年のはじめに考える これからのマーケティング

この2年、世界中で様々な環境や価値観が大きく変化しています。この変化は今後もさらに進むと思われます。マーケティングにおいても、フィリップ・コトラーがマーケティング5.0を著すなど、大きな変革が求められました。
そこで今回はこれからのマーケティングについて考えます。

・津田淳子さんの講演を聞いて
先日、『デザインのひきだし』編集長の、津田淳子さんの講演を聞きました。講演では、表紙のメイキングや苦労話などが紹介され、とても面白い内容でした。また編集者として、どのように本を制作しているのかを聞き、とても勉強になりました。

そうそう、僕がデザインの世界と関わって5年、紙や印刷の話で解らない内容や言葉がなく、ちょっと嬉しかったです。

ちなみにこのときは、次の2月に発売される『デザインのひきだし』の制作が大詰めで、名古屋で講演などしているとバレたら、他の方に怒られそうなんて話も。(笑)

さて講演の中で、津田さんが心がけていることとして、「自分がほしいものを作る」と「マーケティングはしない」という話が印象的でした。
本を作るとき、実はかなり時間がかかります。僕が本を共著で書いたときも、最初の会議から2年近くかかりました。津田さんが本を作るときは、3年程度かかるそうです。自分が読みたくてもない本を、実際に色々調べて、読みたいと思う内容を考えて、構想を練り出発に至る。この間約3年なのだとか。

普段から何冊も本を出していて、色々な原稿を書き溜めているような人でなければ、まあ、ちゃんとした本を書こうと思うと、このくらいはかかります。

・本当にマーケティングをしていないのか
津田さんは、本を出版するにあたり、「トレンドの研究をしない」「リサーチ会社の情報を使わない」=「マーケティングをしない」とのことでした。僕はこの話に、とても感銘を受けました。なぜなら、津田さんの考え方は、今求められているマーケティングそのものだからです。

ちなみに余談ですが、出版やデザインに関わる津田さんが「マーケティング=プロモーション」と考えていないことも嬉しかったです。

さて、それではなぜ津田さんの話が、マーケティングの核心を突いているのでしょうか。

・これからのマーケティング
第1に、津田さんのアイデアが「Just idea:思いつき」ではないことです。編集長というお仕事ですから、勝手に売れないものを作るわけにはいきません。しかし津田さんは、常々多くの本に接し、また多くの情報をえています。
もちろん、どんな情報でも、、、というわけにはいきません。しかし津田さんが作る本に必要な情報を常に得ています。だから本を出版するのに3年もかかりますし、言い換えれば、3年かけて作っても劣化しないものを作っています。

第2に、「欲しいけどない本」=「世の中の誰かが求めている:問題解決」という点です。これは津田さんのアイデアが思いつきでないという話とも重なりますが、人が求めているものを作っていて、それが結果に繋がっているという点です。
つまり津田さんは、顧客の求める機能と価値を提供しているのです。

第3に、津田さんという人物が作っているということです。
『デザインのひきだし』という本は、かなりマニアックな本で、発行部数も少ないのですが、毎回ほぼ売り切れになります。しかも毎回とても凝った内容で、苦労して作っておられます。
実はこの講演は、とある芸大の公開講座で、もともと『デザインのひきだし』を毎回買っている友人と行くはずでした。都合が合わず1人で行きましたが、友人は津田さんの講演と伝えただけで、「絶大行きたい」と、とても楽しみにしていました。
つまり津田さんが、『デザインのひきだし』という本を作っている人として、とても高い評価を得ています。実際に講演も、予想以上に大きな会場が、ほぼ満席でした。

・「何を」ではなく、「誰が、なぜ」
僕はこれまで何度か、情緒的価値について述べましたが、津田さんの仕事は、文字通り共感の仕事です。印刷やデザインに愛情を持って取り組んでいる人たちが、とても高く評価する本を作っていますから、津田さんが作ったもの、作った姿勢が高く評価されています。

実はこれは、インスタグラムなどとも同じ考え方で、これからのマーケティングに不可欠なもの。

必要な「モノ」が行き渡った現代では、人は心の豊かさを求めるようになりました。その結果、「何を」ではなく「誰が」「なぜ」その製品やサービスを提供するのかという「共感」を求めるようになっています。SNSが提供しているのも文字通り共感です。価値観を共有人に伝われば、世界中の人の共感を得る必要はありません。発信者の「過程」に重きをおきます。

だからこそ、津田さんが言う「マーケティングをしない」という言葉は、現代の究極のマーケティングに聞こえます。

資本の原理を超えて、人の思いが価値として評価される。そうした時代のマーケティングが求められるようになったのだと思います。


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