見出し画像

ドキュメンタリー映画『ハマのドン』を観てきた

地元の映画館でかかっていたので、ドキュメンタリー映画『ハマのドン』を観てきた

興味を持ったきっかけは、テレ朝制作の『テレメンタリー』という30分番組である。この"ハマのドン"こと藤木幸夫氏のドキュメンタリーであった。

私は、ドキュメンタリーが好きで、オンエアしているものは、なるべく、録画してみるようにしている。

ひと様の人生を傍からから覗き見するのは、面白い、という、ほんとのこと言えば、ゲスな理由で見ているだけなのだが、いろいろな人生を垣間見ることができて、身につまされることが多い。

『ハマのドン』は特に期待して観に行ったわけではないが、割引dayなので鑑賞してきたのでる。

テレビ朝日の『報道ステーション』のプロデューサーだった松原文枝氏が監督したそうである。

制作に至った経緯は、松原監督のインタビューがあるので、そちらを読んでほしい。

テレ朝松原ディレクターが『ハマのドン』を撮った理由(わけ)

1時間30分くらい見ての感想は、映画館で観るほどの、刺激的なシーンがあるわけではなく、いずれTVかネットで全編無料で見られそうなので、「損したな」という気持ちだった。

観終わって、二人しかいなかった劇場を後にして、徒労感を抱えながら、小雨の中を、車を止めた有料駐車場に行って200円払って、帰宅した。

YouTubeライブで感想を話そうかと思ったが、めんどくさくなっった。

その代わりに『ハマのドン』を観に行ったこと、内容は、被写体である藤木幸夫氏に、そんなに肉薄していない旨をツイートしたら、予想外に、RTがあってびっくりした。

なので、観てきた感想を書いておきたいと思う。

横浜のIR反対派として、『ハマのドン』こと藤木幸夫氏が、当時首相だったIR推進派の菅義偉氏と、真っ向から対決するという経緯を描いていた。

藤木氏のプロフィールはwikiに詳しいので、そちらを参照してください。
『藤木幸夫 wiki』


私が、観ていて面白いなと思ったのは、アトランタか何かに在住している、カジノの設計者、村尾さんという方の存在だった。

松山千春のそっくりさんみたいな人で、『シティハンター』の海坊主みたいな風貌で、カタギにみえない人なのだが(失礼)この人が、ネットでテレメンタリーをみて、日本にカジノを作っちゃいけないと思ったらしく、藤木氏にお会いして、IR反対に協力したい旨をメールしそうだ。

そしたら藤木氏から巻物みたいな筆書きのお手紙が返信されてきて、村尾氏は、早速藤木氏に横浜まで会いに行って、意見交換したという話だった。

藤木氏と村尾氏の邂逅をみて、「こういうのでいいんだよ、こういうので(©️井之頭五郎)」と私は心の中で思った。

普段生活していたら立ち会う事のない強烈な個性のぶつかり合いを見ることができるのが、ドキュメンタリーの一つの醍醐味である。

このシーンだけだった。面白かったのは。

村尾氏をもう少しみていたかった。

村尾氏曰く、カジノは、賭場に客を長く滞在させるのが収益の肝であり、客はカジノから出ないので、横浜市に金を落とすとか、カジノのついでに観光もするとか、そういう効果は期待できないとのこと。

1回まわすにに25セントのスロットで、一台500万円/日の売り上げを上げないといけないとかいう話をしていた。

掛け金をチップに替えるので金銭感覚は狂うし、クレジットルームがあって、自宅や給与を担保に金を借りて、身を滅ぼす人が多いことなども指摘していた。

実際に彼が設計した、アトランタだかのカジノの周辺を紹介して歩いていた。リーマンショック前は、賑わっていたらしいが、今は閑古鳥だった。

こういうわけで、カジノの弊害というのは数えればきりがなく、日本に作る必要はなくて、カジノに行きたければ、マカオやシンガポールに行けばいいじゃん、日本に作る必要はないよ、というのが、カジノ設計者の村尾氏の意見だった。

