々な人が街に関わる風景が生まれていました。

このエリアならそんな風景が実現できるのはと思っているんです。コロナ禍で遠くに外出できない時代だからこその“最先端の田舎暮らし”の形をササハタハツから発信していければと考えています」

今回は、ササハタハツの今とこれからについてたくさんのお話を伺いました。お二人に共通する思いは、「緑道が地域コミュニティのハブとなり、住民みんなのアイデアを形にする実験の場をつくりたい」ということ。これからの「ササハタハツ」の歴史や文化がどのようにつくられていくか、今後も注目していきたいと思います。

長谷部 健(はせべ けん) 
1972年渋谷区神宮前生まれ。
株式会社博報堂退社後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを設立。原宿・表参道から始まり全国60ヶ所以上でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施。
2003年(平成15年)に渋谷区議会議員に初当選、3期12年務める。
2015年(平成27年)渋谷区長選挙に無所属で立候補し、当選。現在2期目。
後藤 太一(ごとう たいち)
世田谷区生まれ育ち。
ゼネコン勤務中に阪神淡路大震災に衝撃を受け、まちづくりの仕組みづくりをライフワークにする。米国西海岸で三年間学び働いた後、渋谷区内に在住在勤。地域に入って仕事をするため2003年に福岡に移住。エリアマネジメント、都心再生、地域経済開発など価値共創の仕組みを立ち上げ福岡の成長基盤づくりに貢献。その知見を活かし、渋谷未来デザインの立上げに参画。週末はテニスプレーヤー。

<「388マルシェ」が開催されます!>
食、アート、学び、福祉など、さまざまなテーマがもりだくさん!

みんなでつくる緑道イベント
開催日 / 2021年11月7日(日)8:00~14:00
主催 / ササハタハツまちラボ 共催 / 一般社団法人渋谷未来デザイン
協力 / 初台町会・初台商盛会・初台まちづくり協議会
場所 / 渋谷区初台1- 33 玉川上水旧水路緑道内特設会場(初台出張所前)
企画運営 / 388 FARM MAKERS
※コロナ感染状況により延期の可能性あり
※雨天の場合は、一部プログラムを変更する可能性あり

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<shibuya good passについて>shibuya good passは、渋谷エリアを中心とした市民参加型のデジタルアプリ。会員登録していただくと、渋谷のgoodな活動に参加できたり、おすすめのお店で使えるクーポンやイベント情報をご覧いただけます。今後情報続々発信予定! 公式Instagram

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