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源氏物語Su-分講座『源氏香』テキスト版

YouTube動画『源氏物語Su-分講座 源氏香』

この記事は、YouTube動画『源氏物語Su-分講座 雑学編No.1 源氏香』の内容を、文章&画像でまとめたものです。動画でなくテキストで読みたい方は、こちらをどうぞ。模様や表は、動画だと小さくせざるを得なかったので、こちらの方が見やすいと思います。

そもそも「源氏香」とは?

Q. 源氏香って何?お香の名前?
A. お香、および模様の名称です。「源氏香の図」略して「源氏香」です。

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実は「源氏物語」とは、そのルーツにおいては無関係なのです。物語が書かれた時代より、ずっと後代のお香・模様です。

ルーツは香道のゲーム

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もともとは「組香」という、香道の遊戯でした。5種類5包タイプの組香は、解答が52通りあります。源氏物語がたまたま全54巻と数が近いため、その解答を源氏の巻名で表現するようになりました。そして次第に、この遊戯そのものを「源氏香」と呼ぶようになっていったのです。

(注:香道は香りを「嗅ぐ」ではなく、「聞く」といいます!)

5種5包「組香」の遊び方!

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客(競技者)は、香炉が回ってきたら香りを聞き、紙にタテ線を引きます。二炉めが回ってきたらまた聞いて、さっきの線の左横にタテ線を引きます。このようにして五炉まで聞くと、タテ線が5本ならびます。その上で、「同じ香りだ」と思った回の線どうしを、上にヨコ線を引いて繋ぎます。

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香の銘柄や産地は、まったく関係ありません。同じ香りか違うかだけを聞き分けるゲームです。直上の図では、左右どちらの競技でも、
・右から見て一炉めと三炉めが同香
・二炉めと四炉めが、また別の同香
・五炉めのみ完全に別の香
なので、解答は両者同じ、中央に示した緑の模様となります。

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もし、全炉がそれぞれ異なる香だったら、解答はコレ↑になります。

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最初の炉だけ別の香で、あとの二炉~五炉は同香だったら、コレ↑です。

実は数学的遊びだった

5種類の香木からそれぞれ5包、計25包を作り、混ぜ合わせたのち、無作為に5包を抽出。それを順番にたき、「同じ香りか否か」を聞き分けた場合、組み合わせには何通りがあるか。…これ、実は数学の
・組み合せ
・ベル数
の問題になりえるお話です。実際、江戸時代には和算という、日本独自の数学で対象にされていました。
(答)解答すなわち、あり得る「模様のパターン」は52種類!

デザインとしての「源氏香」の意義

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5種5包の組香ゲームが流行し、次第に「源氏香」と呼ばれるようになり、その解答を示す模様も「源氏香(の図)」と名づけられるに至った…これが源氏香の歴史です。

日本には珍しい幾何学模様ですね。
(注:幾何学というのは図形・空間を研究する数学の1ジャンル。つまり幾何学模様とは、図形的なデジタルっぽい模様ってことです)

和のデザインには、チョウや花、波など曲線的なものが多いのですが、この「源氏香」模様もレッキとした伝統の和柄です! 何しろ発祥は江戸時代、模様によって吉凶や季節のルールがあるくらいですから(後述)。和のデザインで差をつけたい方、ぜひ「源氏香」模様をご使用ください。300年前に自然発生した図柄、ロイヤリティ・フリーです(笑)

源氏物語との歴史

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一点ご注意。源氏物語に源氏香は出てきません。確かに源氏物語の中にも、お香はいろいろと出てきます。が、平安当時はお香を「薫物」と呼び、多くの素材を調合して作って、服や部屋を香らすという実用目的で使っていました。
1種類の香木をひとかけら加熱して、その繊細な香りを味わい、人格を修養する…という「香道」は、源氏物語より後の時代に伝来したものです。そして室町時代の東山文化で「道」として成立し、さらにあとの江戸時代、大流行しました。その結果「源氏香」が成立し、模様そのものも和柄として定着していったのです。

以上の歴史を踏まえると、時代考証的な要点がわかりますね。例えば平安末期が舞台の作品(大河ドラマ『平清盛』とか『鎌倉殿の13人』など)に、
・「源氏物語、好き!」ってキャラが登場→OK
ですが、
・「源氏香でもしませんか?」ってセリフ→NG
という訳です。

源氏香と巻名の一覧表

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源氏香の模様に源氏物語の巻名を、実際にあてた一覧がこちらです↑。源氏香は52通り、源氏物語は全54巻なので、1巻「桐壺」と54巻「夢浮橋」を省略するのが通例です。

源氏香と季節/吉凶

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源氏物語を知っていると、源氏香模様を見たときに、その巻の内容が自然と思い出されます。江戸時代の知識人はたいてい源氏ツウでしたから、「この源氏香模様なら〇月がふさわしい、内容的にはお祝儀/不祝儀」などと、季節・吉凶が定まっていったものでしょう。

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23巻「初音」↑。光源氏一家の賑やかなお正月を描いた巻です。そのためこの源氏香模様は、正月のご進物に打ってつけです。

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33巻「藤裏葉」↑。光源氏が栄華の頂点に達し、息子・娘もそれぞれすばらしい結婚をするというクライマックスの巻です。結婚祝いに最適です。

今、源氏香はどう使われている?

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源氏物語の場面を示すマークとして、また美しい和柄として利用されています。

まとめ

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源氏物語と源氏香、ルーツは別モノですが、それぞれが日本の伝統文化として発展し、結果的には融合して、現代では引き立て合っているということです。

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フリーライター。著書『リアルな今がわかる日本と世界の地理』(朝日新聞出版)『マンガでわかる源氏物語』(池田書店)、『ぐでたまのぐうたらいんぐりっしゅ』(ナツメ社)等。旺文社サイト『英語の友』執筆担当。東京大学文学部卒。愛車はCBR250。