SBSK案「出産の保険化について留意すべき論点」を提出
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ104号(2023.11.07)の配信内容です。
SBSK案「出産の保険化について留意すべき論点」を提出
10月28日に、出産費用の保険化に対するSBSK案「出産の保険化について留意すべき論点」を厚生労働省の伊原和人保険局長宛てに提出しました。
少し長いのですがこの際なので、様々な論点を整理してみました。
ただ、忙しい中央省庁で、どこまで読み込んで頂けるか分かりませんので、初めの2ページで全体像がつかめるように書きました。
関心のある方は下記よりご覧ください。
皆さんの今後の考え方の参考になれば幸いです。
下記に、「出産の保険化について留意すべき論点」の提出文書の全文を掲載しております。
「出産の保険化について留意すべき論点」
自然分娩推進協会 荒堀憲二
保険化によって現行の出産費用を抑制することは、生殖年齢の女性にとっては望むところであり、少子化対策としても一定の効果はあると思われる。
一方保険化は、これまで出産の半数を担ってきた小規模産科クリニックの閉院を促すことになり、今以上に分娩場所がなくなることが予想される。
よって保険化を考える場合、出産場所の確保が優先されなければならない。
この問題解決のためにはまず現状の周産期医療関係の実態把握が肝要である。
そもそも現在の周産期医療体制は、福島県立大野病院事件以来、医師不足と訴訟対策のために、極端に集約化が進んできた。その結果「母児の生命は守られたが母性は崩壊した」と言われる事態(産科医療の問題点と助産師の未来「シンポジウム お産の保険化で助産院は消えるのか」中村薫)に陥っている。
つまり正常に進行するであろう低リスク分娩をも、集約化によって多忙な三次病院(周産期センター等)に集め、産婦並びに自身の安全第一を目的として医師が全例立ち会い、頻繁に介入するようになった。また助産師も異常防止に過敏なミニドクターと化し、結果医療費の高騰と母性の崩壊と医師の疲弊、そして自ら招いた更なる医師不足。(参考1-出産を取り巻く環境の変化
ア イ)
集約化は異常産への医療介入だけでなく正常産に対する医療介入を増やす結果となった。その延長が麻酔科医を巻き込んだ無痛分娩の流行である。
集約化の結果、妊婦は自らの生活圏では分娩できず、遠く離れた高次病院までの通院を余儀なくされる地域も少なくない。また主として医師が健診から分娩、一か月健診まで携わるため、古来大切にされてきた、産婆による母性を励まし育てる技術・伝統がほぼ消えてしまった。これが子どもの心身の発達に大きな影響を及ぼす知見が示されている。(参考1-イ)
これは静かなる国家的危機と言えよう。
誤りは、集約化を全ての妊婦に敷衍したことにある。
もし、集約化を病気のある妊産婦(ハイリスク妊産婦)に限り、低リスク妊産婦には助産所または助産師を中心としたクリニックを用意できれば、出産場所は確保できる。クリニックは、例えば神奈川県にある Birth and Ladies’ Clinic Sola では、手術室を持たず、医師は外来のみ行い、分娩や妊婦健診は助産師が行うシステムで運営されている。分娩進行に異常のある場合のみ医師は相談を受ける。院内助産院のクリニック版である。このようなクリニックや助産所を増やせば、生活圏において継続的なケアが可能となり母性の発達を促す体制をとり戻すことができる。
また病院を含めて助産師を本来の助産業務に専念させれば、医療介入が必要な産婦であっても母性は一定程度守られる。
助産所では医療費はゼロなので総費用も抑えられる。さらにまた、医師の立ち合いのない分娩が増えることで、医師の働き方改革にも大いに貢献する。
病院で生みたい低リスク妊婦には、院内助産を利用する選択肢を与えればよい。
以上より、出産費用の保険化に当たって自然分娩推進協会は次の3点を提案する。
各地で集約化されている周産期センターでの対応はハイリスク妊婦に限ることとし、低リスク妊婦には助産所(院内助産院を含む)や助産師を主体としたクリニックの活用を制度化する。
一部の助産所を、妊娠前から出産、産褥、乳児期までを包括的に寄り添える「お母さん寄り添いセンター」(仮称)として地域包括支援センターの一部門として位置付ける。
自然な分娩の促進のために、妊娠初期から出産を経て乳幼児期に至るまでの子どもの発育発達に重要な臨界期の、胎児環境、成育環境、医療の内容とその後の子どもの発育・発達等についての研究を促進する(参考 1-イ、3-キ)。
