懐古 I -秩父-
唐突に始まる懐古。初回は秩父としよう。
1年ほど前。
春、というにはもう遅いだろうか。
4月も半ば、池袋から電車に揺られて秩父へ向かう。
果たして何時間かかっただろうか。
特急券をケチったのは間違いだった。
…まぁよい。目的地までの道程も残りわずか、もう少しで”あの場所”だ。
西部秩父駅から住宅街を抜け、丘を登る。
林の木々はすっかり初夏の装い、青い空に新緑が映える。
木々の影があっても汗ばむくらいだ。
いよいよ目的地。
たどり着いた先には、”花の絨毯”。
羊山公園の芝桜の丘。
訪れる前日だったか前々日だったか、偶然Twitterで見かけて即決。
自分の目に、その景色をおさめるために向かったのだ。
行き道に痛い目を見たことなど、とうに忘れている。
こっちでは芝桜が流れ出しているではないか。
いや、溶けている。
芝桜の織りなす、淡いいろの儚さと美しさ。
魔界の混沌を忘れられる場所。
いつか、また。