ベルマーレのフォワードに必要なものって何だろうって、少し前の時代から考えてみる。(チョウさん時代2015年編)

新型コロナウイルスに屈しない限り続けます、過去の振り返り記事。

現在のチームが掘り下げられないのなら、過去のチームを掘り下げるしかないからね(笑)

・2015シーズン(J1)
基本布陣:1-3-4-2-1(3トップ)

前の記事でも書いたように、2014年のJ2リーグを"湘南圧勝"し続けて記憶と記録に残るシーズンを過ごしたベルマーレは、J2史上最強チームの称号を引っ提げて2年ぶりのJ1の舞台に戻ることになった。


意気揚々とJ1の舞台に戻りたかったベルマーレではあったが、前年のJ2で20得点を挙げてJ1昇格に大きく貢献してチーム得点王となったウェリントンとの契約交渉がまとまらず、結局ウェリントンはそのままベルマーレを退団。


既に新チームが始動していたベルマーレは急遽、当時ルーマニアでプレーしていたポルトガル人の194センチの長身フォワード、ギマを獲得するも、メディカルチェックで膝の負傷が発覚してチーム加入が見送りとなる事態が発生。
(これがいわゆる伝説のギマる事件、と読んでいいのか⁉︎笑)


余談ではあるが、鹿島アントラーズでも同時期に加入予定の選手に負傷が発覚して、加入が見送りになるケースがあった。
その選手はジネイというブラジル人フォワードでした(彼についての話はまた後ほど笑)


"ギマる事件"が勃発してしまったチームではあったが、シーズン前のトルコキャンプ後、この年にベルマーレ加入を果たしたDFアンドレ・バイアとボタフォゴ(ブラジル)でチームメイトだったブルーノ・セザルを獲得し、何事も問題なくチームに正式加入させて、どうにか9番問題を終息させる。


この年のフォワード編成はというと、前年チーム得点ランク2位の14得点を挙げた岡田翔平、残留組の大槻周平大竹洋平、柏レイソルから1年でベルマーレに帰ってきた高山薫、浦和レッズで燻っていた天才サッカー小僧の山田直輝、横浜F・マリノスから加入した藤田祥史、C契約でチームに加入した19歳のブラジル人アリソン、これに前述のブルーノ・セザルを加えたメンバー構成となった。


開幕戦となった浦和レッズ戦はホームで1-3の敗戦となって黒星スタートとなったベルマーレではあったが、2節のアウェイで行われた鹿島アントラーズ戦、この試合でベルマーレの歴史において語り継がれるべき衝撃の助っ人外人デビューがあった。

1-1で試合が進んでいた後半38分、大槻周平に代わって背番号18を背負うアリソンがベルマーレの3枚目の交代枠としてピッチに投入され、Jリーグデビューを果たしたのだが、サポーターが「あれ?」と注目してしまったのがアリソンの頭の部分。
前日の練習で頭部に裂傷を負っていたアリソンは、なんと包帯の上に黒い水泳キャップをかぶってピッチに出てきたのだった。


見た目のインパクトが抜群の状態だったアリソンは後半40分に1枚目の警告をもらってしまうのだが、後半45+1分、遠藤航の右サイドから上げたクロスにタイミングどんぴしゃりのヘディングシュートで合わせて、この試合の決勝ゴールを決める大仕事をやってのけだ。

画像1

(公式サイトのフォトアルバムから引用)

その後のキックオフからの2プレーくらいで反則を犯したアリソンはこの日2枚目の警告をもらって退場処分に。

ベルマーレがカシマスタジアムでアントラーズに勝利したのは20年ぶりという快挙だったのだが、劇的過ぎる勝利の裏には"アリソナルタイム"の衝撃があったことを忘れてはならない。

リーグ序盤戦はなかなか勝ち点を挙げられない試合もあったが、2013シーズンの時に見られた勝負弱さと他チームとのレベルの差は程よく解消され、2年前は前半戦で3勝しか挙げられなかったチームはこの年に6勝を挙げるまでの成長を遂げることとなっていた。

出場機会を多く確保していたのは、献身的に身体を張って攻守に渡って走り続ける、"湘南スタイル"のフォワード像にピタリとハマる大槻周平と高山薫の2人。
BMWのクルマかバイク並みに走れて、様々な位置でも使えるこの2人はチョウキジェフットボールの申し子とも言っていいくらいのプレイヤーだ。

大竹洋平、山田直輝のテクニシャンコンビはシャドーの位置か、試合によってはゼロトップの位置で使われることもあったが、お互いに細かい故障などもあって調子が整えられずにいて、多くの出場機会を確保できず。
昨シーズンに予想以上の大活躍を見せた岡田翔平は開幕戦での途中出場途中交代の屈辱からなかなか立ち直れずにいた。


この年の6月、なかなか湘南スタイルに適応出来なかったブルーノセザルが退団を発表。
実はこの時、チームにはベルマーレに縁もゆかりもあるブラジル人フォワードが練習に参加していた。(サポーターからの目撃談も多数あった)

その選手とはなんと、2013年夏にベルマーレから急に中東に移籍して、その間になぜか東ティモール国籍を取得、2014シーズンの8月からはヴァンフォーレ甲府でプレーしていたキリノだった。


当時のキリノは無所属状態にあり、移籍期間に関係なくチームに引き入れることが可能だったのだが、練習中にどうも程度の重い怪我をしてしまったらしく、彼の加入は選手登録期間の最終日の9月中旬まで引き延ばされることになる。