以上を遂行するには下記に示した様に、法的に助産師に独立した立場を与え、院内助産を含めて助産所が増えやすい環境を整えるとともに、ミニドクターではなく母性を守る助産師業務を評価することが必要である。(参考3)
また助産所の安全確保のために開設許可に際して、ある種の医学的、助産学的技術認定制度が必要である。
同時に経営的基盤を確立するための法人認可や優遇措置も必要である。僻地の診療所維持のための予算や制度に準じれば、いくつもの助産所が救えるはずである。
また周産期センター等の医療機関と助産所が機能的に補完しあえるよう、法的整備も必要である。例えば助産所の維持・開設には嘱託医や嘱託医療機関の確保が大きな障害になっているが、これらは救急患者の受け入れが整っていれば必ずしも必要とはいえないので、現状に鑑みて整理する必要がある。
その分、地域における搬送体制をスムーズにするための制度設計と両者の積極的な関係性の構築が欠かせない(参考3-カ)。
さらに、妊娠、出産、育児は次世代を育む上で欠かせない地域創生の鍵であるから、母子保健は本来地域包括ケアシステムの中核であるべきである。高齢者ケアのための地域包括ケアシステムに、今後は日本の助産所的要素を組み込む(参考3-オ2)ことが肝要である。
なお、混合病棟に関する大問題(参考1-ウ)は、保険化とは別に論じるべきものであるが、これもこの度の制度改革の俎上に載せて頂くことを切望するものである。
尚今回 9/30 に行ったシンポジウム「お産の保険化で助産所は消えるのか」で視聴者から出された意見を付記します。
分娩介助以外の LMC のような、女性のパートナー、伴奏者としての役割の事業化もあるのではないでしょうか
日本の助産所が無形文化財に匹敵するとの話が-あったが、具体的にはどのような技の伝承を続けていくのか、知りたい
出産の保険化で施設基準やレセプト請求、労働環境、保険加入のこと等多彩な問題に助産所が対応できるのか不安
保険化で不足した医業収入を補助金や交付金で賄う方針は分かるが、その原資が本当にはあるのか不安。また直前の決定通知は避けて頂きたい(医師から)。
診療所がどうなるのか、どこかのタイミングで聞きたい
嘱託医療機関をお願いに行ったら近くの日赤は断られた。遠方の川崎医大に契約して頂いたが、近くの日赤が受けてくれる方法はありませんか?
<参考>周産期の制度設計を図るために押さえておくべき視点
1.出産を取り巻く環境の変化
(ア) 環境の変化で異常分娩が増え医療介入が増えている。
① 妊婦の高齢化 ⇒ 貴重児の増加、合併症の増加、体力低下 易疲労感 微弱陣痛
② 体外受精の増加 ⇒ 着床位置・胎盤の異常、 分娩後多量出血等
③ 合併症妊婦の増加 ⇒ 身体障害のある妊婦の管理
④ 妊婦の安全信仰と不安の増強⇒ 医療介入増加 帝王切開増加
⑤ 以上より誘発分娩等医療介入の増加
⑥ 無痛分娩の流行 合併症やデメリットを理解せずファッションになっている
(イ) 医療介入増加の結果母性が発達できず母子関係に障害を残すようになった
① 分娩でのトラウマ体験の増加(=喜び体験・大切に扱われた体験の減少)は医療介入で増加する
② ①の結果、産後うつの増加と子どもへの虐待の増加
③ 母乳育児の減少 1の結果内因性オキシトシンの分泌が低下するため
④ 発達障害児等の増加 2の結果、また抗生剤使用による母の腸内細菌・膣内細菌による児のフローラ組成の変化
⑤ 人工乳と潰瘍性大腸炎の増加 ③の結果
(ウ) 総合病院の 75%は出産を混合病棟で行っている
① 日本にのみ見られる異様な産科病棟の形態
② 死と出生の同時取り扱いの非倫理性を認識する
③ 出産に関する安全管理上の問題
2.海外事例
① 韓国:出産を医療と定義したため正常産や自宅分娩は医療保険給付から外された。助産師は正常産を扱うため、病院や診療所は助産師を雇わず、准看護師を雇って医師がとりあげている。また、助産所や自宅分娩、院内助産を選ぶ女性は保険に頼らず、自費で支払う部分が大きくなっている。自宅分娩は全額自費負担。
② インドネシア:助産師天国とかつては言われ、助産所が各地にたくさんある。だが、保険が小規模助産所を契約対象に含めなかったため、助産所は医師を雇って診療所にアップグレードするか、医師の傘下に入って医師を通じて保険請求をする道を選ぶことになった。その結果、廃業する助産所も増加し、病院分娩が増えている
