見出し画像

往復書簡⑤清尾→小齋「良く言えばおおらか、普通に言えばいいかげん~インドネシア」

 小齋くん、こんにちは。

 アウェイの上海申花戦は、いろんな意味で衝撃でした。
 衝撃の筆頭は、あのチームに勝てずに引き分けたことですが、その誘因となった山田暢久の警告2回による退場もそうでした。アジアのジャッジの基準がそうなのか、あの審判の個性なのか、日本では考えられなかったと思います。
 
 あとフィールドレベルで普通にタバコを吸っているチームスタッフがいたのにもびっくりしました。しかも見ると、陸上のトラックに吸い殻が落ちていました。小齋くんは、入場のときライターを取り上げられたと憤慨していましたが、あの頃の中国はスタジアム内での喫煙はOKでしたよね。それとも禁煙だけど誰も守っていないのか。フィールドでの喫煙も同じことなのかもしれません。禁煙だけど罰則がないと誰も守らない。つまりマナーとか道徳という概念が希薄で、罰則付きのルールになって初めて守られるのかもしれませんね。

岡田武史さんではありません。念のため

 ところで今回のトップ写真はテーマとは関係なく、アウェイのケディリ戦でサポーターが着ていたTシャツです。この言葉に感銘を受けたので忘れないうちに紹介しておきます。2007年のACLに際して製作したらしいです。

 さて、上海で初めて目にしたいくつかのことに気を取られて、僕はACLそのものの特性にまだ気づいていなかったと思います。何かというと、ホームとアウェイの差です。
 初戦でペルシク・ケディリに大勝したことで、アジアがちょろいと勘違いしてしまい、アウェイのシドニーFC戦で苦戦の末に引き分け。これはシドニーがそこそこ強いことの証明であり、アジアで勝つのはちょろくはないぞ、という引き締めにはなったのですが、上海申花とのドローは審判に恵まれなかったということに考えが傾いてしまったのです。

 その認識が決定的に変わったというのが今日のテーマです。
 上海から帰った2週間後、5月9日にインドネシアでペルシク・ケディリ戦を迎えました。
 いま考えると、上海戦が4月25日で、どちらもギリギリ、ゴールデンウイークを外れていて、良かったかもしれないですね。
 僕はインドネシアも初めてで、正直あんなに遠いとは思いませんでした。5月7日の早朝に家を出て、成田発9時半の便でした。ジャカルタでのトランジットで待ち時間が長かったこともあり、最終目的地のソロ?に着いたのは夜もだいぶ遅かったと思います。
 途中、飛行機の中で地図を見て「あ、インドネシアって、赤道の国なのか。オーストラリアに近いじゃん」ということをあらためて知ったほどです。まったくドメスティックな人間でした。

 向こうに着いて覚えているのが、例によってメディアグループは1台のバスでまとまってホテルに向かったのですが、チームバスと同じ会社の手配だったことで、僕らのバスもVIP待遇だったことです。
 途中、窓から外を見ると、ほかの車が道の両側に駐車しているのですが、その停め方がバラバラでした。「インドネシアってドライバーのマナー悪いなあ。きちんとまっすぐ停められないのかよ」とずっと思っていたのですが、あまりにもそれが続くので「待てよ」と思いつき、バスの後方の窓から見ると、停まっていた車がどんどん動き出しています。それでようやく、あの車はマナー悪く駐車していたのではなく、このバスを避けるために一時停車していたんだと。正確には、チームバスを先導するパトカーによって追い払われていたわけですが、選手バスに続いて走っていた我々のバスもその恩恵を被ったということですね。

チームバスを挟むように先導するパトカー(小齋秀樹撮影)

 「せっかく道を譲ってやったのに、駐車マナーが悪いだと!」と、運転手が聞けば怒りそうなことを考えてしまったわけで、反省しました。そういえば、旅行会社の人が「普通3時間ぐらいかかりますが、そんなにはならないと思います」と言っていたような気がします。

 ホテルに着いて遅い夕食を食べて寝ましたが、小齋くんが「ミディアムレア」のステーキを注文したのに出てきた肉がかなりこげていて、文句を言ったのを覚えています(笑)。考えられないですよね。でもインドネシアではよくあることなのかも。

