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足関節背屈制限を診る上で必要な知識③筋、背屈制限

下腿筋群の機能分類
 下腿筋群は足関節周辺を腱として通過し、その機能は距腿関節軸と距踵関節軸との関係のなかで考えるとよい。TA腱は、距腿関節軸の前方で距踵関節軸の内側を通過するため、その機能は背屈と回外作用をもつことになる。この作用をもった筋肉は他にはなく、TA固有の機能と考えてよい。

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下腿のコンパートメントと収納される筋肉
 下腿のコンパートメントは前側、外側、浅後側、深後側の4つに分けられる。TAは長趾伸筋、長母趾伸筋らとともに前側コンパートメントに収納されている。

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前脛骨筋 TA:tibialis anterior
 起始:脛骨外側面、下腿骨間膜の上部
 停止:内側楔状骨、母趾中足骨底の足底面
 支配神経:深腓骨神経(L4~S1)
 作用:足関節背屈および足部の回外
    足部が固定された場合、下腿の前傾
    内側縦アーチに対して挙上し、横アーチに対しては低下させる。
 備考:後脛骨筋と、回内・回外運動に関しては協同筋、
    背屈・底屈に関しては拮抗筋である。
長趾伸筋 extensor digitorum longus
 起始:腓骨内側面、脛骨外側面の上部
 停止:第2~5趾の趾背腱膜へ移行し中節骨、末節骨
 支配神経:深腓骨神経(L4~S1)
 作用:第2~5趾を伸展し、距腿関節では背屈、距踵関節では回内
    長趾伸筋は足部全体が固定された場合には、下腿前傾
 備考:前脛骨筋の外側に沿って下り、下伸筋支帯より遠位で4つの腱に
    分かれる。長趾伸筋の下外側部から分かれ、第5中足骨底に至る筋
    を第3腓骨筋とよぶ。
長母指伸筋 extensor hallucis longus
 起始:下腿骨間膜、腓骨中央の骨間縁
 停止:母趾の趾背腱膜に移行し基節骨に停止する。
    一部は末節骨まで伸びる。
 支配神経:深腓骨神経(L4~S1)
 作用:母趾伸展、距腿関節では背屈、距踵関節ではわずかに回内に
    作用する。回内作用は長趾伸筋に比べ弱い。
    足部全体が固定された場合には、下腿前傾
 備考:長母趾伸筋は半羽状形をした筋肉で、下腿部ではTAと長趾伸筋に
    覆われている。

 長趾伸筋、長母趾伸筋の足趾への伸展作用は、足関節肢位の影響を受ける。足関節が底屈位にある方が、筋長が伸ばされ効果的に作用する。

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後脛骨筋 tibials poterior
 起始:下腿骨間膜後面の上半、脛骨。腓骨の骨間膜側
 停止:主に舟状骨粗面と内側楔状骨に停止。
 線維の一部は足底へと広がり、中間・外側楔状骨、立方骨底に至る。
 支配神経:脛骨神経(L5~S2)
 作用:足関節底屈、足部回外(内反)・内転
    足部を固定した場合には、下腿を後傾かつ内方へ引く。
 備考:足部アーチを保持する最も重要な筋肉である。
長趾屈筋 flexor digitorum longus
 起始:脛骨の後面
 停止:短趾屈筋の腱裂孔を貫き第2~5趾の末節骨底
 支配神経:脛骨神経(L5~S2)
 作用:第2~5趾屈曲、足関節底屈
    また、足部回外(内反)
    足部が固定された場合には、下腿を後傾させる。
    足部アーチを挙上する。
 備考:下腿の遠位では後脛骨筋兼の上方をまたぎ、足根管のレベルでは
    後脛骨筋腱の後方を通過する。
長母趾屈筋 flexor hallucis longus
 起始:腓骨体の後面
 停止:母趾末節骨底
 支配神経:脛骨神経(L5~S2)
 作用:母趾屈曲、足関節底屈
    また、足部回外(内反)
    足部が固定された場合には、下腿を後傾させる。
    足部アーチを挙上する。
 備考:足根管のレベルでは後脛骨筋の後方でアキレス腱内側縁の前方の間
    を通過する。
 長母趾屈筋腱は、アキレス腱の下方をくぐり腓骨側へと至る。
 長母趾屈筋腱は距骨後方にある外側結節と内側結節との間を通過し、
足底へと向かう。

