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島崎藤村『千曲川のスケッチ』読書会 (2021.7.16)

2021.7.16に行った島崎藤村『千曲川のスケッチ』読書会のもようです。

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私も書きました。

寒くて地味な地方の生活記録


春にも懐古園に行っておいたので、『千曲川のスケッチ』を読みながら、情景を思い起こすことができた。私はあまり出不精でめんどくさがりやで、それほど旅に憧れるというたちでもないので、出かけたい! と切実に思うことはない。

しかし、読書会のコンテンツを充実させたいので、昨日2021/7/15に再度小諸に行ってみた。

本書の『祭りの前夜』『十三日の祇園』『後の祭』で詳しく描かれている本町通りを歩きながら撮影してきた。味噌・醤油の醸造場であった町家が「北国街道ほんまち町家館」として無料公開されていた。


(引用はじめ)

 春蚕(はるこ)が済む頃は、やがて土地では、祇園祭の季節を迎える。この町で養蚕をしない家は、指折るほどしか無い。寺院(おてら)の僧侶(ぼうさん)すらそれを一年の主なる収入に数える。私の家では一度も飼ったことが無いが、それが不思議に聞える位だ。こういう土地だから、暗い蚕棚と、襲うような臭気と、蚕の睡眠(ねむり)と、桑の出来不出来と、ある時は殆(ほと)んど徹夜で働いている男や女のことを想ってみて貰わなければ、それから後に来る祇園祭の楽しさを君に伝えることが出来ない。『祭りの前夜』

(引用おわり)

小学生の頃、蚕を一匹もらってきて、家で飼ったことがある。蚕はもぞもぞしており、よく葉っぱを食べる。やがて、小さな繭になった。私の先祖も養蚕していたらしいので、暗い蚕棚と、襲うような臭気は、だいたい想像できる。

千曲川のほとりの生活といっても、信州の各地で、文化が微妙に違う。本書の『屠牛の一』にもあるように小諸と上田の人気(じんき)の違いが描かれ、また越後の人の単調な仕事に耐える我慢強さも描かれているが、この考察は、的確で、実際にその通りだと思う。

冬の寒さや、雪のある生活が、人間に及ぼす影響が、細かく観察されいて、地元に住む私は、うなずきながら読むうちに、何百年という地元の生活に、自分が繋がっていくのを感じて、温かい気持ちになった。

昔の人も同じ風景の中に暮らしていたという歴史的実感が、年を経るごとに、地元への愛着を育んでくれている。

信州に関する文学作品など、読みながら歩き、歩きながら読み、文字や映像で記録する、となると充実感も加わってくる。

梅雨が明けたので、この短い夏の間にいろいろな信州を訪ね歩きたい。

(おわり)

読書会のもようです。

お志有難うございます。