藤木氏は来日した村井氏をゲストにしてカジノの弊害を説明する講演会を開いていた。

また、藤木氏は、古くからの知り合いの斎藤文夫氏という自民党の元参議院議員の紹介で國學院の大学の先生の講演だかを聞いて、ギャンブル依存症の深刻さを知って、カジノ反対派に鞍替えしたという。

その國學院の先生を取材するのかと思いきや、全然出てこなくて、そこ出さないと意味ないやんけ、と思った。

話は変わるが、市長選で4期目をかけて、IR賛成派として出馬した林文子前市長であるが、私は、学生時代に、この人の書いたビジネス本を読んでいた。

たしか、そのビジネス本は、林氏がBMWのカリスマ販売員で、どうやってBMWをたくさん売ったかというような内容だった。

その後、彼女が、あれよ、あれよというまに、ダイエーの会長になったり、横浜市長になったりするのをみて、現代のわらしべ長者というか、なんというか、奇妙なものを感じた。

やさぐれて生きている私なんかからすれば、ああいうラインに載らないと日本社会では、出世できないよなあという感じの人だった。エスタブリッシュに入っていった人だ。

林氏本人には、BMWをたくさん売る実力があるんだろうが、本当に実力があったら、政治力もあるはずだ。でも、4期目の市長選を見ていれば、彼女に政治力があったわけじゃないのだから、日本の政治家というのは、自らの政治力というより、有力者の神輿である事の方が多いのだろう。

「IRを白紙にするというのは、反対するということではない」という林氏の霞が関文学みたいなレトリックは、形を変えて今後も生き続けるだろう。


だから、最後にIR誘致の件で、諸々の有力者からハシゴ外されて、市長選の辻立ちでも、どうみても孤立無援になっている林氏をみて、栄枯盛衰を感じざるをえなかった。

IR反対の市長選候補者が見つからなくて江田憲司氏に連れてこられた山中竹春氏に至っては、山下埠頭で捕まった宇宙人みたいであった。大丈夫なのかこの人で、と画面を見ていても心配になるくらい、キョドッていた。

山中氏を擁立するなら藤木氏が自ら立候補した方が、映画としては面白い。でも、そんな風にならないから、要するに出来レースである。

菅氏が擁立した小此木氏に、山中氏が勝利して、林氏は、勝ち目もないのに出馬して、小此木氏の票数削っているんだから、これはもう出来レースとしか言いようがなかった。

市民活動で、IR反対署名を集めた方々が、藤木氏と共闘している姿は、何か、日本の市民運動の縮図のようで、気の毒だった。

炎天下の中、チラシ配りしている支援者の方が、いたが、選挙の構図自体をハマのドンに、利用されてしまったみたいに感じて、こういう構図に押し込められて、勝利はしたものの、後が心配である。

IRの議論は、今後も蒸し返されて、続くだろう。持続的に政治運動を続けて、基盤を作っていけるのだろうか。

今の野党の体たらくだと、地道な市民運動が、政権交代の波を作り出すのは、難しいと感じた。

IRに反対の意思を表明したら、藤木氏の港湾事業にも、政治的圧力がかかって、長年付き合いのある船会社からの荷揚げができなくるということも語られていたし、他の港湾事業者が、行政側からのアンケートと称して、立ち退きに関するブリーフィングを受けるという圧力も描かれていた。

しかし、よく考えれば、安倍政権の頃、トランプが大統領選に勝利して、急に横浜へのIR誘致に弾みがついたのである。

安倍さんが本間のゴルフクラブを抱えて、選挙に勝利しただけで、まだ大統領に就任してもいないトランプに会うために、ニューヨークのトランプタワーに馳せ参じたを思い出してほしい。