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腓腹筋 gastrocnemius
内側頭
 起始:大腿骨内側上顆
 停止:踵骨隆起
 支配神経:脛骨神経(L4~S2)
外側頭
 起始:大腿骨外側上顆
 停止:踵骨隆起
 神経支配:脛骨神経(L4~S2)
 作用:膝関節を屈曲させ、足関節を底屈させる
    膝関節伸展位での足関節底屈には双方の筋が関わるが、
    特に腓腹筋による作用が強い。
 備考:腓腹筋は主に白筋より構成される。

 アキレス腱と足関節後面との間の間隙はKagar’s Fatと呼ばれる脂肪体が埋めており、腱の滑りの円滑化や衝撃の緩衝作用を果たすといわれている。

ヒラメ筋 soleus
 起始:腓骨頭から腓骨後面ならびに脛骨ヒラメ筋線
 停止:腓腹筋とともにアキレス腱を構成し踵骨隆起
 支配神経:脛骨神経(L4~S2)
 作用:足関節底屈
    膝関節屈曲位での足関節底屈にはヒラメ筋が作用する。
 備考:ヒラメ筋は主に赤筋により構成される。

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長腓骨筋 peroneus longus
 起始:腓骨頭および腓骨体外側面の上半
 停止:母趾中足骨底および内側楔状骨の底面
 支配神経:脛骨神経(L5~S2)
 作用:足部回内(外反)、足関節底屈
    母趾列の内転を制動し、足部横アーチを保持する。
    足部を固定した場合には、下腿を後傾させる。
 備考:長腓骨筋県は踵骨外側の長腓骨筋健康を下り、足底面へと入る。
短腓骨筋 peroneus brevis
 起始:腓骨体外側頭の下半
 停止:第5中足骨粗面
 支配神経:脛骨神経(L5~S2)
 作用:足部外転、足関節底屈
    足部を固定した場合には、下腿を後傾させる。
 備考:外果のレベルでは、短腓骨筋腱が長腓骨筋腱の前方に位置する。

長腓骨筋、短腓骨筋とも外果を滑車として利用し、走行を変換する。

足底筋膜 plantar aponeurosis

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 足底にある筋はすべて、厚く丈夫な表在性の筋膜から生じた足底腱膜により覆われている。足底腱膜は踵骨隆起から起こり足趾へ放散する縦走線維が最も強靭で、これら縦走線維を結びつける役割を横走線維が果たしている。筋膜が厚く肥厚した組織ではあるが、機能的には足部アーチ構造を維持する靱帯装置としての役割が主体である。巻き上げ機構のケーブルに相当し、足趾を背屈することで巻き取られ足部アーチが挙上する。これをウィンドラスメカニズムという。
ウィンドラスに関しては、足関節背屈制限を診る上で必要な知識①を参照下さい。

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背屈制限
基本的知識
概要

 一般的に足関節背屈は距腿関節における背屈可動性としてとらえられるが、荷重位での足関節背屈運動に関与する骨・運動は非常に多い。荷重位での足関節背屈動作では、まず踵骨(距骨下関節)の外がえしと軽度の外旋が生じる。この踵骨の外がえしと外旋に対応して、より近位に存在する距骨の内旋と軽度の底屈、そしてより近位に存在する下腿の内旋が生じることで、距骨滑車と脛骨関節面の向きが一致し、正常な距腿関節の背屈運動を行うことが可能となる。

