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表現の空気を捉えに

炎天下の中、スマホを覗くと予想最高気温が30℃を超えている。
集合場所まで歩くだけでも汗が滲んでくる。5月ってこんなだったっけ?いや絶対に違う。こりゃサンダルで来るべきだったと考えるも集合場所の目の前まで来ていた。

姫路を北に上がったところに僕らがジョインしている仙霊茶の茶畑がある。
京都から車で約2時間。そこでの撮影を経て一泊し、一人電車で姫路へ下る。姫路駅で別チームの車にピックされて北西へ2時間。鳥取市で数名さらってさらに西へ1時間半。米子の視察が目的だ。これら旅程の走行距離は500kmを超える。

初日の茶畑は7ヘクタールもの広大な敷地だ。
軽トラの荷台に乗り、撮影スポットを探す。日差しは強くなり続ける。
脱水症状になりかねない。水出しのお茶をグビグビと飲む。目の前の茶畑で取れた茶葉のお茶。体に染み渡る。

自然の気配に耳と目を預ける。
しばらく眺めていると日の変わりを感じる。少し癖がある。立地の関係もあるが欲しい絵が撮れない可能性もある。撮影現場を眺めて別の判断を考え出す。

徐々に日は陰っていくと急に肌寒くなる。
仙霊茶のオーナーでもある野村さん宅に宿泊し、酒盛り。
茶葉の天ぷらや実験商品を味見。これいけるぞとなる。
そこから先はあまり覚えていない。何本かの日本酒を空けて気付けば眠っていた。

ガサゴソという音で目をさます。朝の4時半。日の出の時間だ。
日が出る移り変わりを捉えるために静かに待つ。
ゆっくりと変わっていく空の色を眺めて、ものすごいものの中に自分たちはいるんだなと思う。欲しい絵を探すのではなく、待つしかないと考え改める。
大きなものの一部でしかない自分が、大きなものをコントロール出来るわけがない。

軽く仮眠を取っていると美味しい匂いで目をさます。
女将が朝ごはんを作ってくれている。完璧な女将っぷり。茶積み仲間だという。これは旅館 仙霊をやるべきだ。フィールドレコーディングさせたい音楽家を聴きながら気持ちよく流れてくる風で涼む。

拾った鹿の骨を水で洗う。
血肉はバクテリアや無数のアリが綺麗に土に還した。
透き通った水につけておく。自然の力で綺麗になる。

茶積みは地道な作業だ。人間の力で人間が生み出した機械で地道に進んでいく。
そして、コントロールできない自然。と同時に圧倒的な力も感じる。
これをどうクリエイティブに解釈して落とし込むか。思考する。

土臭いテンションになりがちなお茶。
そして、日本的なモチーフで突っ切る事例の多さ。
これらは全て実作業を見た上での判断なのだろうと思う。
とても日本人的な営みだと僕も思った。

では果たして、その流れに沿うことがこのプロダクトに取っていいことか。
当たり前の流れに落とし込むことが果たしてお茶のスタートアップにとって良い選択か。しばし考えを巡らす。

うん、一新すべきだ。
そう結論づけた。野生の勘というか、大きな茶の歴史やクリエイションに寄り添うことはメリットも多いかもしれないけど、このブランドが追うべき事じゃない。この人たちが始めてしまったからこそできた普通じゃない状況をそのままクリエイティブの浮遊感に繋げ行こう。そう決心できた。

そりゃ、こういう汗水垂らす大変な作業をみると、他もそうなるなと思う。
7ヘクタールを10名以下で借りきるんだ。それも何回も。
来慣れた、今までらしい服をあしらうのではなく。
あなたはもっとこういう世界も似合いますよという提示がしたい。
きっとその服を着たあなたは素敵な筈だ。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。