 というのは翌日、前日練習に行った時のこと、スタジアムの周りの広場のようなところに試合を知らせる横断幕のようなものがあって、そこに書いてある試合時間が「15:00」となっていたからです。実際には15時30分キックオフです。

一番下の黒地に白抜きで書かれているのが試合の日時。本当は15時30分

 現地のガイドに尋ねましたが、なぜそうなっているのかはわからず、単純に間違えたか、さもなくば30分早く言っておかないとみんな時間どおりにこないからだろう、という返事で、どっちにしてもいい加減だな、と思いました。でも30分の違いを言い募る我々が細かすぎるのであって、彼らはそれぐらいは誤差の範囲という、おおらかな国民性なのかもしれません。
 前日練習には、日本語学校の生徒たちだという、現地ソロ市の高校生ぐらいの集団が横断幕を持って激励に来ていました。

日本人学校ではなく日本語学校なので、生徒はインドネシア人

 そもそも、ペルシク・ケディリの本来のホームスタジアムが水害か何かで使えないため、このマナハンスタジアムは臨時に使用するのだと聞きました。それで照明設備がないために、明るいうちに試合をやるのだと。
 この暑いのにデーゲームで、選手は大丈夫なのかと心配でしたし、自分らも暑いけど、ホテルで買った水以外は飲みたくないし、と注意していました。
 水と言えば、試合の後に聞いた話です、
試合中に選手が飲む水はそれぞれのチームが用意するのですが、規定によりチームの専用ボトルを使うことができず、市販のペットボトルのラベルをはがして使うことになります。そうすると、相手のボトルと区別がつかなくなるのが困るということになり、スタッフは持って行ったステッカーをボトルに貼ったそうです。それがたまたまマネージャーの水上さんが持っていたMDP300号記念ステッカーでした。このケディリ戦の前のホームゲームが5月3日にあり、それがMDP300号で、記念ステッカーが付録としてついていたのです。試合当日、選手のロッカールームに30冊くらいおいてあるMDPから水上さんがステッカーだけ抜いておいたのでしょう。

このMDPの付録が300号記念ステッカーだった


 捨ててしまうことになるペットボトルにステッカーを貼るので水上さんは「清尾さん、ごめん」と言いながら貼ったと言いますが、選手の役に立つ使い方をされて良かったです。ステッカーをとっておいた水上さん、GJです。

 試合の詳しい経過は相変わらず小齋くんにおまかせです。
 エピソードと言えば、試合のだいぶ前にレッズサポーターが陣取るスタンドの下、URAWA BOYSの旗の前で、インドネシアの民族舞踊のようなものが始まったことにびっくりしました。おもてなしなのでしょうが、すでに気が立っているはずのレッズサポーターの心にうるおいを与えられたのかどうかは不明です。 

サッカーのリズムとはかけ離れたテンポのおおらかな踊り

 気づいたのは、ケディリサポーター側のスタンドの前に踊り場のようなものがあって、そこで文字どおり若い女性(というより子ども)が踊っていたこと。体を動かしながら応援のリードを取っていたのかもしれませんが、応援に合わせて踊っているとしか思えませんでした。

ケディリサポクイーンだったのでしょうか

 そして驚くなかれ、相手に3点も取られたこと。 3月7日のホームでは、3-0というスコア以上に実力の差があると思われたペルシク・ケディリに3失点して3-3のドロー。本当に2か月前と同じチームなのか、と言いたくなりました。そのとき、ACLではホームとアウェイで違うチームのようになる、ということに気が付いたのです。

 血の気が引きました。3引き分けは2敗と同じ。1位しか抜けられないグループステージの突破に黄信号が灯った気がしました。
 でも、試合後はとにかく仕事を終えて帰ることを優先させました。僕が考えても何かが変わるわけではないし。でもインドネシアに来て感じた、おおらかというか、ゆる~い空気は一掃されました。

 そしてスタジアムのどこかに貼ってあったものです。
 お約束のような間違いですが、インドネシアらしく、だいたいは合っています。

スタジアムの中のレッズ側控室?だったかな

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?