③ オランダ:自宅分娩がかつては30%以上あったが 2021 年には 13.1%に減少し、バースセンターで助産師が介助する分娩は 2.6%となり、病院分娩が増えている。
④ フランス:極端な無痛分娩の施行率の結果高額になり、助産所での分娩を誘導している
⑤ イギリス:低リスク妊婦は自宅や助産所で産めることを必ず説明している。病院の集約化により地域に分娩施設がなくなったときに、病院よりもローコストのバースセンターが建てられた。バースセンターは分娩のアウトカムがよく、かつ医療費の削減になるとして好意的に受け止められている。NHS の医師は公務員であるため、助産師との間で出産をめぐる競合は生じにくい。
⑥ ドイツ:保険の払い戻し額が少ないため、産婦人科医院の経営はむずかしい。出産以外のことで経営を成り立たせざるを得ないそうで、保険についての不満は大きい。
⑦ ニュージーランド: LMC My 助産師制度
俯瞰すると、世界中で病院分娩が増えて、同時に母乳育児率が減少し、30年後の虐待増加、潰瘍性大腸炎の増加、アレルギー、糖尿病、精神疾患、発達障害の増加などがみられている。
3. 出産に関する望ましい制度設計
(ア) 助産所での出産(自宅出産も含む)という選択肢を失くさない
(イ) 助産所の開設条件の簡略化
① 嘱託医、嘱託医療機関制度を見直す
② 助産所の法人化、保険加入、補助金等を医療機関、保育園、介護施設に準じた扱いにする
(ウ) 助産師の正常分娩におけるプロとしての自立
① 助産師法を制定する(保助看法からの離脱) 助産業務を規定するには看護法は不適切(ICM2011)
② 混合病棟での産科医療を廃止する
③ 助産師だけの分娩介助を評価する
④ 開業のための助産師の技術向上研修と認定制度を策定する
(エ) リスクによる分娩場所の分離
① ハイリスク妊婦は周産期センターへ、低リスク妊婦は助産所(または助産所中心クリニック)で対応とする。⇒低リスク妊婦が自宅で出産すると、出生時の異常は増えないが帝王切開や器械分娩その他の医療介入が大きく減る(Lancet 2020)
② 助産師中心のクリニックは、低リスク妊婦を対象に、助産師が出産を含めた継続ケアに関わる。クリニック医師は外来診療と異常時の対応に協力する
③ 正常分娩の医師教育は助産所や院内助産等で行う
(オ) 継続ケアの評価
① 継続ケアを点数で評価する
② 妊娠中から出産、産後、子育てまでの寄り添いセンターを、助産所を中心に構築する (LMC 等も組みこむ)
(カ) 搬送体制の向上と高次医療機関との連携体制の構築
① 周産期センターを有する病院、又は地域医療支援病院は、特別な理由がない限り嘱託医療機関を受けることとする。(ポイント健診を行う義務はない)
② 地域医療支援病院等の紹介率・逆紹介率算定施設に助産所を含める。
③ 助産所で出産予定の妊婦のポイント健診は、嘱託医に限定せず妊婦の医療機関を選ぶ権利を保障する。医療機関はこれを拒めば応召義務違反とする。
④ 嘱託医との契約を助産所開設の必須要件から外す。
⑤ 行政、病院、助産所は共に顔の見える関係性の構築に努力する。
⑥ 地域医療確保基金を助産所(含院内助産所)の設置に使えるようにする。
(キ) 妊娠初期から出産を経て乳幼児期に至るまでのプライマル期の重要性に鑑みて、胎内環境、成育環境、医療の内容とその後の子どもの発育・発達等についての研究を促進する。(例えば母体への抗生剤投与による新生児の腸内細菌フローラの変化、子どもの腸内フローラの変化と子どもの免疫能、アレルギー・NDC(非伝染性疾患)の増加、うつ・発達障害の増加、帝王切開による世代間細菌播種の断絶、分娩時のトラウマと母親のうつや虐待、人工栄養と潰瘍性大腸炎など新たな知見が集まりつつあるが、これらに関する知見をもっと豊かにする必要がある)
4.社会への啓蒙
体外受精の問題点の周知 妊娠出産子育ての一般的適齢期の周知
母性の存在の重要性 こどもは勝手に育たない
高齢者は妊娠・出産で異常を起こしやすい ⇒妊娠~子育てに適齢期のあることを周知
分娩時の精神的ダメージと母性の発達障害
無痛分娩の実態と危険性:産科医や麻酔科医からではなく、実際の患者の声と、その後のケアをしている助産所の声を調査してから
5.医師・助産師の確保
全体医師数減少・女性医師の相対的増加、助産師の減少にどう対処するか
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