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#03 地均しがもたらすもの [結城正美]


 田んぼの大区画化が進んでいる。「大規模化をおこなえば、効率的に機械が使え、費用が割安になります」(農林水産省)、ということらしい。白山麓の我が家周辺の十枚余りの田んぼは、河岸段丘の名残で段差があるから対象外だろうと思っていたが、数枚ずつまとめて二つの大型田んぼにすることになった、と春に知った。地均ししてまでやるとは。小さな集落のことだから、母も含めて土地所有者は「上」の言うことに黙って従ったのだろう。用水路も当然、新品コンクリート製になる。もう蛍が見られなくなるのか。風景の破壊は生態系の破壊を意味する。
 一番高い段にある実家の田んぼには、稲作も畑作もやめた後、樹木を植え、採れた梅で母が梅干しを作っていた。私もかつてヨモギを摘んで草団子にしたり、裏山から移植して大きく育ったウドを摘み、天ぷらや味噌汁にした。なにかと楽しい高台で、眺めもよい。工業的田んぼにするよりも、ピクニックテーブルでもおいて農作業を眺める場所にすれば人が集まるのにね、と大学生の息子が言った。
 集落の爺さんたちは、自分が死んだら田んぼを世話する者がいなくなる、と言って機械化を進める。そんなの放っておいてくれたら、田舎好きの若者がなんとかするのに、と息子がつぶやいた。田舎が田舎でなくなると若者は離れるよ、とも。

結城正美(ゆうき・まさみ)
白山麓での半農生活を経て、2020年より青山学院大学文学部英米文学科教授。専門はエコクリティシズム(環境文学研究)。モア・ザン・ヒューマンの雑種的信条で土をいじり、植物の根の惑星的次元を追究。近刊に『文学は地球を想像する——エコクリティシズムの挑戦』(岩波新書)。

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