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経験がすべて仕事になる職業

英語のお仕事をしています。

フリーランスは仕事の内容や量の調整がしやすいので、2016年にオストメイトになってからも体調やストマのコンディションに合わせて緩急をつけつつ比較的ゴリゴリと(笑) 働いています。

英語の仕事の面白いところは、過去の経験がすべて仕事になることです。

とあるご縁でオストメイト関連の翻訳案件もいただくようになりました。

軸足は英語発音指導

えいご発音塾こまば音庵 (おんあん) というスクールで、歌手、俳優、声優、ビジネスエグゼクティブ向けにアメリカ英語発音の指導をしています。

英語発音デザインのお仕事は、英語アレルギーのまま23歳で渡米し、バークリー音楽大学でゼロから勉強した知識と経験の全てをオリジナルメソッドに体系化し、お伝えしています。

音楽翻訳/音楽通訳

また、ボーカル関連の指導書翻訳、音大やオンラインで開催される音楽ワークショップやレッスンの同時通訳(その場で日本語字幕を作成表示することも)では、

専門用語の解説や指導のニュアンスなども適宜補足しながら読者や受講者の方の成長にきちんとつながる訳をお届けしています。

恩師でバークリー音楽大学ヴォーカル学部長 Anne Peckham の教科書改訂翻訳をご依頼いただいた時は、感動で本人にメール報告しました(笑)

辞書のように厚いジャズボーカル指導書翻訳でご一緒したUCLAの Michele Weir とは、来日ワークショップやオンラインセミナーなど、さまざまな場所で今でもご一緒させていただいています。

大学はジャズ/ポップス/R&Bを歌うことがほとんどでしたが、帰国後はクラシック楽譜出版社が主催する「原典版(楽譜の編集方針のひとつ)」のワークショップや、日本の音大講義を通訳させていただくこともあります。

クラシックは専門ではないので、毎回必死で予習しながら... 緊張感をもってお仕事に臨みます(笑)

他にも歌詞のローカライズ(英語の歌を翻訳してメロディに当てはめ、日本語曲として歌える状態にする。日本語曲を英訳する場合もあります)や、

ドラマや映画の英語台本の音読オーディオ作成、洋楽曲のレコーディングや英語を含む台詞の撮影の立ち合いなど、いろいろお声がけいただいております。

オストメイト関連の翻訳案件

意外だと思われるかもしれませんが、身体を楽器として扱うヴォーカル専門書の翻訳/通訳には、解剖学的な知識が問われます。

英語発音の指導も、顔まわり~首~上半身のあらゆる筋肉の動きを丁寧に追いながら進めてメソッドを使うので、音楽の専門用語と同時に医療系の英語を扱っているような感覚はありました。

それがまさかこんな形でお仕事になるなんて。

私のYouTubeチャンネルインタビュー記事をご覧くださった某ストマ装具メーカーの方からご連絡をいただき、翻訳のお仕事をいただくようになりました。

装具メーカーはほとんどが外資系企業なので、国によって違うオストメイトを取り巻く環境についての報告書や、独自アンケートの結果を海外の本社に伝えるための英訳案件がたくさんあるのだそうです。

社内に英語が堪能な方がたくさん居られるのでは?と聞いたとき頂いた「オストメイト当事者の方の感覚で翻訳をお願いしたくて」というお返事に胸が熱くなりました。

それはもう、PCの前で文字と向き合う気合いが変わりますよね。

病人の辞書に「頑張れば何とかなる」はない

大企業や学校がフリーランス翻訳者を雇うさいには、さまざまな社内事情が邪魔することが多いのですが。

教育関係でも、音楽関係でも、装具メーカーさんまで!その手間をいとわずお仕事を依頼してくださる想いが本当に嬉しいです。

これはいよいよ責任をもってお仕事をしなければ、と、体調管理に気を遣うようになりました。病人の辞書には「頑張れば何とかなる」なんて贅沢な言葉はありません。

焦りにまかせてノープランで無茶などしようものなら、体調を崩してむしろ先方のご迷惑になるだけです。

冷徹に自分の体力と受けられる仕事の量を調整しながら、焦らず地道にお仕事を続けていくしか、ないんですよね。

手術直後の通訳ツアー

今はすっかり慣れましたが、オストメイトという他人より個性の強い身体になった当初は毎日オイオイ泣いていました。

装具の扱いに慣れないうちは漏洩事故(パウチに溜めた排液が漏洩する)も多く、外に出ることが怖くて部屋に閉じこもったまま半年くらい無駄にしました。

その間に唯一した仕事は、本を翻訳したMichele Weirの来日ツアー通訳。

手術のずっと前から、就労ビザの申請書類作成段階からずっとお手伝いさせていただいたので、コレだけは絶対に穴をあけるわけにはいかないと10日間フルでお仕事させていただきました。

不思議なもので、こういう時にはスルっと乗り切れちゃうんですよね。

主催者の方にもMichele本人にも気を遣わせてしまっていたのだろうとは思いますが、信じてお仕事させてもらえたことが心の支えになりました。

英語で気持ちが救われた

失意の日々(笑) を支えてくれたのは、海外のオストメイトの人たちが集まる非公開SNSコミュニティでした。

「これから手術!」という投稿に何百というコメントがついたり、「もうこんな身体つらい」と打ち明けるメンバーに対して、全員が心からの応援メッセージを送ったり。かと思うと、日本人の価値観では考えられないような自虐下ネタの写真つき投稿が投下されたり。

世界中のオストメイトのリアルな日常を読んだり、自分でも投稿したりしているうちに。ひとりで部屋に閉じこもっている中でもすこしずつ、自分の身体とうまくつき合っていこうという気持ちが育っていったように感じます。

辛さや痛みの真ん中にいるときには、自分の世界の外に目を向けることが難しいことももちろん、ありますが。

私にとって英語は、オストメイトという身体と気持ちよく向き合うツールとしても役に立ちました。

身体に事情はあるけれど

英語には "Second chance" という言葉がありまして。何らかの事情でその場を離れた人が復帰や再起をはかる「やり直しの機会」という意味です。

日本では、そう簡単には Second chance をもらえません。出産や病気などで現場(職場)をいちど離れてしまうと、まったく同じ部署には戻れないことも多いと聞きます。

そもそも個人事業主なうえポンコツの私なんて、どこの組織にも入れてもらえないでしょう(笑) 

とはいえ、今、とても心地よく日々を過ごせているので、幸せです。

自分にできる仕事だけに集中し、オンラインでの発音レッスンと自宅での翻訳/通訳のバランスを取りながら、身体に負担のない形で働く。

オストメイトであることすら仕事のプラスにできたので、今後まあまあ何が起きても、生活していけるような気がします。

変わった身体に合わせて仕事の仕方をイチから見直してみたら、こんなスタイルになりました。

規格外ボディが社会復帰をした一例として、
ふーんとお読みいただけたら幸いです。

こんな私ですが、あなたと一緒にお仕事をする機会があれば嬉しいなと思っております。お請けしているお仕事の詳細はコチラで、お問い合わせはコチラで承ります。

なにか新しいことができますように。
近々お話できますように。


英語発音デザイナー
中島小百合

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