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一方、踵骨より遠位の中・前足部では、踵骨の外がえしと距骨の底屈・内旋に対応して、ショパール関節の外がえしが生じる。ショパール関節外がえしによる舟状骨・内側楔状骨の降下が第1趾列におけるリスフラン関節の背屈を生じさせ、正常な足部内側縦アーチの降下が起こる。

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正常な荷重位での足関節背屈動作には、適度な足部内側縦アーチの降下が必須であり、アーチの降下が制限されると足部による衝撃吸収作用が機能せず、足部・足関節周囲へのストレスを増加させる原因となる。また、背屈時に足趾(MTPjt)の十分な伸展可動性を有することも、内側縦アーチの降下には重要な要素となる。荷重位での足関節運動に関与するこれらの運動に関して整理する。
下腿
 下腿回旋のアライメントおよび可動性は、距腿jt運動に影響を及ぼす。水平面における下腿回旋アライメントは、下腿の捻転、膝関節における回旋、近位および遠位脛腓jtにおける腓骨アライメントが関与する。
 膝jt(脛骨大腿jt)の回旋アライメントに関連する主な膝jt内旋筋には、半腱様筋や半膜様筋、膝窩筋などがあり、外旋筋には大腿二頭筋や腸脛靭帯が挙げられる。

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膝jtの内外旋可動性は、伸展位よりも屈曲位で大きく、屈曲位での他動回旋可動域は60~70°程度であり、内旋よりも外旋の方が大きいとされる。また、膝jt伸展時に下腿は外旋するが、その外旋角度はおおよそ10°以内とされる。
 近位および遠位脛腓jtの可動性は小さいものの、足jt運動に影響を及ぼす。距腿jt背屈時、近位脛腓jtでは脛骨に対して腓骨は前上方へ滑り、遠位脛腓jtでは腓骨は後上方へ滑るとともに外側に変位(脛腓jtの開大)する。

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運動は小さいものの、骨折後など可動制限が予測される場合は考慮が必要である。
距腿・距骨下関節
 後足部(距腿・距骨下jt)の運動は、荷重位での足jt背屈運動の重要な要素となる。成人では、水平面において距骨頭は矢状面に対して30°程度内側を向くとされる。距骨に付着する筋は存在しないが、距骨に付着する靱帯の損傷によって、水平面における距骨のアライメントや運動に変化が生じる可能性がある。
 距骨下jtは、主に前額面における内がえし・外がえし運動を担う。足jt背屈時には、踵骨が外がえしすることで、正常な足部内側縦アーチの降下が観察される。非荷重時、距骨下jtは軽度内がえし位にあり、荷重によって外がえしする。距骨下jtの外がえしは下腿の内旋と関連し、反対に内がえしが約23°、外がえしが約13°と報告され、内がえしと外がえしの可動性はおおよそ2:1といえる。一方、他動運動での計測では内がえしと外がえしの比は約3:1と報告された。距骨下jtは、外がえしと比較して内がえしの動きが大きく、外がえし可動性の制限は荷重位での足jt背屈の制限因子となる。
 足jt背屈時、距腿jt内において、下腿に対して距骨は後方に滑る。この際、距骨の下方に位置する踵骨に付着するアキレス腱や後方関節包などの短縮がある場合、踵骨の背屈が制限され、距骨の後方滑りを妨げる可能性がある。また、腱が距骨後突起部を走行する長母趾屈筋の柔軟性低下も距骨後方滑りの制限因子の一つと考えられる。

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距骨後方滑りの低下は、足関節背屈制限の重要な要素の一つであるが、水平面上での距骨アライメントの異常による距腿jt面の不一致にも起因する可動性があるため、jt面を一致させた状態で評価すべきである。
ショパール関節
 ショパールjtの外がえしは中足部の柔軟性を増加させ、足部内側縦アーチの降下に重要な役割を果たす。距骨下jt内がえし・外がえしと連動する。距骨下jt内がえし位ではショパール関節も内がえし位となり、ショパール関節を構成する距舟jt軸と踵立方jt軸が交差するため、中足部の剛性が高まる。一方で距骨下jt外がえし位ではショパールjtも外がえし位となり、距舟jt軸と踵立方jt軸は平行になるため、中足部の柔軟性が増加する。

