スマートシティー拠点AiCTの今。なぜ会津若松か?が見えてきた
10ヶ月ほど前に、会津若松市のスマートシティー拠点AiCTについて投稿しました。
超ローカルネタだったので閲覧数はまったく期待しておらず、だからこそあるのかないのかわからない話も含めて勝手に書いたのですが、これが未だにじわりじわりとコンスタントに閲覧され続けています。
それだけこの取組は、世間的な注目を得るだけの価値のあるトピックなのだとわかりましたし、昨今のDXブームと相まって、自分ごととして捉えるIT関係者、行政関係者も増えているのかなと思います。これも会津若松市、及び「アクセンチュア イノベーションセンター福島」の先見性、及び経過における地道な発信と実績の積み上げの賜物にほかなりません。
それだけに、私が上で書いた内容を今顧みたときに、その後の経過や、私が間違っていた点や想像に反した点などについてきっちりフォロー記事を書かねばと思いました。
それと、最後には「DXと地方中小企業」について、中小企業の内部の人間として日々もがく筆者の観点から論じたいと思います。記事を2つに分けたので今回は前半です。
AiCT入居状況の今
前の記事では、AiCT開所当時のビル入居状況について、次のように少し否定的に記述しました。
<入居状況>
AiCTの収容人数は約500人。開所当初は17社、約400人ほど入っているようで、よくぞそこまで集まったなという感じはします。しかしその6割以上の250人がアクセンチュアです。
その後は、セイコーエプソン、ソフトバンク、コカ・コーラジャパン、日本マイクロソフトといった大手企業を筆頭に、着実に入居率を伸ばし、10月19日時点で貸室面積で言うと「89.3%で契約が完了した」そうです。
テナント数ではなくて「貸室面積」で入居率を表すのが一般的なのかはわかりませんが、それを踏まえても少なくとも私の想像よりは順調に進んでいるように感じます。もっと様子見の時期が続くのではないかと思っていました。
ならば当初の事業計画における予測値と比べたらどうなのか、市の資料を振り返ろうと思ったら・・・事業経過のページがまるっきり上書きされている!
以前は上のURLに、計画初期段階からワーキンググループの討論結果、課題点の列挙、ICTオフィス立地についての紆余曲折などが時系列で資料化・公開されていたはずなのに、どうやら10月22日に最新情報のみに上書きされてしまったようです。過去記事からも辿れません。なにせURL末尾が「2016052600011」ですから、ページが上書きされたことが明らかです。もし取り組みを参考にしたい自治体あるならば貴重な情報だったわけで、私はこの透明性、いわば赤裸々具合に好感を持っていただけに残念。
まさか「オープンデータの活用」を掲げながら、事業立案・実行の経緯は知的財産化して一儲けしようとしているのでは?と邪推したくなりますが、あらためて整理して公開してくれることを期待します。
「なぜ会津若松か?」キーワード1:オプトイン
さて、重箱の隅をつつくのはそのくらいにして、「本当に会津若松に企業が集まるのか?」「なぜ会津若松か?」について、前に書いた段階ではまだピンと来ていませんでした。
しかし、アクセンチュア・イノベーションセンター福島の中村さんがさかんにおっしゃる「オプトイン(提供者が同意・承諾した場合にのみデータを提供する)」がその答えのキーワードとなっています。
「スマートシティ化は、表立って市民が要求するものではないが、地域の活性化を考えたら行政がやらないといけない取り組み。その実現のためには、マインドのチェンジが重要」とし、実際に会津若松+でもオプトインで医療データを集める際に、孫や子供の健康のために役に立つのであれば、と一般的にはスマートフォンなどのデジタル機器の操作が苦手と考えられている高齢者たちが、自身のデータの提供を率先して行ってくれるという事例もでてきたという。
つまり、市民自らの積極的な情報開示が価値のあるデータを生むのであり、それができている、ということです。
たとえば市民への情報提供サイトである「会津若松+(プラス)」は、利用者に詳細情報(年令・性 別・家族構成・趣味嗜好等)を登録してもらうことで、パーソナライ ズされた行政情報、地域情報が提供される、とのこと。
私も「会津若松+」にID登録して趣味・感心を登録しようと思いました。下の画面で設定するようですが、ボタンを押しても枠の色が青になったりするだけだし、操作ガイドもないし、正直設定方法がわかりませんでした・・。Safari非対応かと思い、スマホ、PCそれぞれでChromeも試しましたが、駄目。これ、みんなできてるんでしょうか。
それはさておき、趣味・嗜好に沿った情報の提示といえば、Googleニュースアプリが思い浮かびます。Androidスマホで勝手に起動していて最初は迷惑に思うけど、記事セレクトのあまりの精度の高さについ使い続けてしまいます。ちなみにGoogleはサーチエンジンはもとよりOSごとユーザー動向を握っているので上のような興味申告は不要。それをサービスに利用することに関して特に同意した憶えないですが、探せば設定があって外すことができる。
会津若松プラスではもともとの情報がローカルである分、まと外れの情報を出す可能性は低いものの、逆に個人にクリティカルヒットする情報を出していかないと、価値が感じられにくいと思います。職業、働いている場所、家族構成や子どもの年齢、病歴などもっと踏み込んだ設定があってもよいのではないでしょうか。
さて、このような市民の対オプトインマインドが会津若松でなぜ芽吹いたかを考えると、市民への丁寧な説明と理解というのも当然大切ですが、「田舎に住む人」の性質もあるのではないかと思うのです。あけすけに言えば下記の3つの性質です。
1. 個人情報保護意識がゆるい
2. 身の安全性が比較的高い
3. おせっかい焼き