トランプがカジノ事業者だからご機嫌をとりたい、そしてできれば保守側が、カジノの上がりを自分たちの米びつにして、政治権力の資金源にしたい。

そういう下心が安倍さんがトランプに見せた屈託ない笑顔に透けて見えていた。

そういう短絡的な政治権力への誘惑からIR推進は始まっているのであって、その他のことなど、後付けポンだと、私は岡目八目で思う。


トランプの後援者だったラスベガス・サンズのアデルソン会長は、もう亡くなったし、コロナのせいもあるが、IRが頓挫したのは、トランプが落選したのが大きい。

トランプがバイデンに勝利して、2期目をやってたら、こうなっていなかっただろう。

カジノの外国業者の免税特権巡って、外国業者がゴネている様子が描かれていたが、トランプが2期目だったら、外国カジノ業者の免税法案が通っていたに違いない。

戦後の日本の政治思想史あるあるではないが、政権を担う保守側が国際政治の荒波をもろにかぶって、翻弄される中で、市民運動の掲げた正義が、これも、国際感覚が乏しいゆえなのか、自ら政権をとって実現されることもなく、単調な反対運動に終始してしぼんでいく。

結局、国際環境に対応して、国内問題に対処する保守側が、諸々の妥協を国民から引き出して、革新側は、うまく懐柔されて、自分たちが政権を打ち立てて、本当の改革に乗り出すことなく、なぜだか保守側の反動に利用されるだけに終わる。

戦後に繰り返され続ける不毛な政治状況への哀しみを、しみじみ感じた。

また、状況次第で、節操もないことを平然とやってのける、日本の保守勢力の寝技の恐ろしさを感じた。

三島由紀夫の『宴のあと』には、革新系の選挙参謀、山崎というのが出てきて、いろいろ知恵を絞って、都知事選に革新候補を立てて、選挙運動するのだが、日本の保守勢力の金権政治や謀略を、なすすべなく食らって、革新系の都知事選候補者がボロボロされていく様子が描かれている。

『宴のあと』に出てくる永山元亀という保守政治家に藤木氏がかぶった。

どう考えても、根本的には、ハマのドンは、市民運動の味方ではないだろう、というのは、最後まで見ていて感じた。市民運動をうまく利用して、この映画も利用して、自分のプレゼンスをあげている。

松原監督も、藤木氏の作った構図に気づいていないお人好しなのか、確信犯でやっているのかわからないが、朝日新聞とかテレ朝とか、反体制を気取る権威主義者の巣窟になり果てているので、藤木氏の正体を暴くようなドキュメンタリーを取るのは無理だろう。撮ってる側が被写体に負けている。

保守王国金沢県の県知事選を取材した五百旗頭幸夫監督の『裸のムラ』もみたが、こっちの方が、一市民を丹念に撮ってるだけ、まだ、複数の視点がドキュメンタリーにあった。

市民運動の側も丹念に撮らないと、藤木氏の作った構図を崩すことはできないだろう。

藤木氏は、労働者を食わせてきた、うわべは情に厚い資本家である。佐藤紅緑全集に涙する、浪花節である。でも、清水幾太郎全集も持っている。(読んではないだろうが)共産党から転向して、日本の自民党員の最高齢者である。読書家というが、系統だって、本を読んでいるわけではない。

しかし、世間を知り、人間は知っている。藤木氏は、カジノ反対候補が勝った市長選を総括して、主権在民というが、その主権在民の核心は、単なる反共だろう。

藤木氏は、警察官僚上がりの亀井静香氏と昵懇である。亀井氏が、博打狂いは病気だと、語っているシーンがある。亀井氏は、確かパチンコ店にプリペードカードを導入して、パチンコ店の資金の流れを可視化した人だ。IRの金の流れがはっきりすればいっちょがみしたい元は清和会系の保守である。その割に、鳩山民主党連立政権では、国民新党を率いて、政権入りしていた。藤木氏と同じで、保守系のぬえみたいな人だ。

結局、マーロンブランドの『波止場』と同じで、労働と生活が大事で、タグボートで暮らす、少女に、トイレのある住宅を作ってやったり、港の食堂で揚げたてのコロッケを毎日提供して、労働環境を改善したり、地元の不良にユニフォームとグローブをあげて、野球チームの仲間にしてやったり、本をろくに読まないような彼らと一緒に読書会して、反共思想を育成したり、港湾労働者の慰霊碑に、毎日手を合わせたりが、藤木氏の長年やってきた政治的結合であり、自民党の強さである。

(おわり)









お志有難うございます。