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荷重位での背屈運動時、距骨下jtの外がえしが制限された状態では、足部の外がえしは主にショパールjtの代償的な外がえし運動によって生じ、踵骨の外がえしが制限されていなければ、中・後足部の連動した外がえし運動による足部内側縦アーチの降下が観察される。

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距舟jtは水平面での内外旋にも比較的大きな可動性を有している。距舟jtの足底面に存在するバネlig(底側踵舟lig)の存在が、距舟jtにおける内外転運動を可能にしていると考えられる。しかし、距舟jtの底内側を覆うバネligは、荷重に伴う距骨の底屈・内旋によって伸張ストレスにさらされる。そのため、バネligの過度な伸張は、距骨の可動な底屈・内旋に伴う足部内側縦アーチの扁平化を助長し、距舟jtの外転を増加させる一因となる。

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リスフラン関節・足趾
 第1リスフランjtは、第2~5リスフランjtと比較して可動性が大きく、そのほとんどが矢状面上での底背屈運動である。歩行における第1リスフランjtの矢状面上での可動性は10°程度とされ、足jt背屈が要求される立脚中期までに約5°の背屈が生じる。第1リスフランjtの可動性の制限は、前足部の運動の制限と足部内側縦アーチの降下を妨げる要因となる。
 足趾の伸展制限は、長趾屈筋や長母趾屈筋、足底腱膜の伸張性低下によって生じることが多い。日常生活において、足jt背屈時に足趾の伸展が要求される場合はほとんど存在しないが、過度な足趾伸展制限は、足部内側縦アーチの降下を妨げる要因となる。

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足趾の他動伸展可動域は約65°とされ、足趾では85°程度までの伸展が可能とされる。
足関節背屈可動性障害の評価
概要

 臨床評価では、非荷重位および荷重位での正常な足jt背屈運動を基準とする。非荷重位での足jt背屈運動は膝jtの屈曲角度の影響を受けるため、膝jt伸展位および屈曲位で評価を行う。膝jt伸展位での足jt背屈は腓腹筋の伸張によって制限されるが、背屈10°以下は足部の代償による二次的なアライメント異常の原因とされる。膝jt伸展位での測定は、股jt回旋の影響を除くため、背臥位で膝蓋骨が天井を向いた状態で評価する。自動背屈時に足尖が外方に向く場合、正常な足jt背屈が阻害されている可能性が高い。このような足では、足尖を天井に向けた状態で背屈すると足部の内がえしが生じるため、下腿外旋や距骨下jt・ショパールjtの内がえしが生じていると推測される。

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足部の代償を伴った状態での可動域測定は、測定の再現性低下の原因となるため、足底時には足部中間位での測定を心掛ける。
 膝屈曲位での足jt背屈角度の参考可動域は20°とされるが、屈曲位での測定時にも足部の肢位を統一して評価すべきである。距腿jtの構造上、足jt背屈時に距骨後方滑りが正常であれば距腿jtは骨性に安定する。しかし、さまざまな機能障害により距骨後方滑りが制限されると、足jt背屈位における距腿jtの安定性は低下し、正常では生じえない距腿jtの内外旋方向の遊びが確認される。足趾と膝の向きを一致させた状態(距腿jt内外旋中間位)にて足jtを背屈させた際の足部外転方向の遊びを確認する。正常足jtでは背屈位における外転方向への遊びは確認されず足底面は水平となるが、何らかの原因により安定性が低下した足jtでは、足部は内がえしし、外転方向への遊びを認める。

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距腿jt内外旋中間位での距骨後方滑り制限は、水平面における距腿jt面の不一致(過度な下腿外旋や距骨内旋)やアキレス腱や後方関節包、長母趾屈筋などの距腿jt後方組織の短縮が原因と推測される。
 荷重位での足jt背屈可動性は多くの関節運動が関与し、