1番目については、隣人が誰なのかもわからないような都会の人と比べてそうであることは疑いありません。近所はほとんど顔見知りで、どの会社に勤めていて子どもはどの学校なんてことが近所中に漏れているのは当たり前。それどころか、最近誰が離婚したとかどんな病気で通院しているとか、超プライベートなところまでなぜか筒抜けです。コロナウィルスにかかったなら当然バレます。
2番目として、それでもし個人情報が誰かに悪用され「身バレ」したとしても、悪徳な訪問販売が来たり泥棒に入られたり、ストーカーを受けたりといった類の被害を受ける可能性は都会より低いと言えるでしょう。これも地域コミュニティに見張られているためです。私の会社の営業担当も、集落を少しうろついていると「おめぇ、どこのもんだ?」と聞かれるくらいです。同居で世代の違う家族が危険に対応してくれる場合もあるでしょう。
つまり、田舎ではそもそも個人情報の価値が低い上に、社会に守られているため、自分を開示することに大きなデメリットを感じないというわけです。
もちろん漏洩で架空請求や振り込め詐欺などにあうリスクは都会と一緒ですし、犯罪も日に日に高度化しています。そして「趣味・嗜好」といったレベルの情報と個人情報とでは扱いが違います。
従い、今後は、オプトインで情報を収集すると同時に、個人情報の大切さと開示するリスクについてしっかり教育することを並行して実施しなければならないのです。そうでないと、3番目の性質から生まれた「情報提供し、誰かの役に立ちたい」という思いが仇となる可能性があります。
「市役所の者ですが、市の行政を良くするために情報提供をお願いしています」なんて詐欺が出たらどうでしょう。それに引っかかって被害に合う例が一件でもあったならば、とたんに市民は心を閉ざして一切協力しなくなるかもしれません。これも「田舎に住む人」の性質です。
「なぜ会津若松か?」キーワード2:実証実験
前の記事で私は次のように書きました。
仕事を生み出すことができるか?が鍵
AiCTに今入っている企業は、アクセンチュアを中心として、
・会津大学との共同事業を進めている企業
・会津での公共系システムを開発していく企業
・会津若松を事業実証の場としたい企業
という風情の面々が並んでおります。
つまり、最後を除いては既に会津での仕事を得ている企業がほとんどです。
この3点目の「事業実証のチャンス」というのは思った以上に時代ニーズ・企業ニーズがあるようです。
AiCT入居企業で例を挙げれば、端的なのはTISです。キャッシュレス分野、AI・ロボティクス分野等の実証実験の場として会津若松市で研究開発したいということが自社サイトで明示的に示されています。
他にも、巨大先進企業のSAPもそうです。
SAPジャパンの場合、「1日にごみをどれだけ出しているか見える化することで町全体のごみの量を減量できないか、そんな実証実験をしたい」という例が紹介されていますが、一見地味なようでこういった暮らしと結びつきが強く社会貢献度の高い事業に対して、リアル市民の協力を一定数確保しながらデータを収集して結論を出すというのは、確かに大都市では難しそうです。被験者も、もしそれだけ急にやってくれと頼まれても「?」なので、協力してよいという雰囲気が街に醸成されていて、先につながるストーリーが周知されているのが大事に思えます。
以上は個別企業の動きに過ぎないように思えますが、以前、別記事で下の優れた書籍を紹介しました。一部引用します。
山水郷の側にとっては今が千載一遇のチャンスだと思うのは、新しい技術を実証・実験しやすい環境を整備すれば色々な企業がやってくることが期待できるからです。企業は新しい技術を実証・実装できる場所を欲しています。しかし規制や省庁・自治体の壁、既得権益などの壁が立ちはだかって、できないことが多いのです。(中略)今まで誘致しても振り向いてくれなかった企業たちが、向こうから頭を下げてやってくる。そういう可能性が今は開けています。
一部のみの引用なので陳腐に聞こえるかもしれませんが、著書全体に一貫性があり上のように言う理由もしっかり記述されていますので、ぜひ全編読んでもらいたい名著です。
簡単に言えば、ICT, IoT, AIはつまりソリューションであり、メーカーでコントロールできるものではないため、現場にしか正解は無いということです。「実証実験の場」の価値はこれからますます大きくなりそうです。
スマートシティーの標準API
今回の記事の最後に「都市OS標準APIの参照サイトプロジェクト」を紹介します。これは地元会津大学とアクセンチュアの共同開発で進められている案件であり、アカデミックな要素が多分にあるため、会津ならではの産学官コラボプロジェクトとして好例と思います。
今や公開WEB APIを持っていないサービスは遅れていると言えます。ユーザーはそこから必要なものだけを最小単位で取り出して、自社システムやサービス等に活用することができます。
しかし、活用したいデータが国や地方自治体の縦割り組織に分断されていたり、一部は大手民間企業が独占していて自社サービスのみでしか使えないように囲い込んで公開されていなかったりなんてことでは、それを活用するアプリを作ることはできません。仮に公開されていても、それぞれのAPI仕様が異なるので利用する方の開発が大変です。そのため、IFが共通化され、地域や分野を超えてスムーズにデータ取得できるようになるとすれば、大きく可能性が広がります。
実際には認証などセキュリティ面が課題となるでしょうけど、個人的な思いとしては、小学生がPythonを勉強したらすぐ叩けて自由研究で使えるような、わかりやすいIFにしてほしいと思います(できればHTTPS/JSONを希望)。
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相変わらず長くなってきたので、いったん切りますが、次もAiCTがらみで続けたいと思います。
続き↓
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