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「茨城大大大爆発」~ヒカリノハコが魅せた虹~2021年5月30日(日)at 水戸エクセル本館屋上【ライブレポート】

晴天の水戸、予想最高気温は23℃。
主要な都市部には緊急事態宣言が出されている状況下であったが、水戸市は26日に新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置の対象から外れた。
いつもの日曜日とは言えないのだろうが、水戸駅構内には多くの人が行き交っていた。
水戸の駅ビルであるエクセル本館の屋上は夏はビアガーデンとなる場所だ。そこに向うエレベーターに乗ると、透明なガラスから駅前の風景が見える。再度扉が開くと、駅の真上だとは感じさせないような、スポーツが出来そうな人工芝が敷かれた広いスペースが見えた。
ここが「ヒカリノハコ」presents「茨城大大大爆発」の会場だ。

「ヒカリノハコ」とは、THE BACK HORNのVo.山田将司とCOCKROACHのVo.遠藤仁平を発起人とする、コロナ渦で苦しむ茨城県の音楽シーンを活性化させるために始動したプロジェクトである。2020年8月15日、40人以上のアーティストが参加した楽曲「命の灯」をリリースし、4月16日には25組のアーティストが参加するオムニバスアルバム「茨城大爆発」をリリースした。
音源やグッズの収益は、今後水戸の音楽シーンの活性化や水戸から世界へ音楽を積極的に発信できるツールの開発、それらの支援のために様々な取り組みを行っていく上で必要な資金に使用するとのことだ。


今回「茨城大大大爆発」は、ヒカリノハコとして初めての音楽イベントだ。
第1部はフリーライブとして「茨城大爆発」に参加したアーティスト8組と、茨城を中心に活動するアーティストの計13組が出演し、12時より5時間半に渡り会場に音楽が鳴り響いた。その中には、一青窈の「ハナミズキ」の作曲者であり、Lucky FM茨城放送でラジオ番組を持つマシコタツロウも含まれている。

エクセル本館の屋上は十分な広さを持つ会場だが、さらに感染症対策としてソーシャルディスタンスを保てるように座席が設置されていた。
後方にはテーブル席も用意されており、長丁場のイベントではあるがストレスなく滞在出来るような工夫がされていた。
また、ヒカリノハコのグッズ販売や、エクセル内の新星堂から出演者のCD販売があり、フリーライブで気になったアーティストがいれば即音源を購入出来るようになっていた。

出演者の多くは、アコースティックギターやキーボードでの弾き語りが主であったが、ラップスタイルの出演者もおりバラエティに富んでいた。
茨城は発起人らの所属バンドが持つダークな血を引き継いでいるのか、土壌がそうなのかわからないが、概ね曲調が暗かったり、ネガティブ部分を遠慮無く表現する部分があった。また、イベントの第2部としてエクセルホールで開催されたLucky FM茨城放送の公開収録で登場したMUCCのGt.ミヤは「茨城大爆発」のマスタリングも担当おり、聴きながら〈眠れない〉という歌詞が複数登場していたことを指摘している。
しかし、太陽の下で聴く彼らの生の音は、生きていこうとする生命が、もがいたり足掻いたりする姿でさえ心地よいものに変える瞬間があった。

今回は13組の出演があったが、抜粋してこのイベントで伝説として語られるであろう出演者のシーンをレポートする。
天候はよかったが、イベント中に二度の通り雨を経験した。一度目の雨は濡れても差し支えない程度であったが、二度目は公演を中断することとなった。
それは、16時台に登場したバンド「ane-mone」のVo.である大谷修登の時だ。
「茨城水戸はシンガーソングライター大谷修登です」そう挨拶をした頃には、会場の照度が下がり、湿度が高くなっているのを肌で感じた。
空を見上げると、会場の北方より暗雲がこちらに迫ってくるように流れて来ていた。
大谷の出演前に確認した「雨雲レーダー」は、局地的に雨量の多い赤色や黄色となっている部分が、水戸の中心地を通り過ぎる予報となっていた。
主催者もこのことを把握しており、大谷の出演前に通り雨が来ることを告知していた。

1曲目の「東京」で、大谷のハスキーだが大人になりきれない少年のような無垢な声が響き渡った直後、雨粒が肌に当たった。そしてすぐに雨脚が強くなり、大半の客が雨に濡れない場所に避難し始めた。
しかし、最前列付近に座っている数人は、決してそこから離れようとはしなかった。
1番を歌い終わった大谷は「どこにいてもちゃんと歌えますから、安心して楽しんで!」と、残っている目の前の客に向けて、そして雨宿りしている客にも向けて気遣うように叫んだ。そして、どんどん雨脚が強くなりゲリラ豪雨の様相を見せてくる。
演奏後半で、客席から傘を差した女性がステージに上がり、横からすっと大谷が濡れないように腕を伸ばし傘の中に入れた。
それでも、傘はほとんど役には立たず、大谷は何も無かったかのように歌い続ける。
その中で〈あの日の雨に手を振る〉という歌詞を耳が捉えた。このシチュエーションに合わせて大谷が即興で歌ったのだ。
曲が熱量を増していき、母が主人公にアドバイスする歌詞に差し掛かる。
〈ちゃんと生きて死になさい〉と。
雨に打たれて生きている大谷がその中で〈死にたい 生きたい〉を繰り返す。
そして最後に〈生きたい〉と歌いきった。
すぐに「ありがとう!!!」絶叫するような声で大谷は叫んだ。
観客は歓喜するように立ち上がり、ガッツポーズをする女性もいた。

