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助産所の応召義務からにげないで!

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.04.20配信のメルマガ内容です。


第10回 日本医療安全学会学術総会・助産部会

先日4月13日に第10回 日本医療安全学会学術総会の助産部会で講演してきました。

私のテーマは「緊急避難的な助産行為の必要性と医療安全」。

もともとこの部会は本学会の理事である井上弁護士の発案で生まれました。理由は「医療提供施設であるはずの助産所は、病院やクリニックと同じように医療安全を議論する場が必要」だからです。

演者は初めに北海道助産師会代表の高室さん、次いで東京都助産師会代表の宗さんで、助産所の意義と安全性についてについて講演しました。助産所の現状の紹介から入り、安全性については助産ガイドラインに準拠していることや早めに相談、搬送などもしていることが報告がありました。

3番目が私で、テーマは上記の通りです。


「緊急避難的な助産行為の必要性と医療安全」講演内容

出産数は減少の一途をたどり、助産所分娩は1%を下回り、さらに近年は0.5%にまで減少したが、武漢コロナでその割合は若干増えたかに見える。一方無介助の分娩は2007年頃から徐々に増加しており、コロナ禍で少し減ったかのようだが、上昇トレンドは続いているように見える。特に医療施設の少ない北海道ではそれが著名になった。これは放置できないだろう。

そこで毎日新聞が報じたある無介助分娩の事例を挙げた。

それは初産のRh(-)の米国人妊婦さんで、病院分娩がだめで自宅でないと安らげないので、危険をよく理解した上で自宅分娩を希望された。相談を受けた助産所と嘱託医療機関の医師がOKを出したものの、県助産師会と日本助産師会が「危険だからやめるように」と指示を出し、また医師が転勤したこともあって、医療機関も受け入れを拒否し始めた。夫婦は気持ちを認めてお願いもしたが、希望は認められなかった。
そこで助産所には迷惑をかけたくないとして、自宅での無介助分娩を決めたのである。
安全のために病院分娩以外を認めない病院・助産師会と、自宅でないと産めないことを決心している妊婦の気持ちのどちらを重視するのか難しい、というのが毎日新聞の論調であった。

しかし医師側のコメントでは、Rh(-)の危険性より、そもそも自宅分娩が危険だという思い込みが混在していたように読める。当時の助産ガイドラインにも明記されていなかったような軽度の異常で(やり取り中に急遽ガイドラインに追記されたとのこと)、初めの約束を覆し受け入れ拒否をしたことで、夫妻を追い込んだ可能性もある。

いろんな考えはあって良いし指導も説得もよいだろう。
しかし、説得が奏功しなかった場合は無介助分娩に追いやる可能性があるわけだから、その場合にどうするのか?の視点が関係者や識者のコメントや記事に全く欠けていたことは、大きな反省材料であろう。

次に、市川きみえさんが2016年に調査した55例のプライベート出産データをお借りして報告した。健診回数はゼロ~数回が多数で、立合いは夫、場所は自宅で分娩したのがほとんどであった。分娩時の異常は、大量出血1、新生児仮死1、破水による9か月早産1、胎盤遺残2で、異常分娩の合計は55例中5例(9.1%)であった。この頻度はよく言われる「分娩の異常は全分娩の1割」に合致していた。

ただし1割の異常でも、その異常に気付かなければ大事に至るし、助産師が立ち会うことが許されれば、より小さな異常で済むことがポイントだ。大量出血は処置によって中等度で済むだろうし、早期の搬送も指示できる。胎盤遺残も早期の受診を促せる。
健診をキチンと受けない妊婦はガイドライン違反になるからと、助産所が断ることが現実に起こっている応召義務違反の黙認は組織としても個人としても法的、倫理的に違反である

よって

【提案1】
市長なり知事が、そのような妊婦には立ち会いを指示する制度を設けることを提案した。

【提案2】
助産所が存続できるように、嘱託医療機関の認定は助産所の求めに応じて、知事が県の周産期協議会に付託することが望ましいと提案した。

【提案3】
助産ガイドラインについても、応召義務に応えられるよう緊急避難的に応じるべきことを書き加えることを述べた。

【提案4】
実はこれは助産師会の独自性を尊重する立場から、外部の医師が軽々に申し上げることではないと断って、敢て言わせてもらった。助産ガイドラインは周産期管理としてミニドクター的な働きを期待して、それをチーム医療ととらえて作成されている気がするが、助産所(師)本来の任務は国際助産師連盟ICM(2005)に言われるまでもなく「正常なお産をより生理的に進める」ものであることは、私の恩師の松本清一を始め多くの先人が書き残している、いわば日本の助産というより古来よりの日本のお産の伝統と言える。伝統は慎重に変えるものではあっても捨て去るものではない。

助産師には、「正常なお産を異常に変えてしまわないような日々の努力」が求められている。これが、「正常なお産をも異常に変えてしまう潜在能力」を持つ病院と決定的に違うところであるので、その点をガイドラインの本筋とするべきではないかと提案した。

実際、家族関係や成育歴に負荷を抱えているようないわゆる特定妊婦の中には、1対1の継続看護や継続の介助がなければ、扱えないと感じるケースがある。カウンセラーや保健師の活動、産後ケア活動は重要だが、それらはその継続看護の土台の上に築かれることがより効果的であるので、助産所が生き残り活躍できることが無介助分娩の産婦には必要であることを強調した。

以上なようなことを、15分もいただいて話してきた次第です。


尤も、助産師に馴染みない学会で報告したところで今後の制度変更に影響があることは考え難いと思いますので、助産師会の皆さんにはその点を広めて頂きたいと思います。

来年はもっと多くの助産師を誘って助産部会を盛り上げるべきだと思いました。

なお、私のあとには中村医師が、助産法を整備し、最小限の薬剤投与や十分なケアができるようにすべきであること、ガイドラインの遵守と損害保険法加入条件とは法的に無関係であることを力説し、井上弁護士からも賛同を得ていました。

中村先生の提案も重要な内容なので近いうちにこのメルマガに載せます。


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