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《女の愛と生涯》訳詩──6.愛しいひと、あなたは見つめる

愛しいひと、あなたは見つめる
わたしを不思議そうに
それがわからないのね
なぜわたしが泣いているか

湿った真珠の
不慣れな飾りを
喜ばしく明るく震えさせて
その眼差しの中に

なぜこんなにわたしの胸は不安なのかしら
なぜこんなに喜ばしいのかしら!
ただ言葉を知っていたらいいのに
どう言い表すべきか

来て、そしてあなたの顔をうずめてちょうだい
ここに、わたしの胸に
あなたの耳に囁いてあげたい
わたしのすべての気持ちを

わかるでしょう、この涙を
わたしが泣いているわけを
あなたはそれを見せないで
あなた、愛しいひと

わたしの胸にとどまって
鼓動を感じて
かたく、しっかりと
あなたを抱きしめられるように

わたしのベッドのここに
ゆりかごの場所があるわ
静かに、見せないのね
わたしの優美な夢を

朝が来ると
夢がさめて
そこからあなたの似姿が
わたしに笑いかけてくれるのね



6月23日に演奏する、
シューマン作曲の歌曲集《女の愛と生涯》。

ひとりの女性が愛する男性と出会い、
彼の子供を産み、彼を見送るまでの生涯を描いた作品です。

一日一篇ずつ、
シャミッソーの詩を訳していきます。
(平日のみ)

第六曲「愛しいひと、あなたは見つめる」では、
身籠った女性の静かな喜びが歌われます。

愛する伴侶と見つめ合い、
不安と喜びを吐露する女性。

すでにその言葉には、
母親としての覚悟が宿っています。

全曲のなかでも、
もっとも静謐な時間が流れる第六曲。

夫である男性は妻に、
聖母の面影を感じているのかもしれません。



演奏は、ジェシー・ノーマンです。




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