見出し画像

出産の医療保険化について ⑫

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ101号(2023.08.15)の配信内容です。
↓前回の内容はこちら↓


保険点数に関する私(荒堀)の提案

点数表はSBSKの中村先生や日本助産所会の試案を参考に、私(荒堀)の原則を入れて改変させてもらったものですが、正解が何かを探すのではなく、これも一つの考え方だと理解して皆さんの思考を深めて頂ければ幸いです。

最終的にはいろんな利害を含めた妥協の産物にはなるでしょうが、それでも一本筋の通ったもので決着してほしいと願っています。

以下の原則を元に作成してみました。

原則

  1. オキシトシン分泌を高める助産師の職能を評価する

    • 助産介助料を正当に評価する

    • 正常分娩を医師の立ち合いなしで行うことを評価する

    • 継続ケアを評価する

  2. 予定帝王切開の介助料を見直す

  3. 骨盤位分娩やTOLAC等を評価する

  4. 無痛分娩の保険適用は必要な産婦にのみ認め、自費で行う場合の混合診療は認めない

では分娩料の提案表の解説をします。平日の日中を想定しています。

1点は10円で換算します。

表1 分娩料(平日・時間内)〔荒堀案〕

【基本分娩料】

これは前回説明した通り、医師が立ち会う場合は医師の技術料助産師の介助料の合計です。
この場合はともに10,000点 併せて20,000点、つまり20万円です。
助産所の場合は医師の技術料はありませんが、代わりに助産師直接介助加算があります

分娩時間が延長した場合延長料金も用意しました。正常産の場合はほぼ助産師が対応しますので、助産介助料のみを増額します。正常産の場合は医師の技術料の増額は要らないと考えます。

【延長料金】

24時間以上は6時間毎に2,000点追加で、上限が8,000点としました。分娩開始後24時間+24時間が追加点数の上限としました。
これは分娩開始後48時間、つまり丸2日経過しても生まれない場合は、ハイリスク分娩として取り扱えばよいと考えられるからです。
勿論、陣痛が弱いだけで母児共に異常がないような場合はさらに待機できる場合もありますが、超過時間の点数には上限を設けました。

また分娩を助産所や院内助産で行う場合、医師の技術料は不要ですから、基本分娩料は助産介助料の10,000点だけです。が、別に助産師直接介助加算10,000点を用意しましたので1分娩20万円の料金は変わりません。助産所での延長料金も同じです。

【助産師直接介助加算】

正常分娩であっても、医師の立ち合いなく助産師だけで分娩を介助するには相応の経験や判断力、技術力が必要です。
それが本来の助産師業であるのでこれを評価します。

戦後徐々に、そして今や完全に、分娩の権限を医師に移譲をしてしまった感がありますが、助産学を学んでおらず助産師の役割を知らない医師に助産業を代行させることは無理であり、また医師にとっても無駄な労力ですから、これを本来の役割分担に戻す必要があります。またそれは母子の健康のみならず、医師の健康のためにも必要なことです。

【特定助産師継続介助加算】

特定の助産師1~3名が継続的に妊娠・分娩に関わった場合に付く加算です。
内因性オキシトシンの分泌を増やし産婦の安心や満足度を高めるには、そのための助産技術を持ち、かつ慣れ親しんだ助産師による介助が望まれます。

初対面の助産師が分娩を介助するような体制ではこの加算は付きません。少なくとも妊娠中から1人または2~3人程度のグループで継続ケアを行い、慣れた信頼できる助産師が介助をした場合に加算されます。

総合病院であってもこの加算をつけることができるので、助産師のやりがい対策として大きな意義があると考えます。

【2-3次病院ハイリスク分娩料】

ハイリスク分娩は基本的に2-3次病院で扱い、点数は正常産の5,000点増加で50パーセント増しとしました。1次病院が対応した場合も同点数としますが、安全対策や地域連携強化の観点から、各事例につきその施設で妥当な医療であったかどうか、県の周産期協議会で検討されることが望まれます。

【ハイリスク分娩の医師の技術料】

正常分娩の技術料に、鉗子分娩や血圧モニターなどの検査料、手術料等の点数を加えます。帝王切開になった場合は別に算定します。

【ハイリスク分娩の助産介助料】

妊娠高血圧や感染症、ぜん息、精神疾患などの合併症のある妊婦さんに対応するので正常分娩の50%を増加します。

ハイリスク分娩の延長加算も最長48時間とし帝王切開になった場合は別に算定します。

【自宅分娩等の分娩出張加算】

前駆陣痛などでいったん引き返すこともあるでしょうが、回数に関わらず2,000点としました。【往診】で請求することも制度的に可能でしょうが、ここでは分娩出張としました。

【遠隔サポート加算】

自宅分娩や助産所で、高次病院と胎児モニタリングのデータを送信できる体制をとった場合の加算です。これにより分娩監視装置などを業者からレンタルすることも容易になります。今回表には入れませんでしたが、高次病院にもこの加算が必要です。

【分娩料地域加算】

とりあえず県庁所在地を10,000点とし、へき地離島は15,000点、地方中核都市は0-10,000点と考えましたが、もっと合理的な計算方法があるかもしれません。

【子ども預りサポート】

経産婦の場合上の子どもの預け場所がないと安心して分娩できず、心配は微弱陣痛など異常分娩を引き起こすこともあります。子供を預かってもらえれば安心できますので点数を付けました。一人1日につき1万円としました。自宅分娩も同様です。