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そのどれかが正常に機能しなければ、足jt背屈運動は制限されてしまう。荷重位での足jt背屈は、足趾と膝の向きを一致させた状態での可動性や安定性を評価する。このとき、正常であればスムーズな下腿前傾が生じて距腿jtは骨性に安定し、足部アーチの降下に伴い母趾球への荷重が起こるため、足部・足jt全体も安定する。一方、なんらかの原因によって背屈可動性が制限されている場合、下腿前傾角は減少し、スムーズな母趾球への荷重が阻害され、足部・足関節の安定性も低下する。安定性の評価を目的に膝を左右に揺らすと、背屈可動性制限のある足では、足部・足jtの安定性低下を認め、足趾屈曲による代償が認められる場合も多い。

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このような足では、足尖を外側に向けることで背屈可動性と安定性の増加を認めることも多い。これは下腿内旋や中・後足部の外がえし制限が足jt背屈の制限因子となっていることを示唆する。
各関節機能評価
下腿

 下腿回旋のアライメントや可動性は、膝jtの屈曲角度によって変化するため、膝伸展位と屈曲位の両方で評価すべきである。しかし、現時点で下腿回旋のアライメントや可動性の確立された評価法は存在しない。下腿外旋角の評価では、脛骨粗面を指標にしやすい。過外旋位にある膝では、脛骨粗面はより外方に位置する。

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下腿回旋可動性の評価は、大腿骨内外顆を結んだ線に対する内外果を結んだ線のなす角度や脛骨粗面の移動距離によって評価する。

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一般的に他動内外旋時は軟部組織の伸張により制限されるが、その際のエンドフィールや抵抗感を主観的に評価することも重要である。下腿は大腿に対して過外旋もしくは内旋制限を生じることがほとんどであり、下腿内旋制限は荷重位での足jt背屈の制限因子となりうる。
 現時点で脛腓jtの可動性や腓骨アライメントの確立された評価法は存在しないため、アライメントは主に左右差にて評価し、可動性の評価は主観的なものとなる。腓骨は、主に脛骨に対して前後・上下方向への可動性を有しており、可動性の低下がアライメントの異常を招く。近位脛腓jtは腓骨頭、遠位脛腓jtは外果をランドマークとすると、これらの指標の脛骨に対する上下、前後方向のアライメント異常を確認するとともに、可動性も評価する。

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距腿・距骨下関節
 距骨頭アライメントの定量的な評価指標は存在せず、主に背臥位および立位での距骨頭の触診によって行われる。足jt軽度背屈位で距骨頭を把持し、足部を他動的に内がえし・外がえしさせ、距骨頭がない外側ともに突出しない位置が距骨頭の中間位と定義される。荷重位・非荷重位ともにリラックスした肢位(RCSP)での距骨頭の触診によって、距骨の内外旋アライメントを評価する。距骨が内旋している足では、距骨頭の外側がより突出して触れることができる。一方、他動的に距骨頭を中間にとした際(NCSP:neutral calcaneal stance position)に、後足部・前足部がどのようなアライメントとなるかも確認するとよい。

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距骨頭を他動的に中間位に矯正した際、足部が過度に内がえしする場合は、リラックスした肢位で距骨頭が内旋しており、内側立てアーチの過度を低下が推測される。
 距骨下jtのアライメント評価には、一般的にleg-heel alignmentが用いられる。これは荷重位および非荷重位において下腿長軸と踵骨長軸が前額面上でなす角度と定義される。健常者を対象とした報告では、非荷重位では軽度内がえし位(1~8°)、荷重位(RCSP)では軽度外がえし位(約3~7°)が平均とされた。

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臨床では、主に非荷重時の過度な内がえしや荷重時の過度な外がえしの有無を確認するが、踵骨二等分線の計測誤差は6°程度生じるとも報告されており、計測時には注意が必要である。内がえし・外がえしの可動性は、固定した下腿に対する踵骨の可動性によって評価する。

