IoT×学校菜園×コミュニティガーデンでつくる、ササハタハツの新しい暮らし
笹塚・幡ヶ谷・初台=ササハタハツの緑道を中心とした新たなまちづくりの動きを追う本連載。ササハタハツでは、緑道での仮設ファームやマルシェを通じて新しい地域コミュニティをつくる「388 farm β」(ササハタハツファームベータ)プロジェクトが進んでいます。
今回は、初台ハーベストコミュニティパークの古川はる香さん、プランティオ株式会社の芹澤孝悦さん、つながる菜園プロジェクトの佐々木桐子さんの3名が集合。ササハタハツまちラボの林匡宏さんが聞き手となり、みなさんの活動や緑道に対する思いを伺いました。
地域みんなのガーデンをつくる、初台ハーベストコミュニティパーク
林匡宏(以下、林):今日は緑道再整備計画のコンセプト「FARM」について改めて考えます。「FARM」には文字どおりの「農園」という意味と「新たな学びや対話、コミュニティを育む」という2つの意味を込めています。
渋谷で自然・農をテーマに活動する3名のみなさんと一緒に、これからの緑道の可能性についてお話していきたいと思います。まず、古川さんの初台ハーベストコミュニティパークの活動から伺えますか?
古川はる香(以下、古川):私たちは、初台緑道でお花やハーブを楽しむコミュニティガーデンをつくっています。2017年のまちづくりフューチャーセッションに参加したことをきっかけにリーダーになり、2018年4月に本格的にスタートしました。
ただお花を育てるだけじゃなく、植物を育てることで地域にいい循環を生み既存のコミュニティを広げたり、つながりをつくったりすることがねらいです。みんなでペットボトルのプランターをつくり、お家で種から育てて緑道に戻して植えるワークショップ、チューリップの球根を分け合うなど、地域の皆さんが参加できる活動を開始当初から進めています。
林:おもしろい! パブリックスペースである緑道と、お家を行き来するんですね。
古川:そうなんです。緑道で完結するよりも、一度お家に持ち帰ったほうが愛着が湧いて自分ごとになるようで。その後も、たくさん分けていただいてガーデンだけで植えきれないチューリップの球根を希望者に自宅でも育てていただく試みも行いました。
お家で育てている間は、グループLINEで参加者のみなさんとやりとりしているんです。「芽が出たよ〜」と報告しあったり。コロナ禍でなかなか集まることはできませんが、新しい地域でのつながり方を見つけられたように感じます。
小学校に菜園を! 地域と学校でつくる新しい居場所とつながり
林:佐々木さんは渋谷区立幡代小学校の校内で菜園をつくられていますが、どんな経緯で始めたのでしょうか?
佐々木桐子(以下、佐々木):もともと食べることが大好きで、出産を機に安心でおいしい食のあり方により関心が向きました。有機農法などを学んでいる時、エディブルスクールヤードに出会いました。
エディブルスクールヤードとは、90年代にカリフォルニアの公立中学校で始まった学校菜園を授業に取り入れる試みのことで、日本語だと「食べられる菜園」「食育菜園」と言われます。学校の菜園でみんなで野菜を育てて一緒に食べることで、種まきから調理までの命の循環を体験的に学びます。また、環境への配慮、人と人とのふれあいまで、楽しみながらさまざまな学びに出会える活動です。
東京の多摩地区でも同様の活動がされていることを知り「渋谷でもやりたい!」と思ったんです。そこでササハピ(住民発のプロジェクトを応援する取り組み)に応募し、2020年10月にプロジェクト認定されました。
林:実際に小学校で菜園を始めてみて、いかがですか?
佐々木:多様なすべてのこどもたちにとって平等な場所になるよう、例えば集団活動が苦手な子や、教室に馴染みにくい子にとっても居場所の一つとして、教室や図書室、音楽室のように「菜園」が機能したら良いな、と思っています。
最終的な夢は、畑でつくったものを校庭や緑道でみんなで食べること! 長い長いテーブルを置いて、こどもも地域の人も一緒に青空の下で食べる。学校菜園がきっかけになって、緑道、地域全体につながりが生まれたら良いなと思っています。
林:自ら活動拠点を開拓して、思いを実現するのはすごく難しいことだと思います。ぜひ緑道でパーティーしましょう!
野菜を「買う」から「育てる」へ。テクノロジーで栽培をサポート
林:芹澤さんはテクノロジーを活用して野菜の栽培をサポートする事業を進めていますが、改めて活動について伺えますか?
