読書日記(2024.3.14)ブチハイエナの権力闘争
NHK BSの『ワイルドライフ』という番組で、チーターとブチハイエナの生態を紹介していた。
チーターは狩りに成功しても、ハイエナに獲物を横取りされることがある。
ハイエナはチーターよりも体が大きい。顎の力も発達している。チーターでさえもハイエナに横取りされた獲物を奪い返すのは難しいようだ。
以前、ライオンの生態を紹介していた『ワイルドライフ』でも、ハイエナがライオンの獲物を横取りするシーンがあった。
さらには、ハイエナが、群れからはぐれた若いライオンを集団で狩ることもあるという驚くべきシーンが流れていた。
ハイエナは群れで狩りをする。体力があり、群れからはぐれたライオンをとり囲んで、執拗に長時間攻撃し、若いライオンが精神的に弱ったところをしとめるのである。
ハイエナにもいろいろ種類がいるらしい。番組では、ブチハイエナという種を紹介していた。
ハイエナというと、チーターやライオンから獲物を横取りしたり、自然死した草食動物の腐肉を漁るというダーティーなイメージがあるが、ブチハイエナ、高度に社会的な動物で、集団で狩りをして生活している。
その群れは、完全に女系集団である。
まずメスのリーダーがいる。
次のリーダーは、そのメスの子ども(メス)になる。
群れは、リーダーを筆頭にして厳格な序列があり、巣穴を作って集団で子育てをしていた。
オスは序列の末端であり、ヒモ状態である。
番組では紹介されていなかったが、ブチハイエナの生殖器がすごかった。
乳房が垂れ下がっている個体が多いなと思ったら違ったのである。
メスがオス化しているのである。
先代のリーダーが亡くなり、跡目を、その娘であるシアというブチハイエナが継ぐ予定だったが、代貸のスナ姐さんが群れをのっとって、リーダーになってしまった。
シアはまだ一才でからだも小さく、自分が正統の跡目だと理解しているが、群れを統率する能力がない。
皇女シアは代貸スナがリーダーになった群れで、肩身の狭い思いをしている。
スナは、他の有力なメスを従えて、どんどん群れの繁殖を促す。
ブチハイエナは「産めよ、増せよ、地に満てよ」が群れの大原則で、リーダーの使命は群れを大きくすることである。
そのためには食料が必要なので、草食動物が少なくなる乾期に、エナを確保できるシーダーシップが、群れでのボスの権力維持の必要条件である。
スナは、狩りの上手いサラというメスの個体を重用し、群れでの権力を維持していた。
狩りの後では、リーダーは一番美味しい部分を食べる権利がある。
序列の低いものは、お預けをくらい、残り物を与えられる。
ヒモであるオスは、序列が低いので、食べる部分が粗末である。
その上、スナは、オスの食べ残しをわざと沼に沈めて隠して、嫌がらせをしていた。
お腹の空いたオスは、意地悪されても、沼にもぐり、食べ残しのバイソンの頭を探していた。
そのオスの哀れな姿を、隣で、じっとスナが見つめていた。
人間社会にも同じことがあるよね。
そう思った。
食べ残しを見つけたオスにはスナは何もしない。単なる嫌がらせであるが、これも序列をオスの頭に叩き込むための行為なのだろう。
さて、話は、跡目争いである。
嫡子のスナが成長して、子供を産み、どんどんのし上がってくる。
ブチハイエナの子どもは、集団で育てられ、子供の頃から序列を叩き込まれる。
スナは、繁殖能力を発揮して、いつの間にか群れの中で台頭し、スナの側近である食料調達班長のサラを懐柔し、権力闘争を仕掛ける。
一方、スナの子供が巣穴の中で謎の死を遂げ、側近たちも、スナに餌の美味しい部分を残さなくなり、徐々に、群れは正統の嫡子であるシアの統治するものになるのである。
番組では紹介されていなかったが、ブチハイエナには何十種類もの鳴き声があり、細かくコミュニケーションをとっている。
リカオンというオオカミの一種が、くしゃみで狩りをするかしないか、多数決をとるというのも、以前、『ワイルドライフ』で紹介されていた。
ブチハイエナは、人気がないので動物園で飼育されえないようである。見た目も、残念ながら、うす汚い。
しかし、人間社会にも似た秩序を持っている、高度に発達した社会的動物である。
そして、なんといっても私の「ぶち」と言えば田淵幸一である。
彼の滞空時間の長いホームランの軌道と、打った後の投げたバットの美しい回転、いわゆる「バットフリップ」の芸術点の高さ。それについては、改めて語りたい。
(おわり)
お志有難うございます。