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距骨下jtの外がえし可動性低下は、荷重時の足jt背屈運動を制限する。
ショパール関節
 一般的に前足部のアライメントは、鎖骨下関節中間位とし、踵骨底面(後足部)に対する第1~5中足骨頭の底面(前足部)のなす角度で評価される。この前足部アライメントの基準値は6~8°程度の内がえしとされる。

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この前足部の内がえしは、主にショパール関節によって生じていると推測されるが、リスフランjtにおける過度な底背屈も影響する。ショパールjtの外がえし可動性は、距骨下jtを中間位に固定し、舟状骨および立方骨を把持した状態で可動性を評価する。

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ショパールjtの外がえし可動性の低下は、荷重時の足jtを制限する。
 ショパールjtでは水平面上での運動(内転/外転)も生じるが、内外転アライメントおよび可動性の定量的評価法は存在しない。ショパールjtの内外転アライメントは、距骨下jtを中間位に固定して評価する。距骨下jtを中間位に固定した際の第1趾列の並び(舟状骨結節の突出の程度)から、中間位・外転位・内転位に分類することができる。また、中足部を把持して外転可動性を確認する。

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この際、外転アライメントや過度な外転可動性を有する足では、荷重時に足部内側縦アーチが過剰に降下する(扁平足)原因となりうる。一方で、内転アライメントや外転可動性の低下は、荷重時の足jt背屈運動を制限する。
リスフラン関節・足趾
 荷重時の足jt運動時に生じる足部内側縦アーチの低下には、リスフランjtの背屈が関連する。最も大きな可動性を有する第1リスフランjtの背屈運動は、内側楔状骨を固定した状態で評価する。

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第1リスフランjtの背屈には軽度の回外を伴う。
 足部内側縦アーチ降下を制限する足底腱膜の緊張は、足趾MTPjtの伸展を制限する。また、足jt底屈作用を有する長趾屈筋や長母趾屈筋の短縮も足趾MTPjtの伸展を妨げ、荷重時の足jt背屈運動を制限する。足趾可動伸展可動性は中足骨を固定した状態で評価を実施する。
運動連鎖による影響
 足jt背屈可動性障害に対する基本的な評価の流れは提示したが、膝・股jtなどの近位jtのアライメント・可動性異常が足jt背屈制限の原因となる場合もある。例えば、過度の股jt内旋(骨盤に対する大腿骨の内旋)は、下腿内旋と足部の外がえしを生じさせ、過度な足部内側縦アーチ低下(扁平足)の原因となる。一方で、過度な股jt外旋(骨盤に対する大腿骨の外旋)は、下腿外旋と足部の内がえしを生じさせ、ハイアーチの原因となる。この場合、距踵jtにおけるjt面の不一致や距骨下jtの外がえし制限が生じ、足jt背屈可動性が制限される。また、このような足では、立位時に荷重面を増やすために足尖を内側(toe-in)もくしは外側(toe-out)に向けることが多い。

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これらは足jt背屈を確保するための代償的な戦略の一つと考えられるが、このような異常アライメントの習慣化は特定組織へのストレスの集中につながる可動性があるため、修正が必要である。

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股jtの内外旋は骨盤の前後傾に誘発されている場合も多いため、評価の際には下肢の近位jtや体幹の影響も考慮した上で治療を進めることが重要である。
概要
 足jt背屈可動性の障害に対する治療の目標は、非荷重位および荷重位での正常な足jt背屈可動性の獲得である。基本的には各jt評価において異常を認めた部位に対してアプローチしていくが、患者の受傷機転や現病歴、既往歴などから優先順位を決め、治療を進める。また、急性期における炎症症状の有無や荷重制限など、病気に応じて治療方針やスケジュールは変化する。
各関節機能障害に対するアプローチ
下腿