芹澤孝悦さん(以下、芹澤):プランティオは、水やりのベストなタイミングや日照時間などを教えてくれる野菜栽培のIoTアグリセンサー「grow CONNECT」を開発しています。
実は、僕の祖父は「プランター」という和製英語と規格を発明した人なんです。渋谷区のほとんどすべての小学校にも44年以上プランターを卸していました。
林:すごい!プランターって和製英語なんですね。
芹澤:海外の人にとって、プランターって言葉は違和感があるようです(笑)
祖父は、都市からなくなりつつある自然を日本の狭い家やベランダでも楽しめないか?と考え、誰もが育てやすいツールとしてプランターを開発し、広めました。「PLANT=植物」に「er=〜する人」をつけた祖父の思いを現代に引き継ぎたいと、データのIN/OUTを表す「io」をつけた「PLANTIO」を社名にしています。
林:「grow CONNECT」はどんな仕組みなんですか?
芹澤:6つのセンサーで計ったデータをベースに、植物から人間に語りかけてくるようなシステムで植物を育てることができます。土壌の温度に基づいて発芽タイミングをお知らせしてくれたり、日照具合や気温と湿度を計測して、適切な環境をアドバイスしてくれます。
僕は「grow CONNECT」を通して、野菜を買う以外に「育てる」手段を当たり前にしたいと思っています。農業の担い手不足が深刻な欧米では、従来の農業システムに頼らない農的活動がすごく発展しているんですね。例えばロンドンには市内に3000箇所以上の市民農園があって、100万食分の野菜が市民の手でつくられています。食や農を自分たちの手で担保しなければいけない未来に向けて、楽しく簡単に「野菜を育てる」選択肢を届けていきたいのです。
地域をゆるやかにつなぐ、ファームコミュニティの可能性
林:芹澤さんの活動は、歴史、最先端の技術、グローバルな視点、すべて取り込まれていますよね。地域やコミュニティという目線でもさまざまな広がりが考えられそうです。
古川:私はコミュニティを広げたいという思いが根っこにあるんです。そのために「何かをみんなで育てる」活動はハブになりうるし、芹澤さんのツールはそのハードルを下げてくれるなと思いました。ICT化されてるから、感動も共有しやすそう。
佐々木:「食べる」って絶対なくならないから、ファームコミュニティはとても可能性がありますよね。ササハタハツって、緑道では確かにつながってるけど、実はすべての街のカラーは全然違う。背景の違う人たちがつながるきっかけとしてみんながファームを活用できると良いですね。
芹澤:ササハタハツから楽しい農的なカルチャーを生み出していきたいですね。日本はもともと農的文化がある国なので、現代のテクノロジーとコミュニティを融合することでもっと可能性が広がると思います。
林:そう思います。ササハタハツをひとつの街として統一していくのではなくて、みんなでゆるやかにつながるきっかけを発信していきたいですよね。今日のみなさんのお話は、区長もよく言っている、ササハタハツだからこそできる「最先端の田舎暮らし」がよりイメージできる内容でした。
現在388farmβでは、仮設ファームやマルシェをはじめ、地域のみなさんと一緒に取り組みを練っています。これからもぜひさまざまな方々とササハタハツの未来を考え、徐々にササハタハツ文化が暮らしに定着していくといいなと思っています。今日はありがとうございました!
(写真)左から、芹澤さん、佐々木さん、古川さん
初台ハーベストコミュニティパーク
「ササハタハツまちづくりフューチャーセッション」をきっかけに2018年より始動。植物・作物の育成を通じて、地域で世代や所属を超えたコミュニティを広げることを目的に活動しています。現在は初台緑道で自主管理花壇を運営。
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つながる菜園プロジェクト
ササハタハツエリアの公立小学校の中に学習菜園をつくり運営・サポートすると共に町と繋げていくプロジェクトです。全ての子供たちに平等な居場所づくり、生きた学びの場づくりを目指します。2020年10月よりササハタハツまちラボ認定プロジェクトとなっています。
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芹澤 孝悦 (せりざわ たかよし)
エンターテインメント系コンテンツプロデューサーを経て日本で初めて“プランター”という和製英語を発案・開発し世に広めた家業であるセロン工業へ。2015年、元祖プランターを再定義・再発明すべくプランティオ株式会社を創業。しかし祖父の発明の本質は高性能なプランターを開発した事ではなくアグリカルチャーに触れる機会を創出した事と捉え2020年“grow”ブランドを発足、食と農の民主化を目指す。
https://plantio.co.jp/
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