【新生児管理ケア料】

当日を3,000点としました。その後退院まで1日 1,000点です。自宅分娩も同様としました。

【褥婦管理料】

当日3,000点 以後退院まで1日1,000点で自宅分娩も同様です。

【包括分娩医療費】

 病医院での正常分娩の場合、会陰切開縫合や出口部鉗子・吸引、2度までの会陰裂傷縫合、抜糸、ドップラー、通常の胎児心拍モニター、簡単な促進、血管確保のための点滴などは、どれがあっても一括して丸めて請求します。1日までとその後で点数が変わります。

異常分娩(ハイリスク分娩)ではその内容によっては保険点数での請求が可能です。

助産所、自宅分娩でも簡単な医療処置等は包括指示で可能です。ただ病院より包括分娩医療費を少し低く設定しました。

破水やGBS感染での抗生剤投与などで包括医療費を上回る場合は保険請求可能となります。包括指示のある助産所でも同様に保険請求可能です。

【緊急帝王切開分娩介助料】

帝王切開に至るまでの医師の技術料と助産介助料を合わせたもので、表の28,000点はある病院の現在の料金を保険点数に直したものです。帝王切開を決定するまでの緊迫したプロセスを考えると、この介助料はもっと高くてもよいかもしれません。

【緊急帝王切開手術料】

現行の保険点数です。

【予定帝王切開分娩介助料】

37週以降の前回帝王切開や骨盤位で他に異常の無いの予定帝王切開を想定しています。双胎や早期産などは緊急帝王切開で請求可能としました。

セルの左の数字はある病院の料金を点数に直したものですが、「➡」で示した通りかなり減額しました。というのは正常分娩に比べて予定の帝王切開では医師の技術料も助産介助料ほとんど必要ないからです。手術室に入るまでほとんど手がかかりません。

また帝王切開手術そのものは例えばケニアの地方の病院では、助産師の要請によって総合外科医が手術をしているくらいですから、リスクの低い予定帝王切開の手術料は低めに設定できると思います。

予定帝王切開が高額であれば経腟分娩をトライすることが避けられ、今や骨盤位分娩を見たことがないという産科医が圧倒的になってしまった反省に立っての点数配分です。

【骨盤位分娩または帝王切開後分娩(TOLAC)】

これらを希望する女性は少なくないのですが、帝王切開のリスクを十分説明することなく予定帝王切開が行われています。点数を上げれば、スタッフの多い周産期センターレベルであれば、希望者にはトライすることもあると思われます。

ただこれらの分娩には人手も掛かるので料金は高額になります。

異論があるかも知れませんが緊急帝王切開分娩より少しだけ高い点数を提案しました。途中で帝王切開になった場合は、緊急帝王切開で算定します。

【無痛分娩】

これは本当に必要な、即ち病的な状態の妊婦さんに行うべきですから、硬膜外麻酔の保険点数に合わせます。ただ分娩時間は一般手術の時間に比べて長いので1,000点を追加しました。
特に必要のない妊婦であれば、自費として保険点数から除外すべきです。

わざわざ自力で産める可能性のある産婦に麻酔を行うのは、自然な分娩の転機をゆがめ、その後の母子関係をゆがめる可能性もあるので、胎児と産婦の人権を侵す医療であり、医療倫理違反かもしれません。
動物であれば母が仔を顧みないという報告もある産み方ですので、それでもいいですね?と尋ねて始めてほしいところです。


合計金額(比較)

以上の提案を元に自然分娩をした場合の施設による合計金額を単純に比較してみました。

合計算出の条件として、下記のとおり仮定しました。

  • 入院料約14万円(2万円×7日)は含めず。

  • 正常産で分娩時間が30時間。

  • 子ども預りなし。

  • 分娩料地域加算1,000点。

  • 新生児/褥婦管理は当日+3日で6,000点とする。

  • 分娩包括医療費は当日+1日と仮定。

  • 病医院では医師が必ず立会い、病院では助産師の継続ケアはなく、医院(クリニック)ではあるものとする。

以上の前提条件で単純比較すると

正常分娩(自然分娩):
病院 546,800円、
医院(クリニック) 646,800円(助産師の継続ケア分)、
助産所 64万円、
自宅分娩 66万円(分娩出張加算2万円)

ハイリスク分娩:病院 656,800円 無痛分娩はこれに5万円を追加となる。

予定帝切:病医院 556,800円

緊急帝切:病医院 848,800円

骨盤位または帝切後分娩:876,800円

(上記には入院料が計算されていません)

比較表にすると下記となります。

表2 合計金額(比較)

これに入院費や包括医療費や延長時間等が加わるはずですので、皆さんでシミュレーションしてみて下さい。

この点数表や基本的な考え方にご意見を頂ければ幸いです。

ぜひよろしくお願い致します。

■ご意見等について
sbsk.momotaro@gmail.com (SBSK事務局)


保険化についてのシンポジウムのご案内【2023/9/30開催】

SBSK自然分娩推進協会は、2023年9月30日(土)13時30分より、シンポジウム『頑張れ助産院 お産の保険化で助産所は消えるのか?』を開催いたします。
皆さまのご参加をお待ちしております。9/19(AM10時)まで早割価格【1000円オフ】となっております。

詳しくは下記をご覧ください。


動画コンテンツ、DVD販売中です!

SBSK制作の動画コンテンツ「自然なお産の再発見 ~子どもの誕生と内因性オキシトシン~」は好評発売中です!
DVDでの購入は SBSK-momotaro's STORE からどうぞ!
動画配信でご覧になりたい方は memid.online よりご購入ください!

「自然なお産の再発見」動画配信

2023年2月18日開催の講演会「頑張れ助産院 自然なお産をとり戻せ」のアーカイブ動画をDVDとして販売しております。

数量限定のため、売り切れの際はご容赦ください。
ご購入は SBSK-momotaro's STORE からどうぞ!


こちらもどうぞ。
SBSK自然分娩推進協会webサイト
メルマガ登録(メールアドレスだけで登録できます)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?