キリノの早期合流こそならなかったが、前半戦の最後の方には、負傷で出遅れていたベテラン長身フォワードの藤田祥史が試合に出てこれるまでに回復。
その藤田は移籍後2試合目の出場となったアウェイの松本山雅FC戦、後半43分に途中出場した数十秒後にファーストタッチで三竿雄斗のクロスからヘディングシュートを決めて、前半戦最後(1stステージ最終節)の試合の決勝点を決める非常に効果的な働きを見せた。
(試合は3-2で勝利。)


体力的にキツくなる夏場に差し掛かると、チョウさんは昨シーズンのJ2優勝にボランチの位置で大きく貢献し、中盤から最終ラインにかけてポリバレントな能力を発揮していた菊地俊介をシャドーの位置で起用し始める。


J2からJ1の舞台に上がってからはボランチの位置で使われていたものの、低い位置でボールを持った時に相手チームから狙われることも少なくなく、それによって伸び悩みの状態に陥ってしまったこと(かつて永木亮太もそうだった)、さらには菊地よりも大きく中盤にバランスをもたらせる石川俊輝も居たことも重なったのも幸いした。


菊地俊介のシャドー起用はまさに効果覿面だった。
広範囲に強度を高く持って走り続けられるし、ディフェンダーとしてプレーしていたので守備力もある。
さらには高校時代にトップ下の経験もあるので、フィニッシュワークにも存分に関われる。

選手の眠っている才能を開花させるチョウさんの眼力の良さが垣間見えたコンバートであったのは間違いない。
菊地俊介のシャドー抜擢がより効果を発揮するのは、また数年後のお話(笑)


シーズンを通して安定した闘いを見せていたベルマーレは、2ndステージ第14節、アウェイで行われたFC東京戦に臨んだ。
この試合に勝てばJ1残留が決定、湘南ベルマーレに生まれ変わってから初めての快挙を達成出来るところまでこぎつけてきたベルマーレは、ワントップにキリノ、2シャドーの左に高山薫、右にはウイングバックが本職の古林将太を起用したのだ。


これには大きな狙いがあった。
ひとつは、シャドーの位置でコバショーを使うのは別に初めてというわけではなく、当時のコバショーにとっては特に不慣れな位置でもなかった(と思われる)し、足が速くて単独での局面打開も厭わないという面では、キリノ・高山と同様にカウンターの発射台として機能する計算があったこと。


もうひとつは、右のウイングバックにコバショーのライバルとも言える藤田征也を起用し、コバショーと右サイドのユニットを形成することによって、左足からの正確無比なキックが武器の対面のFC東京の左サイドバック、太田宏介を激しい揺さぶりで"消す"ことにより、勝率を高めていこうという策を講じたからだった。

この狙いは見事にハマった。
コバショーは前半45+1分にフリーキックの流れからこの試合となる先制点を押し込み、一旦は同点にされたものの、後半10分には藤田征也の右サイドからのクロスからゴール前で左ウイングバックの菊池大介が決勝ゴールを叩き込む。

右サイドの2人の躍動に関しては、この試合で解説を務めていた玉乃淳さんが「FC東京のストロングポイントでもある太田宏介を、2人がウィークポイントにしましたよね!」と絶賛していた。


2年前にJ2降格が決まった苦い思い出と、1年前にはJ2優勝を決めた良い思い出のある味の素スタジアムで(湘南ベルマーレになってから)クラブ史上初のJ1残留を確定させたベルマーレ。


続く鹿島アントラーズ戦では、ホームの地の利が生きたこともあって、前半から鹿島を圧倒。
残留争いのプレッシャーから抜け出して伸び伸びと走り続けるベルマーレの選手たちを見て、この試合の解説の福田正博さんが「重圧から解放された湘南って、こんなにも恐ろしいんですね。」と驚嘆するほどのクオリティを放っていた。


前半5分にはボランチの位置から飛び出した菊地俊介が先制点を決め、32分には2試合連続でシャドーの位置で先発したコバショーが2試合連続のゴールを決める。
後半終了間際に鹿島に1点は返されたが、Jリーグで1番タイトルに縁のある鹿島相手にシーズンダブル(ホームでもアウェイでも勝つこと)を成し遂げる強かさも身につけた。

鹿島、さらにその次の新潟にも勝利して、4連勝をしてリーグ戦を終えたいベルマーレだったが、2ndステージ最終節の相手が優勝が決まりそうなサンフレッチェ広島(しかもアウェイゲーム)で、バツの悪いことに試合日の数日前からチョウさんの去就についての報道が各所で飛び出したのが選手たちの心理状態に影響したのか、試合は0-5で大敗。

そして、ここからの数ヶ月が次のシーズンに大きな陰を落とす時期となってしまう…


それは一旦置いといて、年間の成績は13勝9分け12敗で8位という一桁順位でフィニッシュ。

チーム内の得点ランキングはというと、ベルマーレ復帰1年目の高山薫が7得点、遠藤航、大槻周平、藤田祥史が4得点、と、相変わらず1人の得点源に頼らないところではあったけど、勝負にこだわる姿勢や内容の積み重ねがクラブ史上初のJ1残留を勝ち取った、とも言えるシーズンとなった。



また色々と大変なことが起こる2016シーズンへ続く…





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