司会の女性が間髪入れず、一時中断することを声高に叫んだ。そのアナウンスで最後まで客席に残った数人の客も避難を開始した。
遮るものが一切ない屋上で、屋根があるスペースはエレベーターホールなど一部にしかない。
しかし、通り雨を予測していたため、事前に非常階段の扉を急遽解放しており、全員が雨に濡れない位置まで避難することが出来た。
雨どいから排出される雨水が次第に怒濤のような水量となり、溢れ飛び散っている。
その音と雨の音だけが響く中、ヒカリノハコのグッズである布マスクをハンカチ代わりに涙を何度も拭った。
演奏中から涙が止まらなくなっていた。何にとか、何がとか考えれば理由は挙がるだろうが、それを追うつもりはなかった。
しばらくして、西の方から光が射してきたのを肌で感じた。
そして、確信した。きっとそれは居るはずだ。それを見ようと雨脚が弱まった野外に飛び出してみると、やはり居た。
二重の虹が、袂はハッキリとは見えないけれど堂々と存在していた。

雨が止んだ。
司会の女性がライブの再開時刻についてアナウンスした後に「虹が見えてます」と伝えると、避難していた人が一斉に屋外に出てきて写真を撮ったり感動を声に出したりしていた。
この場所がヒカリに包まれたドラマティックな瞬間だった。
「ヒカリノハコ」とはライブハウス「水戸ライトハウス」のことを例えたネーミングであるが、その名前を越えたものを見た。

「雨の中、前で見てくれた人も、横に避難してくれた人も、帰らないで見てくれて本当にありがとう」
大谷はそう話し、茨城大爆発にも収録されている「drawing」でライブが再開した。
〈外れた天気予報 それでも出会えたこの奇跡を〉という歌詞は、まるでこの瞬間のことのようだった。
さらに最後の曲のタイトルは「umbrella」であった。
大谷は雨男との話である。会場にいたヒカリノハコ発起人の山田も雨男であるが、このタイミングで雨を降らし、虹を見せたのはイベントに参加した人々の力だったのではないだろうかと、あの瞬間を反芻している時に感じた。
その後、多少の時間の遅れはあったが無事にライブが進行し、森公一のギター弾き語りでイベントは終了した。

序盤では客と距離感を感じながら探るように話していた司会の女性が、最後には同じ一日を超えた仲間のように寄り添うような声で、今回のイベントの感謝を語った。 

出演者の小泉涼介は、今回1年4ヶ月ぶりに人前に立ったことと、活動の継続について悩んでいたことを話した。
彼のように、長らくライブが出来なかった出演者は、今回のイベントで人前に立つという良い機会になっただろう。
また観客は、屋上という開放感と感染リスクの低い場所で音楽に触れることが出来るため、ライブハウスよりもハードルが低く感じて参加した人もいただろう。

イベントの数日後にヒカリノハコのTwitterより、イベントの感謝を述べる内容のツイートがあった。
そのツイートには「音楽が無くても死ぬことは無いですが」と書かれていた。
それは正解ではあるが、間違ってもいる。確かに物理的な身体は死なないが、心は死んでしまう。
2020年、音楽に直接触れられる場所から離れる生活を強いられた時に感じたことだ。
生きている実感を失ってしまいそうになっていた。そういう意味で「音楽が無いと死ぬ」という人達は確実に存在するのだ。
そんな不器用な人達が、音楽がなくても生きていこうと無理に足掻く時、何かが壊れていくのだろう。
前出のコメントの続きがある。
「音に生で触れればより豊かな日々を過ごすことが出来ると信じています。」
だからこそ、どのような有事の時にでも音楽に触れたり、人と人を繋ぐヒカリとなる場所は必要であり、その場所と人をなくさないように活動しているのがヒカリノハコなのである。
光の速度は、地球を秒で7周半する程に速い。そんな音楽の「ヒカリ」をヒカリノハコがこのイベントで生み出した。

「大切な人が、大切な場所が、生き続けていく為に。」
このプロジェクトを始動する際、ヒカリノハコのホームページで山田将司がコメントしている。
生き続けていく為に、生み出したわずかなヒカリの元に何が育つのか、その先の風景を見てみたい。

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『茨城大大大爆発』
【出演者】
片貝俊幸
ビザール北山
ナガイリョウ
朝日駿
小泉涼介
後藤ヒロフミ
AKT from BEAST WARS
マシコタツロウ
Breaker the TV
平山舞桜
大谷修登
山田俊輔
森公一

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OMNIBUS ALBUM 『茨城大爆発』 2021年4月16日 RELEASE 
収録曲 

DISC 1
はらち 「日差し」
goomiey 「2020」
オルドバイ 「ノスタルジーブギウギ 」
ヒヨリノアメ 「星空とヘッドライト」
大谷修登 「drawing」
Breaker the TV 「電球時代」
obi 「Each of Life」
B.F.A 「destiny」
後藤ヒロフミ(透明なままで) 「落ちてゆく、無力なまま」
スーパーアイラブユー「Spectacles」
BxAxG 「リアライブ」
朝日駿 「ラスト・フォー・ライフ」
MARQUEE BEACH CLUB 「HELLO」

DISC 2
スマトラブラックタイガー 「素晴らしい世界」
たんげまこと 「Yozora」
磯山純 「指標」
森公一 「始まりの歌」
the dinord 「barak〜愛が2つ足りない〜」
yobai suspects 「Phantasia」
WRECKingCReW 「リグレット 」
真空ホロウ 「茨城のうた(ヒカリノハコ ver.) 」
山田将司 「トワ」
COCK ROACH 「死海の祭灯」
MUCC 「落陽」
178R 「茨 -イバラ-」

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