 下腿内旋可動性の獲得によって、水平面における距腿jt面を適合させるため、下腿内旋の制限因子となりうる軟部組織の柔軟性改善は必須である。膝jt外旋筋である腸脛ligや大腿二頭筋、下腿内旋に伴う腓骨の前方移動を妨げる可能性がある長。短腓骨筋や長母趾屈筋、腓腹筋外側頭などの柔軟性獲得が必要となる。また、膝jt内旋筋である内側ハムストリングスの機能を低下される可能性がある鵞足包の癒着やそれに伴う腓腹筋内側頭の柔軟性低下にも留意する。

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下腿回旋運動も可動性改善には効果的である。自動介助運動から徐々に自動運動へと移行し、慣れてきたら膝jt屈曲角度を変えながら実施する。

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 近位および遠位𦙾腓jtの可動性改善を目的とした徒手療法は、いくつか存在する。

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これらの徒手療法は、主に骨折を有さない軽度・中等度の足jt捻挫を受傷した患者を対象に用いられ、他の徒手療法や運動療法との組合せによる介入によって、75%(64/85名)の患者で治療効果を認めている。また、足関節背屈運動に合わせて徒手的に外果を上方へ動かす方法も有用である。

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距腿・距骨下関節
 いくつかの研究によって、距骨後方滑り改善を目的とした非荷重位・荷重位での徒手療法の足jt背屈可動性改善効果が証明されている。背臥位もしくは立位で足部を背臥位に固定した状態で距骨に対して後方へ滑らせる力を加える。

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これらの距骨後方滑りを目的とした手法は、距腿jtのjt面が一致した状態で行うべきであり、距骨アライメントに影響を及ぼす下腿や距骨下jt、ショパールjtの可動性を改善した後に実施するほうが効果的と考える。
 距骨下関節の外がえし可動性改善には作用を有する筋や内果周囲組織の柔軟性改善と踵骨運動の改善が必要となるが、現時点で距骨下jtの外がえし可動性改善を目的とした運動療法や徒手療法の効果を証明した研究は存在しない。一方、距骨下jtの可動性改善を目的とした徒手療法はいくつか存在する。患者を側臥位として、一方の手で遠位𦙾腓jtおよび距骨を固定し、もう一方の手で踵骨を外方へと滑らせる。

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また、距骨下jtの外がえし可動性を改善させる目的で、脛骨内側縁付近の皮下組織や屈筋支帯周囲組織の滑走性改善を目的とした徒手療法が有効である。

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ショパール関節
 ショパールjtの外がえし可動性改善を目的とした徒手療法はいくつか存在する。下図に示す手法は、背臥位で中足部を手で包み、抵抗を感じるまで足jtを背屈。外がえし位とした状態で足部を尾側方向に引く。また、中足部の外がえしを制限する可動性のある楔舟jtや第1リスフランjtの可動性改善を目的とした徒手療法も効果的である。

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 ショパールjtの外転可動性の低下には後脛骨筋や母趾外転筋の柔軟性低下などが関与していることが多い。これらの筋は距骨下jtの外がえし可動性を改善させることで柔軟性の改善を認められることも多いが、変化を認めない場合には治療対象となる。このような場合、筋腹へのマッサージなどで柔軟性の改善を図る。

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また、自動での足部外転運動(短腓骨筋エクササイズ)の実施も可動性改善に有効である。

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リスフラン関節・足趾
 第1リスフランjtの背屈可動性の改善には、徒手療法が用いられることが多い。内側楔状骨を把持した状態で中足骨を底背屈方向に動かすことで可動性の改善を図る。
 足趾の伸展は、他動運動や自動運動によって可動性の改善を図る。

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特に外反母趾の場合には、中足骨に対して基節骨が外反・回内しているため、母趾を内反・回外させることでjt面を一致させるように気をつけながら可動性の改善を図る。
引用・参考文献
青木隆明監)、林典雄執):運動療法のための機能解剖学的触診技術下肢・体幹、改訂第2版、MEDICAL VIEW、2012年
片寄正樹監)、小林 匠他):足部・足関節理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2020年
坂井建雄他)監訳:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論/運動器系第3版、医学書院、2019年、1月


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