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カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』読書会のもよう (2020 9 11)


 2020.9.11に行ったカート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』読書会の模様です。

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私も書きました。


 単時間的存在としての人間に、よろしく



テスラの CEO のイーロン・マスクが、スペース X という会社を立ち上げて、宇宙開発に取り組んでいる。それは、マラカイ・コンスタントが「ギャラクティック宇宙機」という会社の株を買い占め、宇宙開発に乗り出して、破産するエピソードを連想させて、グロテスクだ。近年において民間の宇宙開発はますます盛んになり、ZOZO の創業者である前澤さんも 2023年に月に旅行に行く予定だそうだ。また、昨年末にドナルド・トランプはアメリカ合衆国宇宙軍を創設した。それに呼応するかのように、日本の航空自衛隊も今年から宇宙作戦隊を組織して、宇宙のゴミ(スペースデブリ)と格闘するそうだ。


『タイタンの妖女』を読みながら、考えざるをえなかった。


宇宙開発あとに宇宙戦争がくるというシナリオが、着々と進みつつあるのか?


経済・戦争・宗教、これは人間社会を動かしている要素だ。この要素を、誰かが意図的に動かしているとしたら、私たち人間社会というのは、その誰かに操られた粗末な人形芝居のようなものになる。核の時代に世界大戦が行われれば、地球は人類の住めない星になってしまう。だとすると、これから起こるのは宇宙を舞台とした戦いだろう。


宇宙には地球と同じ時間はあるのだろうか? ラムファードの言う『単時間的(パンクチュアル)』というのは人類を支配する条件である。人間は時間に縛られている。意識は時間の中にしか存在し得ない。だから、宇宙を発見することは、地球に住む人類の意識に与えられているのとは別な、新たな時間概念を発見することだ。その時間概念が「時間等曲率漏斗」とであり、それはどうやら、時間を超えて同時に成立する現象のことらしい。アンクとコンスタントは、時間を超えて「時間等曲率漏斗」的に成立している人間なのだろう。


時間が重要な主題だ。時間概念の中に、死が存在し、そこから翻って、人間の生きる目的が、現れる。「よろしく」というメッセージが、オチになっているというのは、時間概念の比喩だからなのか。時間に束縛されて存在することの悲しみが、「よろしく」や「単時間的な意味においてにサヨナラ」というメッセージに皮肉にもこめられているように感じた。


戦後の日本社会は、アメリカの GHQ の改革から始まるアメリカ政治の意向によって、振り付けされている。「アメリカは、意図的に日本を追い詰め、戦争させるように仕向けたのではないか?」 といわれるが、そうだとすれば、アメリカの対日戦争と日本社会の改造及び支配の振り付けは戦前から、世界恐慌の頃から始まっていたことになる。金融市場の暴落が起こりアンクやボアズが火星から地球を攻撃して、核兵器によって返り討ちにあうシーンは、日本人が経済的に追い詰められ、兵站線もなしに、物量に置いて圧倒するアメリカ軍と無謀な戦闘を続けてコテンパンにやられ、広島・長崎に原爆を落とされた事実に重なる。


火星軍の兵士たちは、記憶の一部を削り取られ、一般兵士の中に憲兵のように紛れ込んでいる本当の司令官の操縦盤によって操られている。マスメディアによって、特定の考えを持つように誘導され、洗脳されている私たちも、隣人のポケットの中の操作盤、今でいえばスマホアプリ、で操られているのではないかと、ゾッとする時がある。


戦後の新しい宗教、「徹底的に無関心な神の教会」は、首をつったコンスタントの人形が十字架の代わりをしている。戦争をさせられ、宇宙のさすらい人として英雄的復員兵のように扱われるアンクことコンスタントが、同時に十字架になっているという、畳み掛けるような皮肉な展開に、グロテスクなユーモアを感じた。

神の『徹底的な無関心』とは、神の『極端なエゴ』ことだろう。神の『極端なエゴ』のもとに、時間的に存在しているのが人間だとすれば、人生の目的というものは神の気まぐれのもとでは無意味だ。みんなハンディを平等に背負い、公正に均(な)された社会の中で延々と続いていく茶番のような出来事。経済も戦争も宗教もその出来事の系列にすっぽり納まってしまい、人間に本当の生きる目的を与えてくれはしない。

この作品は、超越的な存在の気まぐれの中に翻弄される人間の虚無を鋭く指摘している作品だ。

アンク=コンスタントが、妻を犯し、友人を絞殺し、記憶を失いさまようというのは、ソフォクレスの『オイディプス王』の設定に似ているが、自分の大切なものが、自分の手によって無意識のうちに無残なものに変えられているというのは恐ろしいことだと思った。悲劇だ。


(おわり)


読書会の模様です。




お志有難うございます。